2007-07-31

村瀬学『13歳論』

murase.jpg● 村瀬学『13歳論』(洋泉社)

 振り返ってみるに、90年代というのは「子供」という存在が問い直された時代だったと言えるかもしれない。援助交際、酒鬼薔薇聖斗、学級崩壊…。それまで「子供」という枠組みの中に押さえ込まれていた人間という生物の何かが、噴出し始め、「大人」の価値観を動揺させ続けた。

 そうした中でさまざまな議論が起ったが、本書は子供と大人の境界を13歳という年齢にすることに徹底的にこだわった「13歳論」である。だからといって、著者は成人年齢を引き下げることによって単純に「早期厳罰主義」や「早期一人前主義」を訴えているわけではない。「いま一度『子ども』というイメージと、『大人』というもののイメージを、明確な理念のもとに見直す作業」をすべきだと提案している。

 これも近代という時代のありようを検証する営みのひとつであろうし、近代によって社会から抑圧、排除されてしまった人間のダークサイドをいかに再び社会の中に位置づけていくのか再考する試みだと言える。

 著者はこの13歳という設定を根拠付けるために、先ず、文学の中に現われる13歳の「力」を探っていく。『ロミオとジュリエット』のジュリエット、『十五少年漂流記』のリーダー、『山椒太夫』の安寿と厨子王…。そうした分析によって、現代の私たちの社会が中学生の「力」を過剰に低く見積もってきたことが浮き彫りにされる。

 もちろん、「13歳境界説」を説得力のあるものとするためには、生理学的なデータも検証されるし、心理学的な自我論も主張される。さらには、13という年の独特な意味を明らかにするために、「暦」の「十二支」と呼ばれる考え方までが解析される。著者の13歳へのこだわりと、それを理論付ける博識には驚かされるばかりだ。

 そうした作業によって私たちは、子どもたちが近年変化を遂げたのではなく、近代社会そのものに人間への認識不足があったのではないかという疑問を著者と共有するようになる。

 子供の自由を押さえ込めばなんとかなる、という発想がいかに短絡的なものかを、この本は明確に語りかけてくれる。

*初出/十勝毎日新聞 1999