2007-07-21

小田切明徳/橋本秀雄『インターセクシュアル(半陰陽者)の叫び』

● 小田切明徳/橋本秀雄『インターセクシュアル(半陰陽者)の叫び』(かもがわ出版)

 90年代に入り、ゲイ→レズビアン→バイセクシュアル→トランスセクシュアルと、性的少数者たちのカミングアウトが拡大してきた。皆、それまで隠蔽されてきた差別の問題を訴え、自己の存在を肯定的に取り戻そうと、力強く宣言した。

 そうした流れの中から、これまで決して世間で語られることのなかった性的存在、インターセクシュアルの人たちも「叫び」をあげるに至ったのが、『インターセクシュアル(半陰陽者)の叫び』である。

 インターセクシュアルとは、これまで半陰陽とか「ふたなり」と呼ばれ、生物学的に中間的な性のもとに生まれてきた人たちである。

 「この世には男と女しかいない」という常套句とは裏腹に、「この世には男と女しかいないとされてきた」というのが事実であって、「男」と「女」の間には、実に多様な性のありようがある。本書が論じるように、性は生物学的な面だけをとっても、性染色体、性腺、内性器、外性器、二次性徴、などさまざまな要素から成り立つ複雑系といえる。

 「たぶん不完全型精巣性女性化症候群であろう」という著者の橋本さんは、インターセクシュアルとして初めてメディアでカミングアウトした、勇気あるアクティビストである。日本半陰陽協会という団体を設立し、現在インターセクシュアルをめぐる医療の問題などを激しく追及している。

 橋本さんが批判する、インターセクシュアル幼児へのインフォームドコンセント(告知した上での同意)を無視した「治療」の問題(医師だけの判断で性器が手術されてしまう)は、心理学、精神医学、性科学、法学などの分野で、多くの論議が必要とされるだろう。性的二元論に触れる複雑な問題をはらむため、議論に決着がつけられるのは、まだ難しいかもしれないが、当事者の意見に耳を傾ける必要があることは言うまでもない。

 男と女の間には幅があり、それは生物学的な面ばかりでなく、心理の面でも同じである。トランスジェンダー、トランスセクシュアルと呼ばれる人たちは、インターセクシュアルのように中間的な性ではないが、自らの性とは異なる性自認を抱いている。その中にも反対の性に転換せざるをえない、高い緊張を抱えた人たちもいれば、中間的なありようで満足できる人たちもいる。

 昨年の、埼玉医科大学の答申以後、こうした「性同一性障害」をめぐる動きは活発化しているが、この問題を海外の取材なども交えてレポートにしたものに、松尾寿美子『トランスジェンダリズムーー性別の彼岸』(世織書房)がある。著者は、同性愛やフェミニズムなど、多角的な視点からトランスジェンダートというものに迫ろうと、考察を深く掘り下げている。

初出/現代性教育研究月報 1997.11