2006-01-02
固有名詞の世界
僕は固有名詞が苦手だ。人や物の名前をなかなか覚えないし、テレビCMでもそれが何の商品をあつかっているものだかほとんど知らない。関心があまりないのだ。
物事を骨格で捉えるような思考が染み付いて、骨と骨の間にある肉の部分が視野に入らないところがある。またそういうタイプゆえに社会という項に関する考察をしてこれたとも言える。30代からは何事につけ目的と結果という図式にしか興味が持てなくなっていたかもしれない。
『魔女の息子』を書く以前から、「小説は書かないの?」とたまに言われたていた。でも文学は、とりわけ肉のところを言葉にするものだから、自分には向かないと思っていた。それがひょんなきっかけで書いた小説で文藝賞をもらったのだが、それでも、一向に固有名詞への関心が膨らまかった。
けれど、散歩をして元気になってくると、子供のような好奇心がむくむくと起き上がり、物の名前を知りたくなってきた。これまで草花や、動物などにはまったく無関心だったのだが、「これって何と呼ばれているのかな?」と当たり前のことを思うようになった。だから、ユリカモメ(写真)というのが新橋のあたりを走っている乗り物だけじゃなくて、本来、そういう鳥がいるという事実に、驚いた。