2002-03-18

ソウルの書店は元気だった!

3月11日から13日までソウルを旅してきた。そこで今回は急遽、ソウルで見てきたこと、考えたことを書いてみたい。
 
私が訪れたこの時期は4月からの観光シーズンの前ということで、観光客は少ないはずだった。しかし、意外と日本人の大学生のツアー客が多かった。大学は春休みに入っているし、手軽なショッピングが楽しめるところからソウルは人気があるのだろう。ひょっとすると「卒業旅行」なのかもしれない。
 
朝10時過ぎに関西国際空港発の大韓航空722便に乗り、仁川(インチョン)空港を降りたのが11時半頃。関西からだと韓国は北海道に行くより近いと感じる。景福宮、国立民俗博物館、東大門を1日目に訪ね、2日目には利川で青磁器の窯元、韓国民俗村などを見学、3日目に南大門市場(ナンデムンシジャン)、仁寺洞(インサドン)、明洞(ミョンドン)を回った。
 
国立民俗博物館ではおりしも「隣りの国、日本」展を開催していた。これは日本の国立民族学博物館と共同で両国の暮らしを理解しあう機会を作ろうという特別展である。景福宮のすぐ東にある博物館に入ると、右手にさっそく特別展の入り口があり、第1部「お婆さんの家」が展示されている。ここでは京都で一生を送った日本のお婆さんの暮らしぶりが紹介されている。第2部「誕生から墓まで」はごく一般的な日本人が生まれてから死ぬまでの通過儀礼を紹介。第3部「現代の日本文化の読み取り」では若者の生活とファッション、スポーツと娯楽、音楽とアニメーションなどが展示されていた。
 
宮参り、七五三、ひな祭り、成人式、結婚式、葬式などの展示のうち、特に葬式のところでは思わず「うまく出来てるなあ」とうなった。2年前に私の父と妻の母が相次いで亡くなったものだから記憶に新しく、展示がきわめてリアルに再現されているのに驚いたのである。日本の文化の展示を韓国の博物館で見学するということは、とても奇妙な体験だった。日本のコギャルの写真や、現代の若者の一人暮らしの部屋がそのまま再現されているコーナーも興味深かった。特別展の全体を通して、アジアに規定されながらもグローバリゼーションの波に呑まれた日本の姿がそこにはあるように私には感じられたのである。
 
日本では国立民族学博物館で3月21日から「2002年ソウルスタイル~李さん一家の素顔のくらし」という特別展が始まる。まさに韓日共同開催なのである。
 
ソウルの書店を見たいと思った。そこで東大門に行ったときには地上10階、地下2階のファッションビル「doota!」(ドゥータ!)の裏側にある古書店が立ち並ぶところを見て回ったり、骨董と雑貨の街・仁寺洞(インサドン)でも古書店を見たりした。
 
しかし、なんと言っても新刊書店では世界最大級といっても過言ではない「教保文庫」(キョボムンコ・Kyobo Book Center)が圧巻だった。「教保文庫」は光化門(クァンファム)にある。韓国の機動隊の物々しい警備が目立つアメリカ大使館の近くの教保生命(Kyobo Life)の22階建てのビルの地下1階ワンフロアーすべてが書店になっている。地下鉄に直結している大通りの地下道から書店の入り口に向かうと、世界の作家の肖像ががデッサン風に描かれていて、ショーウィンドーを飾っている。見ると大江健三郎氏の肖像もあった。入って左側はホワイトデーのプレゼントの特設コーナーになっていた。韓国のホワイトデーのプレゼントは半端ではない。「教保文庫」は書店なのでさすがにそれほどでもなかったが、たいていの商店ではまるで入院患者へのお見舞いのメロンでも詰まっているのではないかと思えるほどの巨大なカゴにぬいぐるみやお菓子をいっぱいつめて、13万ウォン(約1万 3000円)とかで販売していて、若い男性が品定めしているのである。
 
地下1階ワンフロアーといっても広大な売り場面積である。端から端まで150メートルはあるだろうという巨大書店なのである。帰国してからインターネットで調べると1981年6月にオープンした「教保文庫」はなんと2704坪もの売り場面積を誇っているという。日本最大でも2000坪くらいだから、圧倒的な広さである。そして、ソウル市内の商店はどこでもそうだが、この書店の売り場も熱気にあふれていた。そして、日本と比べると若い人の姿が目につく。レジ近くにあった売り場案内をもらって見ると、次の19の売り場に分類されている。

1.マルチメディア、2.子どもの本とアニメ、3.未就学児童と女性、4.科学、5.工学、6.コンピュータ、7.外国語学習、8.芸術・スポーツ・趣味、9.自然科学、10.社会科学、11.日本語、12.政治・法学・社会学、13.経済・経営、14.人文科学、15.宗教、16.中学・高校、17. 辞書・雑誌、18.ノンフィクション・詩、19.フィクション

そして、店内には10台のタッチパネル式の書誌情報検索端末機があって読者は自由に検索していた。日本語の本のコーナーは非常に充実していて、文庫・新書、単行本、雑誌がどっさり。そこだけで日本の小規模の書店ほどの面積を占めていた。本の裏に元のバーコードを塞ぐように別のバーコード・シールが貼ってあり、450円の文庫を600円で売っているという感じの価格付けだった。
 
韓国の出版界では現在、オンライン書店の値引きが中小書店の経営を圧迫しているといわれている。この「教保文庫」でもホームページでは20%から30%の値引き販売を宣伝している。そこで韓国では現在、刊行されてから1年以内の書籍を10%以上値引きすることを制限する法案の行方が注目されているという。
 
また、韓国は日本以上にIT化が進んでいる。街を歩いていても多くのビルにはホームページのURLが看板になっている。出版業界の書誌情報・物流情報のデジタル化も進展している。教育熱も高い。今後、e-ブックの分野でもさらに進展しそうな気配が感じられるのである。
 
それにしても「元気な国・韓国、活気にあふれるソウル」というのが、私の旅の印象であった。日本に戻ってくると、ビルは低いし、太っている人が多く、しかも人々の表情は暗い。そして、書店には韓国ほどの活気はないように思えてくるのであった。