2011-12-07
デジクリ連載[17]読者に受け入れられる(支持される)電子出版物の三条件
■電子書籍に前向きになろうと考える出版社[17]読者に受け入れられる(支持される)電子出版物の三条件/沢辺 均
出版デジタル機構(仮称)への賛同出版社が108社になった(12月5日現在)。どんな出版社が賛同しているのか? はこちらに一覧がある。
だけど、まあ、ボクはメルマでリンクを押すのがめんどうなので、一覧を貼付けると、インプレスホールディングス/勁草書房/講談社/光文社/集英社/小学館/新潮社/筑摩書房/東京大学出版会/東京電機大学出版局/版元ドットコム/ポット出版/語研/スタイルノート/青弓社/第三書館/太郎次郎社エディタス/トランスビュー/文藝春秋/平凡社/有斐閣/暮しの手帖社/東洋経済新報社/毎日新聞社出版局/日経BP/秋田書店/仮説社/大学書林/信山社出版/実務教育出版/池田書店/アールズ出版/すいれん舎/工作舎/化学同人/教育出版/径書房/双葉社/廣済堂出版/税務経理協会/白水社/翔泳社/東京シューレ出版/東京書籍/国土社/株式会社アスク/朝日出版社/みすず書房/水曜社/ベレ出版/幻冬舎コミックス/晶文社/あすなろ書房/絵本塾出版/マガジンハウス/阪急コミュニケーションズ/日外アソシエーツ/東京創元社/エイ出版社/大修館書店/エムエーピー/世界文化社/光村推古書院/PHP研究所/G.B./ブライト出版/ぎょうせい/西東社/主婦と生活社/復刊ドットコム/サンライズ出版/創元社/大隅書店/ソフトバンク クリエイティブ/学研ホールディングス/大阪大学出版会/世界思想社教学社/中央公論新社/歩行開発研究所/説話社/日本カメラ社/NHK出版/くもん出版/臨川書店/春陽堂書店/飛鳥新社/ぶんか社/白泉社/ビジネス教育出版社/長崎出版/リイド社/弘文堂/三和書籍/フォレスト出版/弘文社/白桃書房/いきいき/第三文明社/学芸出版社/東洋館出版社/TAC/家の光協会/三修社/すばる舎/みくに出版/海青社/フレーベル館/オーム社/徳間書店
じっくりみると、それなりにこの一覧は面白いと思う、よ。
で、101社の賛同申込があった時点で計算してみると、年間発行点数で25%(年間の全新刊発行点数が約8万点で、101社合計で約2万)になる。出版業界の年間売上額が約1兆8000億円で、101社の売上額の合計はその50%弱を占める。よくもこれだけの出版社が賛同してくれたものだ。ありがたい。
まだまだヤマのような課題があるわけで、全然気を抜けないのだけど、これまでのところこの出版デジタル機構(仮称)はとりあえず「成功」と言っていいと思う。
「成功」だと思うのは、出版デジタル機構(仮称)の最大の目的が「すべての出版物のデジタル化を」なわけで、そのためには、出版社がデジタル化の取組みをすることが欠かせないのだ。
もちろん、著作者にデジタル化の了解を得なければならないのだけども、それを働きかけるのは出版社以外にありえないからだ。賛同してくれる出版社が増えるこということは、著作者にデジタル化の了解を得る条件がそろいつつあるということなのだ。
さて、読者である。肝心カナメの読者に、出版界がつくった電子出版物が受け入れられなければ、いくらデジタル化できても、この取組みは頓挫する。なら、どのような電子出版の基盤をつくることが、読者に受け入れてくれることになるのだろうか?
ここでボク自身の今の考えを、中間報告しておこうと思う。Twitterでお互いフォローしてる川添歩さんとのやり取りで教えをうけたことなのだが、
1)さまざまな電子書店で買った出版物を
2)読者が自由に選んだビュワーで
3)いつでも読める
という3点が読者に受け入れられる(支持される)電子出版物の条件だと考えている。
今、アマゾンで買った本もジュンク堂で買った本も、近所の小さな本屋(J STYLE BOOKという本屋が行きつけの近所の本屋さん)で買った本も、区別なくボクの本棚に並んでいる。そして、本棚を眺めて、ちょっとパラパラとみたいときには、なんの準備も必要なくパラパラすることができる。
この状態を電子出版物で作り出すと、読者にとって、紙だ電子だの区別なく利用してもらえるようになるのではないか? とおもっているのだ。
今の電子書籍だとそうはいかない。たとえば、ポット出版がイチバン最初に電子書籍の販売をお願いしたボイジャーの本屋で買った電子書籍は、ドットブックビュワーというアプリをiPadなどの装置で立ち上げると、その中に入っている。ほかの電子書店で買うと、その書店の推奨ビュワーの「中」に入っている。
つまり、ひとつひとつのタイトルは、書店とひもづけられたトビラ付きの本棚に入っているようなもので、そのトビラを開くためにはIDやパスワードが必要、というわけだ。買った電子書店を超えて自由に並べたり、整理したりすることはできない。さらには、その本棚から本を取り出しても、こんどは装置とビュワーがなければ読めないのだ。
出版社や書店という作り手側からみれば、そのビュワーはOSがアップデートするたびに(基本的に)対応をしなければならないハズだ。OSはWindowsやMacOS、装置で言えばiOSやAndroidやWindowsなどがあり、それぞれいくつものバージョンが、様々人によって使われている。
このかけ算の答えの数だけのバージョンのビュワーを用意しなければならないワケで、APPで売っているアプリ式の電子出版物にいたっては、これにタイトル数のかけ算が加わるのだ。
こんな状態で、電子出版靴を買ったり利用したりする気になるだろうか? というのが今のボクの疑問なのだ。
ならどうする。今すぐに出版デジタル機構(仮称)がそれを解決する能力はないと思う。また、まったく違った発想の解決策が現れるかもしれない。
ボイジャーは、データを「誌面」のカタチに生成する機能をサーバー側にもって、ウェブブラウザからのリクエストのたびにそれをただ表示する、ということで、OSの違いを乗り越え、ビュワーの開発をウエブブラウザに押し付けるって方法を選んだ(ブックス・イン・ブラウザというようだ。でこれはボクの理解で足りないところがあるかもしれないけど)。
ボク自身は、これでもまだ足りないと思う。ネットワーク接続がなければ電子出版物は読めないという弱点があると思っている。これは、公衆無線LANが張りめぐられることで解決するかもしれないし、今の環境を前提にして考えれば、その解決をボイジャーのみに求めるのは酷だと思う。
このひとつのことをもっても、「すべての出版物のデジタル化」=ほんとうに読者に気持ちよく利用している環境をつくるためにはヤマのような課題があるのだと思う。
出版デジタル機構(仮称)の100社越えというのは、まだまだほんのささやかな一歩にすぎない。ふぅーーー(ため息)。
【沢辺 均/ポット出版代表】twitterは @sawabekin
< http://www.pot.co.jp/ >(問合せフォームあります)
ポット出版(出版業)とスタジオ・ポット(デザイン/編集制作請負)をやってます。版元ドットコム(書籍データ発信の出版社団体)の一員。NPOげんきな図書館(公共図書館運営受託)に参加。おやじバンドでギター(年とってから始めた)。日本語書籍の全文検索一部表示のジャパニーズ・ブックダムが当面の目標。