2008-08-04
「将来出版社に就職したい」高校生へ(語研・高島)
版元ドットコムというLLP(有限責任事業組合)というのを、いくつかの出版社と運営しています。
会員の出版社(現在125社、2008.7.24現在)と賛同者(会友という名前で、現在44名)全員のメーリングリストがあります。
それに、神戸の会員社=17出版から、質問が投げ掛けられて、語研の高島さんが書いたものです。
高島さんの返事がとっても良かったので、両者に了解を得て、掲載しますね。
■17出版・中野さんからの質問メール■■■■■■■■■■■■■■■
いつもありがとうございます。
出版社の皆様に御質問させていただきます。
御回答のほどよろしくお願い申し上げます。
市内(神戸)の高校生から、社会科の授業の一環として業界研究みたいなことで質問と見学の依頼が寄せられました。
小社は副業として出版活動をしているような会社なので、市内の他の出版社の名前を挙げてみたのですが、すでに断られていたりしていて、どうしても調査研究に協力してほしいとのこと。「西宮には有名な出版社があるよ」と振ったのですが、神戸市内でなければならないそうな。(地方小で言われたのですが、神戸は人口の割りに出版社が少ないらしい)
個人的な質問などは誠意をもって回答するするつもりですが、
業界についてのなんとも個人的には答えにくい質問もあり、
ここでアドバイスいただきたくメールいたしました。
そのひとつが、
●将来、出版社に就職したいのだが、どのような進路を選ぶのが(どのような勉強をすれば)良いのか、という質問です。
大学には進まなければならないのか。何学部がよいのか? 専門学校でもよいのか? おすすめの学校があるのか?
とくに部署については書かれていなかったです。(たぶん編集や制作に興味があるのだとは思いますが)
出版社といっても、いろいろなタイプや、規模があるので、一応に言えないと思いますが、
そこをいろいろとお聞かせいただければ助かります。
なお、お寄せいただいた情報は、できるだけ私というフィルターを通さずに、
生情報を高校生に提示したいと思っていますので、その点を御了承ください。
(このメールが高校生からの直メールだと思って、ご返答いただければ幸いです)
お忙しいとは存じますが、名答・珍答、こころからお待ちしております。
17出版
中野吉宏
■語研・高島さんの返信■■■■■■■■■■■■■■■
語研の高島です。
あくまで個人的に高校生から聞かれたら、と考えたうえで正直(率直)にお答えします。
> > ●将来、出版社に就職したいのだが、どのような進路を選ぶのが(どのような勉強をすれば)良いのか、という質問です。
> > 大学には進まなければならないのか。何学部がよいのか? 専門学校でもよいのか? おすすめの学校があるのか?
ひとくちに「出版社に就職する」と言いますが、皆さんがご存じのコミックや雑誌・文庫本などを出している比較的大きい出版社であれば、普通の会社と同じように人事や総務・経理、営業などもあります。皆さんは出版社に入って何をやりたいですか? それによって勉強すべきことは変わってくると思います。
また、進路については、大学に進んだほうが良いと思います。大手の出版社は就職先として人気があります。人気があるということはたくさんの学生が応募してくるという意味です。その中からわずか数回の試験や面接を経て選ばれるためには、ある程度の学歴はないよりあるに越したことはありません。もっと正直に言うと、そこそこの有名な大学に行かないと大手への就職は難しいと思うよ、という意味です。残念ながら数回の面接や試験で一人の人間の内面すべてまでは把握できません。だから、どうしても学歴が効いてくるのが現実です。これは他の業種でも同様です。
大手でなくても出版社で働きたい、のであれば他にも道はあります。個人的な体験で恐縮ですが、私は二つも大学に行ったのにどちらも中退してしまったので就職活動をしたことがありません。それでも比較的中規模の出版社(その後、もっと小さな会社に転職しましたが)に就職できたのは書店でアルバイトをしていたからです。勘違いしてもらうと困りますが、出版社というのは本を作るだけでなく本を売る会社です。作るだけではなく売るということが、出版社にとっては必ず必要な業務です。ですが、本を作りたくて出版社で働いている人の中には本を売るのが苦手な人も多いようです。だから、比較的規模の小さい多くの出版社では本を売る現場としての書店経験がある新人を歓迎してくれます。小さな会社ですから経験を積んでそのうち本を作る側に回ることもあるかもしれません。ないかもしれません。そのあたりは会社によって違うので何とも言えません。
もうひとつ。これはあくまで一般論ですが、そこそこ規模の大きい会社で正社員として働くという経験は、実は新卒の時を除くとなかなか難しいことです。「仕事が向いていなかったら転職すればいい」と思っている方もいるかもしれません。ですが、大きい会社から小さい会社に転職することはできても小さい会社から大きい会社に転職することは通常はあまりないと考えてください(もちろん、職種・業種によって違いますが)。大きい会社で当たり前の福利厚生(健康保険や年金だけでなく、社員旅行や手当など)や勤務時間の管理(小さい会社では有給が使えなかったり残業代がつかない会社も多いです)、仕事に対する教育(小さい会社では「何も教えてくれない」こともあります。新入社員は弟子だとでも思っているのでしょうか)、などなどを社会人としてちゃんと知っておかなければ新聞記事の意味もよくわからない大人になりかねないと思っています。
出版社に入って何をやりたいか、という話に戻ります。中には「よくわからなくなってきた」方もいるかと思いますがもう少し。
もしかすると「マンガの編集者になりたい」と思っている方がいるかもしれません。でも、「マンガ家」にはなりたくないですか? 雑誌の編集者になりたいと思っている方がいるかもしれません。でも、新聞記者のように自分で書いてみるのはどうですか? 絵本を作りたいと思っている方、でも絵本だけでなくいろいろな物をデザインするグラフィックデザイナーはどうですか?
皆さんの中には親が自営業という方もいらっしゃるかと思います。世の中にはサラリーマンや公務員だけでなく自営業の方もたくさんいます。職業として「会社員」だけでなく色々な可能性があります。同様に誰かと一緒に何かを作り出す仕事だけでなく、自分で何かを作る、誰かの作ったものを一所懸命に売る、そんな人たちを支える、そんな仕事もあります。
最後にもう一度聞かせてください。「皆さんは出版社に入って何をやりたいですか?」
それが決まったら教えてください。そのための勉強や進路なら、もっと具体的に「あれがいいよ」とか「どこがいいよ」とか「この本、読んでおいたほうがいいよ」とか色々と相談に乗れると思います。