2009-02-06
第59回ベルリナーレ 2月5日(初日)
いよいよ今日からベルリン国際映画祭、通称ベルリナーレの始まりです。
プレス向けの上映は、だいたい朝9時から開始。上映の30分前には並ばないと、満席で座れなくなってしまうほど、世界各国からのジャーナリストであふれています。
今日は初日だったので、オープニング上映はお昼の12時から。その後、
4時間の上映時間が話題の日本映画「愛のむきだし」を見ました。順を追ってその2本を紹介しますね。
●グッゲンハイム美術館の銃撃シーンが目を引くも、
華やかさに欠けるトム・ティクヴァ監督の「The International」
事前情報によると、クライヴ・オーウェン演じるインターポールの捜査官と
ナオミ・ワッツ演じるニューヨークの検事が、国際的な銀行の不正を暴くために活躍する
アクションスリラーとのこと。物語の舞台は、ベルリンを皮切りに、ニューヨーク、
ミラノ、イスタンブールとめまぐるしく展開。
監督のトム・ティクヴァ(写真下右)はドイツ出身で、恋人を助けるため、
ひたすら走る女性・ローラを描いた「ラン・ローラ・ラン」(1998年)が有名で、
この作品のヒット以来、世界的に活躍している人。最近の作品には、
「ヘヴン」(2002年)、「パフューム ある人殺しの物語」(2006年)などがあり、
ケイト・ブランシェット主演の「ヘヴン」も、
ベルリン映画祭でオープニング上映されたことがあります。
青木さんが、ドイツの新聞「ターゲスシュピーゲル」で、
記者が監督に取材した記事を読んでいて、その情報を教えてくれました。
それによると、監督はニューヨークのグッゲンハイム美術館で撮影するのが夢で、
それが今回叶っているのだけど、「その結果がどうなっているのかは、
見てのお楽しみ!」ってなことが書いてあったそうです。
そんなこんなの情報を頭に入れ、「The International」を見ました!
最初に感じたのは、世界各地が舞台になっているという点、
男くさいという点、ヒタヒタと追いつめられるような音楽を使っている点などなどで、「ボーンアイデンティティ」シリーズの第2作目、第3作目に似ているなぁ〜、
ということです。しかし、「ボーンアイデンティティ」の主役マット・デイモンは、
この映画に限って渋い男の魅力を発揮していたのに対し、
「The International」の主役クライヴ・オーウェンは、どこをどう見ても、
魅力的な男には見えませんでした。単に好みの問題だけ?かもしれませんが、
この俳優さんがいろいろな映画で主役を張っているのが不思議です。
アクションスリラーと言いながら、女性でセリフがあるのはナオミ・ワッツほか2〜3人。
ほとんど男、男、男ばかりで、ドイツ人、アメリカ人、イタリア人などなど
いろいろな国の男が出てくるので、顔の見分けがつかず、
しかもアクションスリラーといいながら、会話のシーンが多いので、
内容がなかなかつかめず、ついつい睡魔が…。
でも、監督が力を入れたというグッゲンハイム美術館のシーンは、
映像の力のなせる技で、かなりな見所がたくさんありました。
この美術館は、真ん中に大きな吹き抜けがあり、螺旋状の構造になっています。
表参道ヒルズみたいな感じですね。絵を眺めながら、自然に下へ降りて行く、
という構造ですね。ここで、盛大な銃撃シーンが繰り広げられるんです。
いったいどうやって撮影したのか? まさか本物を借りてできないだろうから、
セットを作ったのだろうか? それともCG?(んなわけない?)などと、
見終わってから考えてしまいました。
会場の反応は、シリアスなシーンなのに時折、一部の観客から笑い声が上がったり、
そんな場面が何回かあると、失笑なのかなぁ?とも想像したり。
つまらない映画だと、途中退席も珍しくないベルリナーレですが、
その途中退席はあまりなかったものの、終了後の拍手はまばらで、
オープニングのわりには華やかさに欠ける映画でした。
●きわどい題材を扱いながら
純な愛に心つかまれる「愛のむきだし」
いや〜。上映時間237分(約4時間)と聞いて、かなり及び腰でしたが、
見てよかった! 青木さんも大絶賛です。現在、日本で公開中なので、
みなさんも4時間にめげずに、ぜひどうぞ!
話はかなり屈折してディープです。
妻に先立たれ、牧師になった父に懺悔を強要され、
懺悔のために犯したくもない罪を犯していく高校生のユウ。
そして、いつしか盗撮のカリスマに!
盗撮が父にバレて殴られるも、父に殴られることに喜びを感じるユウ。
ユウが初めて恋に落ちるヨーコは女癖の悪い父を嫌悪し、
男そのものを嫌悪している女の子。
そこに、近親相姦および殺人の過去をもつカルト教団の女・小池がからんで、
二転三転…、結末がどうなるのか、ユウの愛は成就するのか、
目の離せない展開になっていきます。
何と言っても良かったのが、主役のユウを演じた西島隆弘(写真上左)。
「BLOOD on FIRE」でデビューしたAAA(トリプル・エー)の
メインボーカルの子らしいのですが、ハンサムというより、
すべすべの肌で女の子のようなキレイな顔立ちをしていて、
でも、時折見せる男っぽい表情がまたいいんです。
魅力は顔立ちだけじゃなくて、癖のない演技というか、何と言うか、
全編4時間ほぼ出ずっぱりなので、彼の魅力がなかったら、
つまらなかっただろうなぁと思うくらい、すごく引きつけるものを持っていました。
ヨーコに恋して、彼女のパンチラを見るたびにパンツが持ち上がる、
○○シーンさえも、難なくこなしていて、「よくぞやった!」という感じです。
また、小池を演じる安藤サクラ(写真上右の中央)。
いっちゃってる感じが半端じゃなくスゴいなぁと思っていたら、
奥田瑛二の娘でした。ある種、父をも超えた演技力かもしれません。
怖かったです。
監督は、「Strange Circus 奇妙なサーカス」で
第56回ベルリン映画祭フォーラム部門のベルリン新聞・読者審査賞を受賞した
園子温(写真下)。
きわどい題材を扱いながら、エンターテインメントに徹しているので、
盗撮シーンはかなりの笑い声が上がってました。
ともすると女性には不快感を与えてしまいかねない盗撮シーンですが、
単に笑いを取るためだけに挿入されているシーンではないし、
エンターテインメントとテーマ追求とのバランスが良かったのでしょうか。
不快感を感じることなく、私は楽しめました。
「愛のむきだし」。すごいタイトルですね。
親子の愛、男女の愛、友への愛…。
相手を思う気持ちをむきだしにすることを躊躇してしまいがちな日本人にとっては、
いろいろ考えさせられて、心に響く映画でした。
4時間の長さにたえきれず、途中で席を立った人もいましたが、
最後の拍手の大きさは、オープニング映画より長く、大きかったです。
日本人以外の人の心にも響いたのですね。
五賀雅子