2008-02-19
ベルリナーレ・ラスト(前)
ベルリナーレ・2008年ラスト・レポート(前)です。
終わってしまいました、ベルリナーレ・・・。
ベルリンのジャーナリストの間でも、ちょっと意外だった金熊賞作品でしたが、考えてみれば予想を裏切る結果が多いのもベルリナーレの特徴です。
私もぺトラも見ていない作品なので、どんな感じなのかお伝えできずとても残念ですけれども、コンペの受賞などは今回はメインにしていないので、まだレポートしていない私たちが見た映画について、少しご紹介させていただきたいと思います。
今回は、時間の都合でぺトラと一緒に総括を進められないので、彼女からはメールでコメントをもらって日本語に訳してお伝えいたします。
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16日の土曜日は、先ずコンペ外作品の「Be Kind Rewind」(Michel Gondry監督)を見ました。
楽しかったです!
先ず、ぺトラが感想の中にストーリィを書いていますので、彼女の感想からご紹介します:
かなり突拍子もない映画。いろいろな面白い思いつきの連続で、また主題に戻ったりと、とにかく楽しめた。
あるレンタル・ビデオ店で、オーナーが外泊するので店番を頼まれた青年と、その店に出入りしているちょっとおかしな男を中心に話は進む。
オーナーが留守の間に、全てのレンタルビデオの録画が消えてしまい、貸せなくなって困った青年は、出入りしている男や仲間と共に、消えてしまった映画を自分達で作り直してゆく・・・。
全てが水の泡になった後に、さらに人々はその状況を楽しみ、自身で創造的な作品を創り上げる。
「The Science of Sleep」などでおなじみのゴンドリー監督の愉快な映画。
ベルリナーレの最後にふさわしい、軽やかで癒される、気持ちの良い作品だった。
会場にいた人たちにかなり受けていて、でも私はそこまでは笑わなかったけれども・・。
・・・以上です。
以下は、私の感想です:
ゴンドリー監督作品といえば、はちゃめちゃな雰囲気がありますけれども、この作品もそうですね・笑。
だから期待しすぎてしまうと、ちょっとあれ?とクェッションマークになる部分もありますが、それでも私は十分楽しめました。
前半は少し退屈だったのですが、様子がつかめてくると、徐々に私も映画の中に入りこむことができて、後半はとても面白かったです。
いろいろな過去にヒットした大人気映画を、お金のない人々がそれなり(そこがすごい発想で!)に工夫してリメイクしていく過程は、ひとつひとつのアイデアがおちゃめでキュートだったので笑えました。
でも、それよりもその後の彼らの創作欲が生き生きと描かれていて、ワクワクしました。
ラストシーンがすごく良かった! なるほどこういうことが用意されていたのね、と幸せな気分になりました。
そうしたら、なぜか映画祭の最初の方で見た、ポール・トーマス・アンダーソン監督の「There will be blood」を思い出してしまいました。
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なぜ??
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ああ、そうだったんですね、アンダーソン監督はアメリカの闇の部分を、そしてゴンドリー監督はアメリカの自由で力強い前向きな姿勢や明るさを見せてくれたんですね。
両方見ることができて、とても良かったと思います!
私の趣味としては、ゴンドリー監督作品の方が創造的で好きですけれど・・・。
特に、キーワードがジャズ奏者のファッツ・ウォーラーというのはすごく楽しめました。
1943年に39歳で亡くなった黒人ジャズミュージシャンですが、ブルージーで愉快でラブリーな、ちょっと色ものアイドルみたいなノリの、誰からも愛される人気者だったようです。
最初は、ウォーラーのドキュメンタリー風な映画なのかな、と思って見ていたのですが、そうではなくてちょっとした仕掛けが用意されています。
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ピアノを演奏して歌を歌って・・・ウォーラーは、この上なく幸せな気分にさせてくれる、思わず見て聞いているだけで微笑んでしまう、魅力的なエンターテイナーだったようです。
その姿を、この映画はゴンドリー・タッチでエンターテイメントにパラレルに描いていたと思います。
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ベルリン在住で、世界規模で活躍しているジャズピアニスト高瀬アキさんが、ファッツ・ウォーラーの名曲を演奏したアルバムを発表しています。
何だか聞いてみたくなりました!
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その後、ぺトラと別れてH子さんと一緒にショートフィルムを見ました。
*Inventur – Metzstrasse 11
Zelimir Zilnik監督 9分
とある、かなりぼろぼろのアパートの住人達に、そのアパートの階段を使って順番に老若男女全てに「どこから来て、どうしてドイツにいるのか」を語らせる作品。
「お金がない」と言いつつも、何とかなっている感じがして印象に残っています。
*Kizi Mizi
Mariusz Wilczynski監督 21分
アニメーション作品。ある男女のカップルを、ラブラブから崩壊まで描いた作品。描かれているストーリィは月並みなのですが、効果音と絵のタッチ、それに表現が時々面白いと思いました。
ハバナで暮らす、元ダンサーのゲイ。彼はエイズなのだが、ゲストハウスを営みながらその場所を愛し、自分の創る空間を愛し、好きなものに囲まれながら生きている。
趣味がはっきりしていて、好感が持てる素敵な男性のドキュメンタリーでした。
とてもいい顔をしていましたし、画面が色鮮やかで良かったです。
*Shooting Geronimo
Kent Monkman監督 11分
セピアトーンの作品。インディアンのジェロニモのショットを撮影するチーム。そこに幽霊が現れて撮影をめちゃくちゃにしてゆく。最後には俳優が誤射して死亡してしまう・・・。
・・よくわからない作品でした・・・汗。
*Teat Beat of Sex: Episodes 8,9,10,11
Signe Baumane監督 7分
性をテーマにして、ちょっとユーモアとアイロニーのエッセンスを加えた、新しい性教育アニメの形をとった作品。
絵柄は限りなく作為的に幼稚だし、表現もわざと幼稚にしているのに、鮮烈な話だったりするので、その辺のギャップが印象に残っていますが、私の趣味ではなかったですね・・・。
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そして次に、ぺトラと私でパノラマ部門の作品「Derek」(Isaac Julien監督)を見ました。
これは、鬼才の故デレク・ジャーマン監督の生前のインタビューなどを交えたドキュメンタリーです。
ぺトラはいまさらジャーマン監督のありし日の話を聞いたり、彼の暮らした家や作品を見ても、あまりぱっとしなかったしさほど面白くなかったと言っていましたが、私はとても楽しめました。
映画の中のジャーマン監督の装いが、僧侶のような雰囲気で、とてもいい顔をしていて、人生や作品を生み出すことに楽しそうに見えて、見ていて気持ちが良かったです。
途中でサンドイッチを食べながら語っていたり、映像以外の作品もたくさん登場して興味深かったです。
ずっとにこにこして見入ってしまいました!
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その後、またまた私はぺトラと別れて今度はひとりでショート・フィルムを見ました。
海に飛びこんでひたすら泳ぐ男。しばらくすると、水色のビニールで覆われた小舟に遭遇する。
何かと思って近づき、手を置くと、突然黒い腕が中から現れ、中に男は吸い込まれてゆく。
そこには、黒人の男性が3人いた。
またしばらくすると、沖に漂流した。(あるいは到着?)3人の黒人は、何故か言葉もなく、ものすごい勢いで森の中に消えてゆく・・・。
取り残される男ひとり・・・。
という、何だかちょっとシュールな映画でした・・・。
ステラは魅力的なティーンエイジャー。でも、いつも自分にしか見えない青年につきまとわれていた。ボーイフレンドと逢っても、その青年は現れる。影のような存在の青年・・・。
ストーリィやカメラワークよりも、何故かあるシーンで彼女が歩いている時に、壁に貼られている何枚ものシュタイナー教育的な絵が気になりました・・・。
セピアトーンでたんたんと少年?2人を撮っている。でも、よくよく見ていると、じゃれあって無邪気にたばこを吸ったりアルコールを飲んだりしながら、二人は抱擁し、キスをする。二人の関係は?
華奢できれいな顔立ちの少年と、彼の1,5倍はあるかと思える体格の、髪を少年のように短くカットした少女。彼らは真剣に愛し合っていると言うのだった。
これはドラマではなく、ドキュメンタリーで彼らにインタビューしたり、彼らが遊んでいる様子を撮っています。かなりインパクトがありましたね・・・。少年が、理路整然と自分達のことを語っているのが凄かったです。いや、驚きました。
*O zi buna de plaja
Bogdan Mustata監督 10分
A Good Day For A Swim. 装いも荒れた感じの少女が手をあげて車を止める。中を見てひるみ、逃げ出そうとしたが捕まってしまった。車はガタゴトゆられて海辺に到着する。中から残酷な少年達3人が出てきて、彼女を海でいたぶるのだった。車の中には、頭から血を流して死んでいるかに見えた、縛られた男が横たわっていた。でも、彼は死んでいなかった。必死にもがいて脱出しようとする男。もちろん、少年達に見つかり、そのまま引きずられて海の中に放り込まれる・・・。
・・変な作品で、正直なところ、きもかったです・・・汗。
とてもとても短い、でもそれなりに印象的な作品。あるくたびれた中年夫妻のところに、何度もツモリンスキーという人物から電話がかかってくる。その応対が妙だったり・・。ドキュメンタリータッチで、夫妻は素人なのかな?と演技しているように見えない感じが面白かったです。
*Second Hand Sale
Temur Butikashvili監督 11分
その日暮らしでお気楽に生きているある男。セカンドセールで冷蔵庫を求めている婦人に自分のを売ろうとして、彼女がやってくるのだが、彼女は男の2倍はあるかと思うほどの巨体で、冷蔵庫の品定めをしているうちに、貧相な男のことも品定めするのだった。二人はある種の意気投合をし、アルコールと食べ物を彼女のお金で買い、狂乱のひとときを過ごす。冷蔵庫は格安で売られ、最後に女性の夫が取りに来る・・・。
ビジュアル的に、何だか少しグロテスクな雰囲気があって私の趣味ではなかったですが、上手にできているなぁと思いました。
ということで、ラスト・レポートの(前)はここまでです。
(後)はすぐに続きます。