2008-02-12

ベルリナーレ 2月11日

皆様、大変申し訳ありません!

お知らせが二つあります。

ひとつは、今回からベルリナーレの規則がかなり厳しくなったとすでにお話いたしましたけれども、記者会見での撮影は、ちょこっとプライベートで撮るのも禁止だそうで、よってこのブログでも写真を公開できないことになりました。
残念ですが、今までアップした分を削除することになります。
ご了承くださいませ。

もうひとつは、ぺトラが軽い気管支炎になってしまい、本日よりお休みさせていただきます。
申し訳ありません! ぺトラも心からお詫びします、とのことです。
今、ベルリンで流行っているらしいのですが、熱やのど、めまいや咳があり、そのままでいると肺炎になる可能性もあるそうです。

ですので、これからはしばらく私一人でレポートさせていただきます。

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Musunde-hiraite先ず1本目は、コンペをやめてフォーラム部門の日本作品「むすんでひらいて」(高橋泉監督)。

ある結婚式の後に友達が集い、奇妙なキーの交換を結果的にすることになった男女。
そのことで起こる、さまざまな人間模様を描いています。
いろいろ試みていて、監督のチャレンジ精神が見えて好感が持てましたが、ちょっと色彩がボケ
た感じだったかな、と・・・。

Musunde-hiraiteとても個人的なことを書いてしまいますと、中に出て来るある女性が、私の友達に少し似ていて、演技も動作も似たところがあるので、あれれ?と思ってしまったりして・・・。

私の友達というのは、NHKの元ディレクターだった佐々木昭一郎氏が手掛けて大反響を呼んだ傑作ドラマシリーズの主演を演じた、中尾幸世さんなのです。
「四季ユートピアノ」などの美しく素晴らしい作品、エミー賞まで受賞した作品! 
その作品の主演を演じて、そのままテレビ界から姿を消してしまった幻の女優、中尾幸世さん。

Musunde-hiraite彼女の、あの時の髪型、佇まい、話し方に少し似ていたものですから、一瞬ぎょっとしてしまいました。
偶然なのでしょうけれども・・・。


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Hanamiそして、次の作品は、コンペ枠でドイツ人の女性監督、ドリス・デリィの「花見」です。

花見・・・つまりこの作品は、後半は日本での出来事を描いているのです。お花見シーンもあります!
デリィ監督は、私が尊敬してやまない大好きな小津安二郎監督の「東京物語」からインスパイアされて作った映画だと言っているようです。

そ、そうなんですか!

私の大好きな監督の、大好きな作品に影響を受け、インスピレーションを受け、出来上がった作品!

ちょっとチェックが厳しくなってしまいますね・・・汗。

ぺトラに見てもらって、私は別の映画を見る予定だったのですが、変更して「花見」を見ることにしました。

これは、先ず上映前にポスターを見たのですが、完全に「ありえない」二人が並んでいました。

Hanamiなんと、アルゴイの小さな町で暮らす高齢のドイツ人男性ルディと、そして東京の公園でホームレスとして暮らしながら、「舞踏」を公園で一人披露している日本人の女の子、ゆいの二人。

舞踏ですか!!!???

しかも公園で??

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私は27年くらい前に、ミュンヘンに学生として住んでいたことがあります。

南ドイツのことは、知らないわけではありません。

アンゲリカも、バイエルンの田舎で暮らしていますし、ベルリンと全く違うのも知っています。

そして当時は、ヨーロッパで暗黒舞踏がとても流行っていました。

大人気でした。

大野一雄を筆頭に、大駱駝艦、山海塾、田中泯、古川あんず、ラブマシーン、白桃房・・・・さまざまな日本の舞踏が、日本では信じられないほどの人気を博していました。

でも、だからといって、現在田舎でひっそり暮らす老夫婦の奥さんトゥルディが、舞踏に魅せられて自らも踊ってみた写真があったり、舞踏を踊りたいと思っていたり・・・そのような方向であこがれを持って受け入れられるジャンルとは、とても思えないのですね。

舞踏好きというのは、都会の文化人やアート好きの、世の中の流れに敏感な人々が中心だったと思います。

確かに、顔は白塗りで、目のまわりを真っ黒にして、赤い紅を唇の中央だけにほどこして、派手な色合いの着物をはだけた感じで着て踊るというのは、それなりに遠いアジアの神秘的な文化として、ヨーロッパ人の目には魅力的に映るのかもしれません。

でも、だからといって、ダンス教室に通うように、自分も踊ってみたいと思わせるようなジャンルなのでしょうか?

例えばそれは、日本の田舎に住んでいて、ほとんど毎日同じことの繰り返しの中で生きている老夫婦の奥さんが、実はドイツの現代舞踏家ピナ・バウシュの踊りに魅せられて、自分も同じように踊ってみたいと思う、そして実際に少し踊ってみるという、普通に考えて無理のある方向だと思うのですが、どうでしょう・・・?

言いたいことはたくさんあります・笑。

*ルディが、東京で仕事をする息子の所にやってくるのだけれども、成田でピックアップしてもらうのではなくて、都心で待ち合わせをする。(そこまでルディが一人で電車に乗って?? そんなの、絶対無理ですよ!)

*東京滞在初日に、ルディは一人で日中過ごすことになってしまうのだけれども、新宿の歌舞伎町にいきなり行って、ストリップ系の舞台を見たり、ソープランドに行ったりする。(ありえないでしょう!!  初日に、それに英語もあまりできなくて、日本のことなど何もわからない老人の外国人だというのに!!!!???)

*ルディの息子の部屋に、マンガ誌があるのだけれども、その漫画がアダルト+ロリコン系エッチな描写のコマばかりになっている。(日本語があまりわからない息子の家に、しかもものすごく忙しいという設定なのに、何でそんな特殊なコミックがあるのでしょう??)

*初日に二人で食事をするシーンがあるのですが、チェーン店で軽く澄ましたりして、どんなに冷たい子供だとしても、それはないでしょう、と思ってしまいました。(普通だったら、初日くらいはお寿司やさんに行くとか、ちょっとしたレストランで過ごすのではないかと・・・。)

などなどなど・・・!!

Hanamiとにかく、一人ひとりの内面描写がありえないことばかりの連続で、ルディにしても、トゥルディが急死したら突然アクティブで何でも一人でできるようになったりして、ちょっとそれはないのでは???
そもそも、彼が病気でとても旅は無理そうだって設定になっていたのですから・・・。
突然人が変わりすぎです。

日本のシーンは、何から何までツーリスト目線で場所をセレクトしているとしか思えず、それなのにやけにアダルトな方面はおわかりになっていらっしゃるの?みたいな・・・。

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この映画の上映が終了した後、大きな拍手がありました。
またいつものドイツ人ジャーナリストの過剰な演出だな、と勘ぐってしまいましたけれども、まわりは私のような、日本人ジャーナリストの意見を聞きたくてしょうがないという雰囲気で、ちらちら見られてすごく困り、目を合わせないように会場を出ようとしていたら、40歳くらいのドイツ人ジャーナリストに声をかけられてしまいました。

しまった!

で、ちょっとそれでも笑ってごまかして、何も言わずに去ろうとしたのですが、しつこく追ってきてどうしても感想を聞きたいと言われて・・・。

わ~~! 困りました。

で、私が言ったのは・・・

老夫妻の心の描写には感激して涙することもあったし、決して「悪い作品」とは言わないけれども、「良い作品」とも言えない。

涙したのは、まったく日本ということに無関係で、夫婦の絆や心のことは全世界共通の普遍的テーマなのであり、そういう意味で感動した個所はある。

でも日本の描き方、なぜ舞踏なのか(舞踏は、実は日本でも中央に位置したジャンルではなく、いくらヨーロッパで人気があったといっても、その踊りに魅せられて自分も同じように踊りたいと思うのには無理がある。大体そういう方向の踊りではないし・・・)
ということについては、あまりの荒唐無稽さに驚きと戸惑いがあり、

「これは私にとって日本ではなく、なじみのない世界(国)という気持ちになったりもした。」と言いました。

だからこの作品は、「外国人から見た日本」というツールを使ったファンタジーなのだと受け止めた、と伝えました。

その時の私は、それ以上は言うことができず、言葉に詰まりました。

この「花見」については、また総括で触れたいと思います。まだまだ書きたいことがありますので・・!

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United Red Armyそして、本日最後に見た作品は、若松孝二監督の「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」です。
何と3時間という上映時間でした!

でも、本当に自分でも驚きましたが、全く長さを感じさせない、緊張感いっぱいの考えさせられる迫力ある映画でした。

強烈な、凄い映画でした!

プレス枠ですが、興味を持っている世界のジャーナリストが大勢詰めかけ、結構入っていましたね。しかも、途中で出てしまう人もさほど多くなかったし、途中から入ってくる人が逆にいたりして、注目の高さが感じられました。

それにしても・・・若松監督恐るべし! 「実録」という言葉からもわかるように、ドキュメンタリータッチで役者に演じさせながら、本当にあったことをできるだけ忠実に描いているだろうと信じられる作り方でした。

どのシーンもものすごくきめ細やかに丁寧に作られていると思いましたし、役者さんもハイテンション+激しいエネルギーにあふれていて、みんなとても上手でした。

真剣勝負の映画というか、疲れて眠ってしまうなんてできないほど、緊迫した言葉や行動の連続で、見る側にもものすごく体力が必要です。

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あさま山荘事件は、1972年に起こりました。

当時の私は10代初めの頃。

あさま山荘の事件については、テレビでニュースを見ていた記憶がありますが、それくらいでした。

でも、今回の作品を見ていくうちに、犯人5名があさま山荘にたてこもってから、彼らの親が説得をするというシーンになって、当時のニュース番組をはっきりと思い出しました。
機動隊員も現場で涙したという、犯人の母親の説得・・・。もう、涙なくして聞いていられません。
犯人の母親が、浅間山まで行って説得をする・・・。この切ない親の役目を、当時の私は「親って何て大変なんだろう。」と思ったのを覚えています。

でも、この試みは実際はかえって犯人を興奮させてしまい、逆上した彼らが自分の母親にむかって発砲しました。

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奇妙な感覚。

当時はもちろん、ニュースで受動的に見ていただけだったのに、この映画を見ている自分は、あさま山荘の中にいるんですね。
その視点が絵空事ではなく、本当に生々しいので、ずっと心臓がドキドキしていました。

あさま山荘に入る前の、アジトでの仲間へのリンチなど、むごいシーンもたくさんあって描写が凄まじかったので、今日はあまりよく眠れないかもしれません・・・。

若松監督の鋭い才能に触れ、打ちのめされ、圧倒されて帰宅しました。

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ということで、本日はこの辺で・・・・。