2007-08-04

D・モリス『セックス ウォッチング』

sex.jpg● D・モリス『セックス ウォッチング』(小学館)

 現在、男女の性について語ることは、極めて政治的な行為となっている。男らしさ、女らしさを「本能」という言葉に還元しようものなら、フェミニストらから「保守反動」との反発を免れないだろうし、すべてをジェンダー(社会的性差)の問題として片付けようとしても、多くの人の実感から、それは政治主義的すぎる、という評価しか得られない。

 結局のところ、どこまでを生得的な資質で、どこからが社会的に獲得する傾向なのか、そのバランスへの配慮こそが、性を語る言葉の立場を位置づけざるを得なくなっている。

 この本は、そのことを非常に意識して書かれている男女の性史だが、著者が動物行動学を背景とする立場故、比較的、生物学的な要因を重視する視点に立っているようにも読める。

 しかし、どちらにせよ、この本の良いところは、政治的行為と化した「セックス・ウォッチング」を、好奇心を刺激する読み物として提示することに成功しているところだ。

 まず、大きな版型で写真を多用している点が親しみやすい。近年、ポスト構造主義などに影響を受けたジェンダー論の流行のせいで、どうも性というのは抽象的な領域の話になってしまった感があるが、この本のように具体的に目に訴えてくれる表現ほど説得力を持つものはない。世界各国の性の風俗や、習俗をさまざまな視点から陳列してくれる面白さは、他の本では得られないものだろう。

 また、古今東西の性にまつわるエピソードの豊かさも、この本の大きな魅力になっている。ペニスの拡大手術で財を築いた米国の医者の話やら、カメルーンのポップスター、モンゴ・フィアが58人の妻を抱えているという話、欧州における貞操帯の歴史、ちょっと的外れな日本のラブホテルのエキゾチシズムの話やら……。エピソードをたどるだけでも興味は尽きない。

 この本が、性を物語る一級のエンターテイメントであることは間違いない。

*初出/山口新聞(1998.8.31)ほか