2008-12-12

松沢呉一編『売る売らないはワタシが決める』


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● 松沢呉一編『売る売らないはワタシが決める―売春肯定宣言』(ポット出版)

★★★ 現場の声は大切です!

フェミニズムからの「性の商品化」批判が盛んだった10年程前の状況を考えると、こうした本が出版されるは、隔世の感がある。『売る売らないはワタシが決める』は、性風俗で働く当事者とそれを支援する人たちからの、職業差別を解消するための訴えであり、「性の商品化」なぜ悪い!という、「性の商品化」肯定論なのである。

90年代、性をめぐっては、同性愛者をはじめとしてさまざまなマイノリティが自らの存在証明をすべく声を上げたが、昨今のセックスワーカーを名乗る売春婦(夫)たちの権利獲得への主張は、もしかしたら最後の「解放の政治学」になるのかもしれない。彼女ら(彼ら)は、売春を合法化し、労働問題としての認知をいま社会に迫っている。

この本では、保守系の論者も批判の対象となってはいるが、主な論敵として想定されているのは、フェミニズムや性教育に携わってきたリベラルな立場の人たちである。これまで性における「解放の政治学」を推進してきた勢力が、その解放の結果として生じた状況から否定されてしまうというのは、なんと皮肉なことだろう。上野千鶴子、小倉千加子、山本直英といった名だたるリベラリストが、「差別者」としてやり玉に上げられるのだ。

本書の構成としては、個々の論者の売買春に関する否定的な言説が最初に引用され、それに対して執筆者たちがひとつ一つ反論していくというかたちがとられている。その論拠というのは、批判者がセックスワークの現実の現場を知らないとする観点、売買春否定論が持つ論理的な整合性の欠如、論者の感性の押し付け、などであろう。

それらの指摘を論理として否定することはかなり難しい。実際、売買春否定論の最近の旗色はよくない。

「ほんとの敵と闘いましょう…一緒にやりましょうよ」と言葉を投げ掛けられたかの論敵たちが、これにどう応えるのか。本書の議論が何を産み出すのか、今後を見守りたくなる。

*初出/鹿児島新報(2000.3.15)ほか