2008-11-08

星乃治彦『男たちの帝国』


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● 星乃治彦『男たちの帝国―ヴィルヘルム2世からナチスへ』(岩波書店)

★★★ 政治学のセクシュアリティに踏み込む試み

政治と性愛、この一見なんら関係がないように見える二つの現象の連関を、近代ドイツの政治史を例にとって考察したのが本書である。

第二帝政からナチスドイツ、そして戦後にいたるまで、ドイツの近代史の中には、同性愛とミソジニー(女性嫌悪)をめぐる問題が政治現象の裏側にうごめいていた。しかしそれを「どう政治史の分析に取り入れていくのかの戸惑いが研究者の中にあったため」、これまでその重要性は看過されてきた。

十九世紀末から世紀転換期にかけて、ヨーロッパでは性秩序、家族秩序、国家秩序などが再編され、その中で「同性愛」の問題がクローズアップされる。性別役割りの強化や市民的価値の台頭は、「同性愛者」というアイデンティティを生み出し、それは一方で被差別者としての解放運動に向い、もう一方で、男同士の絆(ホモソーシャルな関係)において隠蔽され、正当化された。

そのあたりの構造の変化を、著者は丹念に歴史の流れにつないでいく。そこでは、「男性同性愛者」は被差別者としてだけ描かれるのではなく、政治権力に加担する存在でもある。また、これまで一部の解放運動によって作られてきた神話にも批判が加えられる。運動は、ナチが「男性同性愛者」数十万人を強制収容所に送り込んだと喧伝してきたが、実態は、ナチの対応は体系だったものではなく、被害者も五千から一万五千人だった。

著者の考え方の中心は、男性中心の近代家族や国民国家批判にある。権利拡張運動は、女性や「同性愛者」を男性なみにすることで「国家」という権力装置に統合したのではないか、と。結果として彼らが「国家」支える主体になっていることを憂いているのだ。

その展望に関しての議論はあるにしろ、本書が魅力的なのは、著者自身が「同性愛者」としての実存を賭けて、己の主張を世に問うている姿勢にあるだろう。「わたし」という一人称で歴史を語ろうとする、その気迫こそが、読者の心を揺さぶるに違いない。

*初出/時事通信→神奈川新聞(2006.12.3)ほか