2008-12-11

小林信也『カツラーの秘密』


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● 小林信也『カツラーの秘密 (新潮文庫)

★★★ 人生はそれぞれ理由(わけ)ありです

軽口や冗談が誰かを深く傷つけていることがある。

そのことを笑いの文脈に置くことの了解が一般になされている場合、話し手にはさしたる悪意などない。しかしだからこそ、笑いの対象にされた側は怒ることもできず、その痛みを自分の中に抱え込むことになる。相手に悪意がないことに不快を露にすることが、むしろ大人げないこととされ、むきになることで、かえって周囲の笑いを誘うことにもなるからである。したがって、笑われている当事者が、自ら傷ついていることをカミングアウト(表明)しないかぎり、その痛みが相手に理解されることはない。

本書『カツラーの秘密』は、そうしたカミングアウトを成す一冊である。無邪気な笑いの対象とされてきたカツラ常用の「ハゲ」男性の心のうちを、これほどまでに赤裸々に語ったものはなかった。

20代で頭髪が心細くなった著者は、やむなく男性用カツラを使用するが、それを隠し通すためにさまざまな労苦を重ねる。移動するたびにトイレで頭に異変が起きていないか確認し、空港のX線チェックでカツラの金具に警報が反応し絶体絶命のピンチに陥ったり、温泉に入っても楽しむこともできず……エピソードの数々は抱腹絶倒である。しかし、著者はそうした積み重ねで、スポーツライターとして仕事の幅まで狭めることになり、消極的な人間になってしまう。

そんなありようを反転させるために、この本は笑う側の文脈を利用しながら、「ハゲ」とカツラ使用にまつわる問題を諧謔の中に浮かび上がらせていく。そして最後には、その批判の矛先が、当事者の秘密主義に付け込んだ商売を展開している大手カツラ企業の体質にまで向けられる。そういう意味で、ジャーナリズムとしても気骨のあるレポートにもなっている。

それにしてもなぜ人は「ハゲ」を嫌うのか。そこをもっと知りたかった。

*初出/中國新聞(2000.7.23)ほか