2008-12-11
ロビン・ベイカー『セックス・イン・ザ・フューチャー』
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● ロビン・ベイカー『セックス・イン・ザ・フューチャー―生殖技術と家族の行方』(紀伊国屋書店)
★★★ SF的思考は現在を相対化させてくれる
『セックス・イン・ザ・フューチャー』は、人工授精、代理出産、体外受精、凍結精子・卵子、クローニング…といった生殖技術の発達が、人間の性行動や家族のかたちにどういった影響を与えるかについての、予言の書である。といっても、著者は科学者なので、それは科学的な知識と洞察力から描き出される未来予想図だ。
例えば、父子鑑定の技術が完成し、扶養義務者の登録制度が導入されると、家族関係はどうなるのか。「男性はもはや、浮気を阻止するために女性のそばに居続けなくてもいいし、女性も貧困を回避するためだけに男性の愚かさや暴力を我慢する必要がなくなるだろう」。そして、そのことは核家族の解体を促し、単親家庭と利便性優先の男女関係が社会の基礎となる。
生殖技術が進むと、もはや不妊ということもなくなる。現在でもすでに試みが始まっている体外受精や代理出産はいうまでもなく、精巣を失った人には、精祖細胞に栄養補給するためにネズミの精巣を移植する方法も実践されるかもしれない。また、クローン技術の発達によって、そうした方法をとらなくても、自分の遺伝子を後世に残すことができるようにもなる…。
我々は、こういった文句を並べられると、不安な気持ちを掻立てられる。しかし、この本が良くできているのは、理論的な考察がなされる前に、小説仕立てのショートストーリーが置かれているところだ。物語を一度取り込むことで、これら未知の技術と我々の実存との間に、リアリティを結ぶことが容易になる。
本書を読んで実感したのは、クローンという言葉に対する生理的な嫌悪が、SF映画などのイメージや、未知への漠然とした不安感に根差したものであるということだ。生殖技術がもたらす現実の問題はともかく、想像しえないということから生じる拒絶感は、無用なものである。それを払拭できるというだけで、読むに値する一冊だろう。著者は楽観的ではあるが、現実を見据えている。
*初出/琉球新報(2000.8.20)ほか