2007-08-17
太田出版「クイック・ジャパン VOL.60」
● 太田出版「クイック・ジャパン VOL.60」
二十年も前、同性愛に悩んでいた僕は、女性差別や同性愛差別が生じる元凶は結婚制度にある、という考え方に出くわし、それに打たれた。そうした世界観は、自身が抱える抑圧感を社会的な文脈に置いて客観視する機会を与えてくれた。が、時が経つにつれ、心の中で、でも本当に結婚って諸悪の根源なの?という突っ込みが入るようになった。
振り返ってみれば、70年代初頭のウーマンリブから結婚批判は声高に叫ばれてきたが、女性の社会進出を可能にしていくことが共感を増す一方で、女性たちは結婚を求めることはやめなかった。そして、近年、人々がよりよい結婚を求めれば求めるほど結婚が困難になるという、少子・晩婚化の時代を迎えると、益々フェミニズムの結婚観はリアリティを結ばなくなっていった……。
そんな結婚をめぐる硬直した思考から目を覚まさせてくれるのが、「QuickJapan vol.60」の結婚特集だ。そこには、お笑いタレントの太田光(爆笑問題)夫婦のインタビューをはじめ、さまざまなカップルの結婚生活が紹介されていて、そのナマの声の持つ力は、形式化した結婚否定論よりもよほど説得力を持つ。
「自分は他人に対してここまで憎しみを持てるのかと愕然とすることもありますけど、そういう特別な感情を経験することを通じて、二人で本当の意味で“大人”になれたらと思います」(沖方丁)。こういう実生活から汲み出された身もふたもない発言に、関係性というものの真実の一端も見えてくる。
若手文化人が多く寄稿している結婚に関するコラムも、実に考えさせられる。そこでは古式ゆかしい結婚抑圧論から、それを会社経営に見立てる議論まで千差万別の主張がされていて、もはや結婚を一つの観点から一刀両断することは、ナイーブにすぎない。またこの特集には、日本におけるイスラームやヤンキーの結婚、新婚の間取りなんていう、女性誌のブライダル記事にも、社会学的な分析にも上がってこない視点があって面白い。
現実を生きているさまざまな夫婦の様態を見ていると、結婚はもはや本質を持たないただの箱、形式になりつつあり、そこにそれぞれがそれぞれの意味付けをしていることが見えてくる。形式はなくてもあってもいいとも言えるが、そうした制約をあえて設けることによって、そこから新しい価値やゲームを生み出すこともできる。人々は今、そうした装置として結婚を再発見しようとしているのかもしれない。
翻って、結婚制度からはじかれてきた日本の同性愛者たちは、今後それを求めていくのかどうか、筆者が編集した「QUEER JAPAN returns vol.0」でも特集を組んでみた。諸外国での同性婚への動きを横目に、多くは、結婚があったほうが保障も得られるし、ロマンティックな気分も得られると夢見る。しかし一方で、でもその制度を獲得するにあたってのコストを考えると、積極的に自ら動いて求めようとも思わない、というのが正直なところのようだ。
その辺りの軽い結婚への意識も、昨今の日本社会における結婚のありようそのものを反映している。
*初出/現代性教育研究月報(2005.7)