2007-08-17

テラ出版「バディ」

badi.gif● 「バディ」(テラ出版)

 現在、日本の社会で「同性愛者」はどのようにイメージされているのだろうか。

 90年代以前のそれは、女装でしなをつくって接客している人、とか、変態的なセックスの嗜好を持つ人、といった像だけだったろう。しかし、ここ十数年の間、日本でも当事者の側から人権を求める運動が起こったり、メディアで肯定的な情報が流れるようになると、そのとらえられ方は、もう少し多形的になってきたと思われる。

 若い世代の間では、「ゲイカルチャー」という言葉に見られるようにお洒落なマイノリティだというイメージもあるし、人権の視点から同性愛を学んだ人たちの間では、社会的な差別や抑圧を受けている「弱者」といった認識も生まれている。

 が、現実の「同性愛者」はどのような人々なのだろうか。そこにも幅がある。50代以上なら大半が結婚して子供をもうけ、異性愛の価値観に寄り添って生きているだろう。彼らは同性愛を「嗜好」として、性に局在化することで納得しようとしている。もちろん世代に関わらず、同性愛を性愛の行動としてのみ捉えようとしている人たちも少なくない。彼らはネットの出会い系掲示板や、ハッテン場(同性愛者が性的に集う特定の公園や有料施設)などを媒介に他の「同性愛者」とつながるだけである。

 しかし近年、若い世代(おもに30代以下)の「同性愛者」は、ゲイであることをもっと前向きに、ライフスタイルとしてとらえようとする傾向が強くなってきている。彼らは思春期にそれなりの葛藤を経てはいるが、ゲイコミュニティにアクセスすることで自己肯定感を獲得し、さらに、ゲイだからこそ楽しいんだ、という気分すら持ち得るようになっている。そういう人々こそ時代を体現し、現在の活動的な「同性愛者」の層をなしている。

 そして、そんな「ハッピー・ゲイライフ」を象徴しているのがゲイマガジン「バディ」と、レズビアンとバイセクシュアル女性向けの「カーミラ」である。この2つの雑誌は、ポルノグラフィを基調とはしているが、コミュニティ情報、クラブイベントなどのカルチャー・レポート、出会いのための掲示、政治的な主張……が、ごった煮のように詰め込まれている。それこそが現在の「同性愛者」のリアリティであり、多様性であり、今後の方向性を現している。

 ここでは、彼らならではの試みもなされている。例えば、エイズの啓発活動に参加している若者たちを表紙やグラビアのセクシーモデルとして起用し、それによって読者の注目を集め、病気への意識を高めようという企画。雑誌自体がゲイパレードにフロート(山車)などを繰り出して、コミュニティ活動の一翼を担うという活動。あるいは、ときに、政治家のインタビューまで掲載される。

 これらの雑誌は、エンターテイメントを提供しているばかりでなく、コミュニティを形成する役割そのものも担っているのだ。そこが注目すべきところ。

 「同性愛」が人権に関わる問題だ、ということを理解したのちは、でも、実際の「同性愛者」は「かわいそうな弱者」として生きているわけではなく、「異性愛者」以上にユニークなネットワークを作りつつある、という現実を知ってもらいたい。そのためにはこの両誌を開いてみるのが最適だろう。エログロなグラビアに驚くかもしれないが、それもまた彼らの現実の一部であることを心に留めてほしい。

*初出/現代性教育研究月報(2005.2)