2008-11-23
デニス・アルトマン『グローバル・セックス』
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● デニス・アルトマン『グローバル・セックス』(岩波書店)
★★ 物知りなんでしょうけど(笑)
7,8年前に北京旅行で見た光景を思い出す。その頃流行りはじめたというゲイクラブに入ると、店内にはビレッジピープルの「YMCA」が鳴り響き、大胸筋や上腕二頭筋を鍛え上げた中国人の若者たちが、白いタンクトップを身につけて踊っていた。そのスタイルは、ゲイカルチャーのスタンダードともいえるものだった。
まだ社会主義という言葉が生々しかった当時の北京にさえ、ゲイネスのグローバル化の波が押し寄せていることに驚いた。もちろん「グローバル化」というのはそれ以後に広く用いられるようになる言葉だが、まさに資本や情報、労働力の移動などによって、セクシュアリティのありようも世界標準化に向かっているのだと、予感した。
デニス・アルトマン著『グローバル・セックス』は、セクシュアリティをめぐる世界的な動きをさまざまな角度から分析する野心的な論集である。同性愛、エイズ、フェミニズム、ポルノグラフィー……著者は該博な知識を動員して、それらが国民国家を超えて世界と直面する中で生起している現象を線につないで描く。
例えば、エイズによって「世界の多くの場所では、セクシュアリティをアイデンティティの重要な基礎の一つとして概念化する方向に徐々に移行する動きがあり、そこではHIVプログラムが重要な役割を占めている」とし、アイデンティティ・ポリティクスの有効性を示す。それはアイデンティティ懐疑を主眼とするポストモダンの議論に対する批判にもなっている。
著者は本書で「これまでほとんど互いに関係してこなかったセクシュアリティ研究者と、政治経済や国際関係の研究者との間に対話を作り出す」ことを目的にしている。今後エイズの感染爆発が予想される中国の問題などを持ち出すまでもなく、政治経済と、セクシュアリティの問題は相互に関連している。そうしたパースペクティブで国家や国際機関の政策を考えるべき今日、本書は多くの示唆に富んでいる。
*初出/島根日日新聞(2005.3.25)