2007-10-15
QJr 座談「こいつがいるから真っ当に生きられる」その2
(写真は佐藤さんの飼い犬、鉄)
鉄が
夫婦の
結びつきを
強くした
伏見 佐藤さん夫婦は同居を始めて何年になるの?
佐藤 10年ちょっとですかね。
伏見 その関係性自体は、問題はないんですか(笑)。
佐藤 一緒の職場で仕事しているし、仲良しですよ。仲良しだけど、もう恋愛じゃないですよね。
伏見 色も香もなく同志みたいな。
佐藤 そうですね。伏見さんが言ってたのかな、「仲が良くなればなるほど、セックスは遠のく」と。その法則にバッチリ則ってる関係ですね。
伏見 それで別れようという気持ちは。
佐藤 別れる理由がないんですよね。だってダンナに新しい女ができたとか、私に男ができたということがあって、二人で「それじゃイヤだ」ということになれば別れることになるでしょうけど、別にそういうこともなく、仕事も淡々とやっているので。
伏見 犬を二人の関係のかすがいにしようという発想は全然なかったの?
佐藤 最初は全然なかったけれども、結果的に鉄はかすがい度にすごく貢献してます。「子どもがいないと夫婦の会話なんてない」とよく友人が言うんですよ。「あんたたちは子どももいないのに、よく話すことがあるわね」みたいなことを言われてたんですけど、鉄が来てからは今までにない会話をしてますね。たとえば「鉄が今日はこれを食べたんだよ」というような、端から見てたらバカみたいな話をしてる時の至福感が、二人をとても仲良しにしてるところはあるかもしれませんね。
斎藤 やっぱり二人がバカになれるっていうのがあるんでしょうね。
佐藤 うん、そうかもしれない。
伏見 最初は佐藤さんのほうが鉄くんを養子にもらうのに熱心だったわけですが、夫の沢辺均さんのほうは?
佐藤 最初はもう冷淡で、興味は全然なかったですね。彼は小学校低学年の頃に捨てられた子犬を拾ってきて、かわいいからって妹と一緒にかわいがりすぎて死なせてしまったことがあったそうなので、「自分は生き物は飼えない」と言ってたんです。それにしゃべることが好きなので、「語り合えない生き物を飼って何が楽しいんだよ」と。でも、私が飼いたいなら別にいいんじゃないとは言っていた。鉄がやってきて一週間ぐらいは「おい、犬」とか呼んでたんですよ(笑)。それが今じゃ見苦しいほどのデレデレの溺愛ぶりで、「どうしたんでちゅか〜」状態ですよ。鉄にチュッチュしたり。
伏見 彼にとって鉄は子どものような存在なのかな。
佐藤 子どもなのかなあ。たぶん唯一許される、裸になれる存在なのかもしれない。「ここまで一途に打算なくやってくるおまえは、なんてかわいいんだ」っていうのと、鉄には説教しなくてもいいし、カッコつけなくてもいいというのは、彼にとっていいのかも。
斎藤 だって佐藤さんも彼が鉄に対してそれだけバカになっても許すでしょう。どんなにデレデレしても、「あなた、いい加減しなさいよ!」とか、そういう気持ちにはならないでしょう。
佐藤 バカだなあと思って笑ってますけどね。
斎藤 「私もそうだから」って思えるからね。男の人ってそういうふうにグニャグニャになっちゃう自分を出せる場があったら、絶対幸せだもん。それを共有できたらもっと幸せだと思うよ。
伏見 斎藤さんはきわめて男の人に近い自我のあり方だから、そういうグニャグニャになれる存在が必要なんでしょうか。
斎藤 たぶんそうだと思う。最近、私に若い女がいれば、その女に子どもを産ませたいなっていうのはありますよ。「もし23、24歳の好きになった女が子ども産んでくれたら、そりゃ私はがんばって食わせていくだろうな。そうしたら私はやっぱり、おまえは働くな、家にいろとか絶対に言っちゃうかも」とか、そういうことはものすごく考える。でもたまたま私には精子がないし……。
西野 あの、僕の目の前にいるこの人は誰ですか(笑)。女性ですよね? 誰としゃべってるのかわからなくなっちゃった(笑)。
伏見 じゃあ斎藤さんは母というよりは父として……。
斎藤 だから濃厚なオヤジだってばさ(笑)。
伏見 斎藤さんは働いているし、一人で生きていると、本当に無条件で自分を開くことって難しいんですよね。
斎藤 そうなんですよー。家族にすら開くことはできないからね。実家のマッサージ椅子で寝ちゃったりすると、「しまったー!!」って思うようなやつだからさ。
佐藤 「あ、無防備な姿を見せてしまった!」って?
斎藤 そう。家族の前でこんなにスヤスヤと寝てしまってマズイみたいな。私が家族全体を見渡して、「あ、みんなお茶が飲みたいからいれなきゃ」とか、実家にいるとそういう習性になっちゃってるのね。だから私が寝てる間に、「ごはんの用意ができてるけど食べないの?」とか言われると、「え─!! すまない!」みたいな(笑)。そういう条件反射になっちゃうんだよね。それでいたたまれなくなって、「もうおいとましなければ。時間なので帰ります」みたいな感じになっちゃう。家族との関係は濃いんだけど、解き放ち方を習ってない感じよね。
伏見 そういう人にとっては、無条件で自分のことを受け入れて愛してくれる存在って、やっぱり人間よりも動物のほうがいいのかな。
斎藤 私は前世は絶対動物だったんじゃないかって思うほど、動物に近いんだよね。「人間は前世も人間です」と、そういうことに詳しい人に言われたけど、私は人間世でいる時期がすごく短くて、過去世は動物だったんじゃないかと思うくらい。映画の試写会でも、動物のドキュメントなんか見ると、もうドーッッと涙が流れまくって(笑)。おすぎさんが「私は寝まくったわ」なんて映画評に書いてるような、鳥が飛び続けてるだけの映画も凝視してしまう。小さい時から実家で妹たちが野良犬を連れてきたりしてね。で、私はとにかく家の庭に動物の墓を掘る墓掘り人だったの。妹たちはヒヨコを飼っては、なんか知らないけど殺すのよ。セキセイインコ飼えば外に出しっぱなしとかで殺し……。
西野 あの、積極的に殺してるわけじゃないよね(笑)。
斎藤 一緒に寝てふんづけたとかさ。
西野 過失ね。
斎藤 そう。死んだら私が墓を掘って埋める役だったんだ。だから人間には気をつけろという感覚があったのと、家族に対してそういう意識で生きちゃった小さな頃の時期があったのでそうなっちゃったのかな。
治療費に
半年で
150万円
使った
伏見 僕と斎藤さんはつきあいも長くて、しょっちゅう長電話をするような親しい関係ではありますが、でも斎藤さんは僕に見せてない姿もいっぱい持っているんですよね。意外だと思ったのは、もう亡くなっちゃったうちの猫の末期、歯石がいっぱいついてて痛いらしいという話をした時に、「斎藤さんちの猫も気をつけて」と言ったら、「いやうちは歯のマッサージを毎日やってるから」と言ったので、えー、そんなことを毎日してるんだとびっくりしたことがありました。やっぱり猫に対しての斎藤さんは、ちょっと……。
斎藤 尋常じゃないよ、私。この家に引っ越す前、マンションに住んでた時に、忠太郎のおなかがタポンタポンになって8キロに太って、私ですら万歩計で300歩ぐらいしか歩いてなくて、でも私はパチンコには通ってたから、外に出れば片道18分歩いてたけど、忠太郎はマンションの中だけだから本当にデブになっちゃって、これはいけないと思ったんです。この家には階段があるでしょう? 縦に長い家を買えばいい、跳んだり跳ねたりさせなきゃ、とにかくマンションじゃダメだと思ったの。
西野 縦の運動が猫は大事だからね。
斎藤 そう。だからこの家は、忠ちゃんのために素晴らしくいいと思った。
伏見 斎藤さんにとって、自分の生活のなかのプライオリティのかなりのものが猫にある感じですか。
斎藤 あるね。母親は「忠太郎が死ぬ前に私は死にたいよ。あんたが嘆くところは見たくない」って今から言ってるもん。私は忠太郎が死んじゃったら、身も世もなく嘆いてペットロスになると思う。それは忠太郎が通ってる南浦和のフェリス動物病院の先生方がご存知ですが、何度あそこで私は泣いたことか……。母親が心筋梗塞で倒れてるっていう時期にも、母親そっちのけで、とりあえず忠太郎のことが心配だった。
伏見 忠太郎くんは最近病気になったんですよね。
斎藤 そうなんです。私が気がついてあげたのもちょっと遅かったから、もっと早く気がつけばよかったのにって後悔もあって。腎臓の病気なんですけど、腎臓の細胞が7割ダメになってる時点で気がついたのね。尿の量がすごく多くて、水をすごく飲んで、尿が薄くなっちゃうの。だから腎臓で濾す作業ができなくて、必要な栄養も全部外に出ちゃうわけ。そうすると身体の機能が弱くなって、放っておくと食欲もどんどんなくなる。前の猫は20年生きて、老衰で亡くなりましたという感じで、病気することもなかったから私はあせったんだよね。うちの母親が心筋梗塞で倒れたので、ちょうど実家の母の猫も預かってるんですけど、二匹を会わせたらすっごい勢いでぶつかったのね。その途端に忠太郎がストレスなのかゲボゲボ吐いて。それであわてて、ノリちゃん(伏見)から教えてもらった有名な猫の専門病院に連れてったら、腎不全だと言われたんです。「年内は大丈夫ですよ」とは言われたけど、もう毎日毎日連れてって点滴と注射をしてもらって、朝晩上寿司を食べさせてやってるぐらいの治療費をかけてるからね。
伏見 こんな東京のど真ん中から南浦和まで通院するのはたいへんでしょう。
斎藤 猫のためならば何でもやるよ。南浦和のマンションを買おうかと本気で思ったもん。1500万円ぐらいで買ったほうがいいなら買うよ。そこの病院は猫の専門病院で、観音様みたいなやさしい男性の先生と女性の先生が3人いらっしゃって、待合室は本当に猫好きだらけなの。それこそスフィンクスみたいな、お値段おいくら?みたいな猫から、猫エイズになってる猫たちを集めて治療を受けさせるボランティアみたいな人たちから、いろんな人たちがきてる病院なんだけど、とにかく待合室は猫好きなオーラが充満してる感じ。「うちの猫が一番かわいいっ」っていうオーラがモワーッと立ち昇ってて、「あらー、おたくのかわいいわね」とか言いながら、目はそう言ってないよみたいなね(笑)。でもそれがまたすごく癒されるというか。一般の動物病院は犬もいるからね。犬がいると猫にとってはすごいストレスだから、待合室がストレスの場になっちゃうし。
治療費は、まずお薬が1週間で8千円ぐらい、それで点滴治療と注射で6千円ぐらい、あとはレントゲンを撮ったり血液検査をしたり、ガンの手術もして、細胞診にも出してもらって、何十万かかったかな。とにかく治療費だけでこの半年で150万円はかかったね。
伏見 いろんな検査をすると、その分治療費もかかるんだよね。
斎藤 「細胞診もお願いします」とか、こっちが希望すればやってくれるだけなんだけどね。悪い病院だと入院させる必要もないのにすぐ入院させたりするらしいから、そういう意味ではすごく良心的な病院だと思う。ただ動物は保険が利かないからね。お金をかけようと思えばいくらでもかかるから。
伏見 僕の死んだ猫は、フェリスに、ただうちの近所だからということで診てもらったんですよ。そうしたらその先生は猫の病気について解説するテレビ番組に出演するほどの名医さんで、うちの猫の病気がいいサンプルだということで選ばれてテレビに出たんです。僕は一応飼い主の伏見憲明さんということで、腹だけ出演したんです(笑)。僕はそれまでテレビに出演したこともあったけど、母は僕がテレビに出ても全然喜ばなかったんですよ。そりゃオカマだと言って世間に出たら、親としたらうれしくないんだろうけど、「ペット百科」出演に関しては、「テレビにうちのコが出たのよー」って、大騒ぎ。猫のことなんだけど、親戚中に電話をかけるぐらい喜んでた(笑)。
斎藤 そのお母さんの気持ちはとってもよくわかる(笑)。
伏見 西野さんちのデビちゃんは、病気で苦労されたことは?
西野 2〜3年前、毎日でも吐くようになったことがありました。一時太り過ぎだと言われてからは、低脂肪の缶詰に替えて、ドライの量も減らしてます。「胃腸が弱り始めてるから、それが進むと腎臓も危ないですよ」と言われて、胃腸のお薬はもらってて、それも飲ませながらという状態ですね。猫は腎臓が弱くて尿管が短いから、腎臓の病気にはなりやすいらしいんですよ。
伏見 治療費とかは?
西野 斎藤さんとは比べものにならないけど、1回病院に行くとお薬と注射で8千円とか1万円はかかりますね。僕もデビがもし死んじゃったら、ペットロスで本格的にうつ病になるだろうなとは思ってはいるけれども、斎藤さんの話を聞いてたら、自分のことなんてかわいいもんだと思っちゃった。でも確かに絶対に自分が先に死ぬわけにはいかないと思ってる。僕はデビが死んだらもう二度と飼いたくない。
佐藤 死なれることに耐えられないし、自分が先に死ぬわけにもいかないわけですね。
西野 今の自分の年齢を考えると、次に20年生きる猫だとしたら、それまで自分が元気でいることができるかしら、ということまで考えちゃいます。人間の死、例えば父親が死んでも僕は泣きもしなかったのね。仕事が忙しくて、危篤になってからしか会えなかったから、リアリティがほとんどなくて。それにあんまり父親に対しての情がなかったというのもあるのかもしれないけど。だから猫が死ぬことのほうがすごく身近に感じられる。それはゲイとかノンケとか関係なく、今の世の中、人間なんてどこかの病院で勝手に死んでる、養老院で勝手に死んでる、田舎で勝手に死んでるみたいな、そういう感じありません? ペットは自分の目の前で、今まさに死んでいくところを体験する、それはすごくリアリティがあることだなあと思う。
(その時突然、近寄ってきた忠太郎くんが西野さんに猫パンチをして、西野さん負傷)
西野 顔はやめてっ!
斎藤 忠ちゃん、何やってるの!
(消毒して治療)
伏見 佐藤さんちの鉄はまだ若いから、死については考えてないよね?
佐藤 考えますよ。散歩中に鉄の横を車がビューッと通過したら、「こいつがもしひかれて死んじゃったらどうしよう」とか考えただけで、涙がボロボロボロ出てきちゃう(笑)。
伏見 まだ飼い始めて2ヵ月だけど(笑)。
(つづく)