2007-11-15
QJ 座談会「私はコレで会社を辞めました」後編
「ホモ」と
呼ばれるより
「好き者」の
ほうがまし
伏見 だいたいみなさんのヒストリーを聞かせていただいたと思います。児玉さんは職場でカミングアウトをしていたこともあって、それは最初はうまくいったけど、人間関係次第でどうなるかわからないということでしたが、他の方はカミングアウトというのは職場の中でしてなかったわけですよね?
junchan 職場では全然してなかった。
ラク 僕もまったくしてませんでした。
マリー 私はしてませんでしたが、完全に疑われてました(笑)。
伏見 マリーさんの場合、態度物腰でバレバレってことですか(笑)。
マリー そうですね。お客さんと付き合ってるという噂が流れたり。ただ私は一応仕事はやってますみたいな雰囲気だったので、そういったことはあまり大きなことにはならなかったんですね。
ラク 僕はバレることに関しては恐怖感がすごくあった。ここでバレたら、もうとんでもない扱いになるだろうと思った。
伏見 それはゲイの側が被害妄想的に思ってるだけじゃなくて、現実に差別的な扱いをされるということ?
ラク 例えば、こんなことがありました。入社してすぐの頃、僕はHIVの問題で少しは個人的に啓蒙活動ができたらと思ってたから、上司にエイズの話をしたんです。すると、「ああ、オカマの病気だろ」っていうような反応で、僕が「でも、そんなこともないみたいですよ」と言ったら、「ホモはしょうがないんだよ、そんな病気になっちゃっても」っていう会話で終始しちゃった。そうなると、こっちも何も言えなくなってしまう。こんなやつらが山のようにいると思ったら、とてもカミングアウトなんてできない。だから合コンの話が出たら、ゲイだって悟られないように、自分から「俺も出る!」っていうふうにわざと演じていかないといけない、と(笑)。
伏見 僕のオネェ友達も、付き合いとかでキャバレーとかピンサロに行ったとき、自分から率先して女の肩を抱くようにするって言ってた。心の中で「なんでアタシがこんなことしなきゃならないのよー!!」って叫びながら。
ラク そう、乳をもむとか、誰よりも早くやる(笑)。好き者だと言われるほうがまし。そのほうが楽なんですよ。だから好き者だと思われてた。僕も「彼女いる?」って言われたときは、自分の付き合っている人の性別を置き換えてた。ウソをついていくと破綻していくから、なるべく近いウソをついてた。
伏見 でもラクさんの好きなタイプってけっこう年上じゃない(笑)。それを女性に置き換えると、かなりマニアな感じにならない?
ラク だから、それも年下に置き換える。趣味とか、大丈夫そうなことだけを言う感じ。
junchan 僕は大学のときに告白された女の子がいて、ずっといい友達だったんですけど、彼女がロンドンへ仕事で行っちゃった。だから「彼女がロンドンにいて、めったに会えないんだよね」って言うと、みんな納得して、「そうなんだ。かわいそう」。そんなんであまり突っ込まれなかった。それは使えると思いましたね。
マリー でもそういうのって、二〇代ではいいけど、三〇代、四〇代になると使えない。それがたぶん一番の問題だと思う。
伏見 それで、人生を考える三〇歳の分岐点、というのが出てくるのかな。
マリー そうかもしれない。それに三〇、四〇代になると、会社の昇進の問題があると思うんですよね。結婚は組織で昇っていくときには絶対に一つの問題になると思います。ふつうの企業ならば二〇代、三〇代の頃は「仕事のできる若い子」みたいな存在なら許される。ただ三〇代以降になると、ちょっとそれだけじゃ生き残れなくなる。
ラク 上司だけじゃなくて周りの同僚との関係も難しくなる。みんなだんだん結婚していくから、話題も結婚、新婚生活、子供の話、家の話となっていく。そうすると、その輪に入れないような疎外感を抱かざるを得ないし、周りからもだんだんと遠い存在に見られていくんですよ。
マリー それに足も引っ張られるから、絶対上に昇っていけない。
ラク 結婚してない元の同僚の友達もいまだに言ってる。その人はヘテロなんですが、周りが結婚していくと、遊び友達もいなくなってくるし、飲んでいてもおもしろくなくなってくるって。みんな子供の話になっていくから。それは二〇代後半から三〇代にかけて。
僕は上に上に昇り詰めたいタイプじゃないんです(笑)。安定した、気持ちのいい環境で自分が働いて生きていければいいのに、それもかなわなくなってしまうというのが問題だった。友達もいなくなってくるし。学生時代の友達もどんどん切れていくわけで、それで会社の友達も結婚して離れていったら、孤立していくしかない。
伏見 junchanは女装でパフォーマンスするくらいオネェ道をきわめてますが(笑)、マリーさんのようにバレバレ状態にはならなかったの? そういえば最近でこそヒゲを生やしてるけど、昔は女から男へのトランスセクシュアルに間違われるほどフェミニンだったじゃないですか。
junchan そうです(笑)。若い頃は二丁目でも一、二位を争うオンナ顔って言われた。短髪で顔が女だからレズタチだと(笑)。でも実は、よく考えてみると、世間のモテ筋の男の子って、別にヒゲ生やしてないし、髪も長いし細いんですよ。僕も昔は髪を長くしてたので、「わりと遊び人をめざしてる風なのね」みたいな人に思われて、意外と疑われなかったんです。
伏見 逆に二丁目だとよけいオネェが浮き立っちゃうんだ(笑)。でも、私語も禁止されるような職場ということは、自分の話なんかしないわけでしょう。
junchan 自分の好きなものの話とかは一切しませんでしたね。「学生時代はなにやってたの?」と聞かれると「芝居やってたんですよ」「ふーん」ぐらいで終わり。あとは車の話とかになっちゃうので。
ラク 変わり者というジャンルもありなんだよね。結婚の話も持ちかけられないぐらいの雰囲気を出す。それはオネェを出すのではなくて、オネェをひっくり返して変わり者になってしまうというやりかた。
伏見 職場の中のアンタッチャブルな存在になるわけね。
ラク でもそれをやれるのは、仕事もできる人でないといけない。やるべきことはやって、有無を言わせない状態で変わり者でいる。
伏見 junchanはその路線だったんだ。
junchan そうなんです。たまたま仕事ができたほうなんで、いいんじゃない? みたいな感じ。職場に自分の場所はあったから。
ラク ゲイの人って、意外と仕事をがんばる人が多いと思う。自分の気持ちの中で、負い目じゃないけど、何も言わせないっていうところがある。
伏見 負い目とオネェの負けず嫌いね(笑)。
junchan うちのパートナーが前に営業だったとき、「オカマだからって、バカにされたくないから、そのへんの男には絶対に勝ちたい」と言ってて、なるほどなあと思った。
マリー そこで闘志がかき立てられるんだと思う。負けたくないと思ってる人は多いと思いますよね。
大きな会社ほど
セックスネタは
重要?
伏見 この前インターネットで会社の問題を検索をしているときに、悩み相談のサイトで、あるゲイの人が「自分がゲイだということを、職場でカミングアウトしようか迷ってるがどうしたらよいか」というのに対し、「プライベートなことを会社で言う必要はない」という意見が、ゲイからもヘテロの人からも出ていたのね。僕はそれも一つの考え方だと思うけど、でも、職場の中でセクシュアリティというかエッチな話、そういうプライベートな話というのは、一般的には語られないものなのだろうか。
junchan 僕の会社は堅かったせいもあるかもしれないけど、セックスがらみの話はほとんど出てきませんでしたね。
ラク 仕事ではなかったな。
伏見 だってソープとかは行ったんでしょ?
ラク それはもうきちっと分けてた。ピンクなところに行くときだけそうなるんです。終わった後の飲み会も、上司がいないときにはエッチな話題になるけど、上司がいるときは仕事の話ばかり。
伏見 でもソープに行ったりするというのは、ある意味で業務なんでしょう。
ラク 接待のときもあるし、「ボーナスもらったから行くぞ」というイベントだったり。僕がもといた会社ってすごくヘンで、ボーナスで五万円をなぜか現金でくれるんですよ。それ以外は振り込まれる。現ナマのありがたみを知らしめるってことなのかわからないんですけど、その五万円は、もらったその日のうちに使うっていう伝統がある。気持ち悪いっちゃ気持ち悪いんだけど(笑)。
マリー その五万円の使用目的は、決められてるんですね。
伏見 それってプライベートではない部分ですよね。職場というのは、ソープの中での話とかも語られる空間だということ。そうすると自分のものすごくプライベートなことまでが、職場の人間関係の中で開示されてるってことでしょ。
ラク そうですね。
マリー 自分がしゃべってなくても、ある程度それぞれの性の好みであるとか知ってる。
私の場合、最初の会社は思いきりそういうことがあったから、イヤになってしまったんですが、その後はなんとなく、暗黙の了解でバレバレという感じだったので、「彼女いるんでしょ。クスッ」みたいに笑われつつ(笑)、「そんなことはないと思うけど」みたいのはあったけど。基本的に小さい会社だったので、それが大きなトピックになることはなかったんですね。仕事をちゃんとやりましょう、利益を出しましょうという感じだった。個人が持ってくる利益が見えてくるので、それさえあればOK。逆に、大きな会社だと、自分が出す利益よりも、周りと和を保つことのほうが大切なんだと思うんですね。周りと仲良くやることのほうが重要で、利益を上げることは二の次という感じなんじゃないですか。プライオリティの違いというか。小さな会社だと、誰が仕事ができる、できないということに話が集中する。大きな会社だとあまり関係ないから、「あの人のセックスはていねいだからね」というほうが話としては面白いし、意味が出てくることなんだと思いますね。
伏見 それ面白い話だな。大きな会社ほど、自分のプライベートなことが、職場で重要な役割として機能するって。
マリー 小さい会社だと、みんな基本的にバラバラなんですね。人のことは関係ない。
伏見 とすると、ゲイやレズビアンであることが問題になるのは、より大きな会社の場合だということにもなる。
マリー ただ、仕事ができた場合はいいと思うけど、できなくて小さい会社にいて、「あいつは仕事ができない。さらにホモだ」みたいになると、もうどこにも行きようがないと思うんですよね。だったら大きな会社にいて、貝のように口を閉ざして、変わり者オーラを放っていたほうが、収入的にも保障されるし、なんとなく生き残っていけるというのはあるかもしれない。
その人その人の
価値観と会社
ラク うちのバーに来るお客さんと話してると、仕事と自分のやりたいことをバランスよく分けながら生きている人が多いようです。その一方で、全然違う人もいて、大手の会社で転勤で全国を回ったり、商社とかで海外にガンガン行きながら、そういうライフスタイルを楽しんでいる。ゲイで楽しい時間もあるかもしれないけど、それは自分に与えられた業というか性にすぎない、だから出世とか他の部分の幸せも手に入れたいんだという価値観を持っているゲイの人たちも、少なからずいますね。会社辞めるなんてとんでもないという人とか。
マリー いまはどの企業にいても、会社がどうなるかわからないじゃないですか。だからゲイでサラリーマンであることは二重の苦しみだと思うんですよね。自分がそこに一生懸命はりついていても、その会社自体が倒れちゃったらアウトだし、さらに自分のセクシュアリティがバレたらアウトだしっていう、そんな二重の苦しみがあってかわいそうだなあと思う。
ラク そう。ここのところリストラされてる人もけっこういる。そのショックは、そうやって頑なに自分を守ってた人のほうが大きくて、立ち直りがすごく遅い。逆に個人の幸せを大切にしてる人のほうが、リストラされても適応能力はあるなと思う。
マリー うちは一種駆け込み寺みたいになりそうになったんです。ゲイの会社であるというパブがメディアに出たら、なぜか旅行業という仕事の経験有無を問わず、ゲイの人たちからものすごい量の履歴書が来たんです。
ラク 事実、ゲイバー業界で言うと、新橋がここ三年で三〇軒から六〇軒と倍に増えてるんですが、それはリストラ組が開業したからとも言われている。新橋という街自体がサラリーマンの街だから、一般の店がつぶれてテナントが安くなってるんです。だいたい新橋に飲みに行く人たちは、新宿と違って年齢層が高いんです。四〇代、五〇代と一番リストラされやすい人たち。早期退職金をもらってまとまったお金が手に入る人は、開業しやすいのかもしれません。
ゲイの同僚と
協力し合えるか
伏見 女の人の場合、結婚するというのはサラリーウーマンとしてはマイナスな面もあるわけじゃないですか。でも男の人の場合は、逆に結婚したほうがそんなにプラスになるわけですか。
ラク 絶対プラスに働きますね。
伏見 しないと本当にダメなの? 昔から言われてるけど、男にとって結婚というのは社会的信用なのか。
ラク それはあります。
マリー うん、あると思います。
ラク ある程度の規模の会社だと、それはありますね。
マリー あとはみんなと同じに並ぶということですね。
ラク ほとんど右へならえだから。
マリー かえって既婚者のサラリーマンは、独身の人に嫉妬してるんじゃないかなという気もするんですよね。「あいつは気楽にやってる。自分みたいに責任を負わずにやってるとはなにごとだ」みたいな。
ラク サラリーマンというのは結局、みんなと同じことをこなせるということが一番の資質なので、結婚というのもみんながしていることだから、それもできないのかっていうことになる。できてこそ一人前。
マリー 「自分はこんなにつらいことやってるんだから、おまえもやれ」的なことは、絶対あると思う。
伏見 junchanは結婚しろとは言われなかったの?
junchan 面接のときに聞かれたことはあるんです。僕は一般の会社にいたのが二七歳までだから、まだギリギリそれほどは言われなかった。
ラク 僕は一年に一度の人事で聞かれました。転勤のこともあるから、結婚を考えてるんだったら言ってくれと言われました。
junchan 部長クラスの人で結婚してない人もいましたが、でもそれは、見た目的に「これはできないだろう」という、みんな納得みたいな人(笑)。
伏見 ゲイでも、超ブスだとその文脈で納得されるからけっこう生き残りやすいかも?(笑)
junchan そうかもしれない(笑)。意外な抜け道。でもゲイの美意識が許さないと思うけど。
ラク かなりひどいルックスでも、きれいな洋服を着て歩いていれば、それなりに見えるから。だってそういうストレートの結婚できない男たちって、本当にきたないからね(笑)。
伏見 会社内で同性愛者どうしが協力し合うということはないのかな。
マリー 知っている会社にゲイが二人いましたが、お互いに秘密をバラし合い、刺し合う状況だった。相手を貶めれば、自分は助かるみたいだから。でも実は二人とも溺れてたんだけど(笑)。
伏見 それはよくあるんだよね。学校なんかでも、自分がホモだからこそ、いっしょうけんめい男らしくふるまい、誰かをオカマだと言っていじめるってパターン。
ラク 同じ職場に何人かゲイがいるというお客さんが、「俺たちは男は好きだけど、クネクネ系とは違う。だからオネェのやつは認めないし、自分たちの仲間には入れない。あいつと一緒に会社にいたら、バレバレのカミングアウトになっちゃうから」とか言っていた。野郎系なんですが。
伏見 そこでもヒエラルキーはあるのね。はたから見れば、マッチョもオネェも変態でしかないのにそこで差別し合う。
ラク そうなの。だからみんなが、「ああ、良かった。同じ会社にゲイがいて」という環境ではないと思う。
伏見 同性愛者どうしほど憎み合うっていうことはあるよね。でも、その野郎系の人たちは、結婚はしてるの? するの?
ラク 絶対しないと思う。
伏見 とすると、その人たちも、結婚適齢期を過ぎたあたりで、大きな障害にぶつかるよね。いくらオラオラやってたって、家庭を持たずに男が歳を取れば、世間では「なんだ、あいつ、ホモなんだー」とか言われてしまうわけだから。そういうマッチョ系もゲイ差別全体の構造について考えてほしい気がする。
junchan 一方、聞いた話なんですけど、業種的にゲイの人が多くてネットワークができている会社もあるんだって。内線で電話し合ったりして、月間の業績発表とかのときとか、成績が悪いと、オカマの同僚から「ちょっとあんた、がんばんなさい」という電話が入るとか(笑)。励まし合って協力し合ってがんばってる。それ、けっこう有名な大きな会社の話なんだけど。
ノンケの人生は
かわいそう
伏見 マイノリティの側から見ると、ヘテロの男性社員のありようというのはずいぶん違うと思いますか。
マリー 私は自分がすごく負けず嫌いな分だけ(笑)、彼らの怠惰なところが気になりましたね。自分が男だからある程度昇っていけるという、もともとの確信があることで危機感がないんですね。ゲイの人は常に危機感がありますから、自分はどうやって生きていこうということを、常に考えてると思うんですよ。そういうことは仕事の中にも出てくると思います。
junchan 僕はたまたまかもしれないけど、同世代の社員の人たちは、ファッションにもけっこう敏感だし、見た目的にはそんなにノンケだからダサイというのもなくて、自然に仲良くできてましたね。上の世代になると、スーツもダサイし、言ってることも寒いし(笑)。同期のノンケの人たちっていうのは、付き合いやすくて、居心地が良かったんじゃないかって思うんですよね。
ラク やっぱりjunchanと同じで、僕らくらいの世代はおしゃれにも敏感で、みんなキレイで、見た目的にはゲイと変わらなかったけどね。でも話の中身で突き詰めていくと全然合わなかった。
伏見 世間で言われてるようにストレートの男の人というのは、会社イコール自分の人生というのが、本当にあるのかな。
マリー junchanのように新卒で働きだしてから三年間くらいだと、それ以外の時間は他に何もやりようがないし、ある意味洗脳されてるんだと思うんですよね。
ラク ヘテロの社員に聞いたことがあるけど、結婚に逃げ場を求めているんだと思う。それまで行き詰まって生きてたのが、家に帰れば自分の身の回りのことをやってくれる奥さんがいる、子供という楽しみもあるというように、趣味の世界を結婚によって初めて経験するみたい。
ラク そこまでは考えてない。でも、仕事に行き詰まって、結婚によって何かが変わるんじゃないかと思ってる人が、少なからずいましたね。
伏見 結婚が逆に趣味になるっていうのは、ちょっとそれも倒錯していて面白い話だな。
ラク ゲイの人たちみたいに「大好き、大好き! この人とセックスが合う!」で一緒になるんじゃないから、結婚は本当に一つのプロセスというかイベントだよね。だからこそそれですごく「変わるんじゃないかしら」っていう幻想を持ってる人が多い。
junchan うちの会社は社内結婚が異常に多かったんですよ。半分ぐらい女性だったし。
ラク それ怖い。でもふつうそこしか出会いの場がないからね。
junchan 閉じられてるなというのはものすごく感じた。運動会をやると、退職した先輩の女性社員とかがいっぱい来るという世界。だから僕が思うのは、ノンケの人はかわいそう。可能性が閉ざされてる。大恋愛もほとんどないし、趣味の実現とかもないみたいだし、そういう持続した世界に生きている。
マリー 自閉したコミュニティの中で生きているんだよね。だからそれが壊れたときは困ってしまう。
伏見 あぁ、逆にノンケのほうが閉じられてるんだ!
マリー それは絶対そうだと思う。
伏見 そうね。この業界にいると、友達の業種とか年齢の幅はやたら広くなるよね。そういう意味で言うと、プライベートと会社というのがすぱっと分かれている分だけ、プライベートの比重がゲイやレズビアンの人たちは大きいよね。
ラク だから、そこがどんどん侵害されてなくなってくると、現在の仕事の環境を変えなきゃいけないと思う人は、ゲイには圧倒的に多いんじゃないかな。
伏見 アフターファイブとか休日の過ごし方で、ノンケの人たちは何をしてるんだろうという話が出ましたが、児玉さんはそこにレズビアン活動を集中させるわけですか。ノンケの付き合いというのは、どうなってますか。
ラク 二五歳過ぎると学生時代の友達とは本当に疎遠になるし、ゲイ・コミュニティの人と話す快感を覚えたいま、それはもう面倒くさい。会社の人と飲んでるときは緊張してたから全然酔えなかった。休日はたまに部のみんなと秋川渓谷へキャンプとか、会社の運動会とかには参加してたけど、だいたいはゲイの友達とホーム・パーティとか二丁目に行ったり、友達と映画を観に行ったりしてた。ほとんどゲイ関係の人とコミュニケーションをとってた。
ゲイどうしは
付き合いやすいのか
マリー あの、実は私、ゲイの友達が少ないんですね。こんなところで告白するような問題じゃないんですけど(笑)。本当にいないんですよ。だからバランスはとれてたのかもしれません。会社は女性のほうが多かったんですが、同僚の女性と飲みに行ったり遊びに行ったりして、私がゲイだと知ってる人が多いほうが、かえって楽でしたね。私はゲイの人たちがたくさんいると、負けず嫌いの性格が出てきて、ドロドロの中に勝手に一人で入っていくところがあるんです。
伏見 よくわからないんだけど(笑)、ゲイの中でもみんなにイケてると思われたいってこと?
マリー それもあるかもしれない(笑)。みんながゲイだというとき、誰が誰に興味があるかというような雰囲気があると、リラックスできなくてダメなんですよ。
伏見 あぁ、マリーさんってみんなに愛されたい人なのね(笑)。
マリー 簡単に言えばそう。基本的には勝てる勝負しかしない人間なんですね。
伏見 僕もこういう商売してるけど、ふだんはそんなにゲイの人と個人的な関係はないんだよね。かえって女の子といるほうがリラックスできる。
マリー 私は絶対リラックスできますね。
伏見 ゲイの温泉旅行なんて行って、絶対に他のゲイの友達の前でチンコなんか見せられないもん(笑)。
マリー 僕も前の会社を辞めて、いまの会社を設立してからは四六時中、ゲイの人といっしょ。ゲイ以外とはこの一週間しゃべってないという環境にガラッと変わってしまって、ちょっとストレスがあるんです。
ラク 僕の場合は、小学校の同級生が東京に一〇人ぐらい来てて、県人会で三カ月に一回集まってるんですよ。僕は毎回参加してて、そこに行くとホッとしてバランスがとれるんです。常にゲイの人だけのところにいると、自分がダメになっちゃうような気がしちゃって、県人会に行くと自分は一国民だという気持ちになって(笑)、帰ってくる。そうするとちょっと元気になって、またゲイ業界の中で働けるという感じです。だから、週に一日休みがありますけど、全然ゲイバーとか飲みに行かないですね。
junchan 僕は本当にゲイが好きなので、四六時中ゲイでも全然平気なんです(笑)。
マリー 僕もゲイは好きなんですよ(笑)。
junchan 精神的にストレスというのが、前に比べて全然ないんですね。緊張状態がないというか、素のままの自分でいつもいられるというか。
マリー グループ活動が得意な人と、個人活動が得意な人がいると思いますが、私はグループにはあまりファンクションしない人間だと思うんですね。ヘテロの人でも、会社の人と朝から晩まで一緒にいるのが好きな人もいるだろうし、そうじゃない人ももちろんいると思いますが、ゲイでもそれは同じ。
伏見 junchanは編集部の中で、ゲイと一緒に仕事をすることでやりづらいということはないの?
junchan ゲイだからっていうことではないんですよ。ゲイと仕事をするのは本当に楽しいんです。ただ、ゲイだからではなく、キツイ人とかヘンな人とかはちょっと付き合いづらい(笑)。
伏見 セクシュアリティを隠さずにすむというのは、何にも替え難いもの?
junchan そうですね。いまのほうが前に比べて時間的にはキツイ仕事なんですけど、それでも精神的なことを考えると楽ですね。
ラク 僕も前の会社よりは今の方ががずっといい。ただ、外の空気、社会の空気を吸いたくなることはあるんです。ゲイバーってものすごく狭くて、話す会話もだいたい決まりきっていて、社会の息吹が欲しくなるときがときどきあります。
伏見 「あんたたち、チンコとケツマンコしか考えることはないの!」って感じになる(笑)。
ラク それはある(笑)。もう一種の主婦状態なんですよ。
伏見 でもみんなバーにはその部分を求めに行くんだからね。
ラク それにある程度応えないと、経営として成り立たないからやるけど、やっぱり自分たちも外に出て、みんながうちの店に来るように、僕も保健室が欲しいみたいなところはある。
伏見 マリーさんのところは何人でやってるの?
マリー 三人。常勤は二人です。
伏見 その人たちはどういうセクシュアリティなんですか。
マリー ゲイの人たちです。でもうちは一一月から始まったばかりなので、今後どういうふうになるかわからないんですけど、基本的に私は仕事とプライベートを分けている。
伏見 一緒に働く人を選ぶときに、ゲイの人を選んだというのは偶然だったんですか。
マリー はい。うちはゲイの人をターゲットにしてるので、お客さんにしてみたら、希望とかがよくわかってる人が対応したほうがいいだろうと。別にゲイではない人でも良かったんですけど、全部最初から説明しなきゃいけないじゃないですか。それはちょっと面倒くさいから、最初からわかりやすい人のほうがいいかなと思いました。
伏見 そういう意味ではjunchanのところなんて、プライベートどころか、みんなケツの穴まで知ってるような関係でしょう(笑)。
junchan そう、それで職場でさんざん突っ込まれるわけだから、つらい。「ここは仕事場じゃないの?」みたいな感じ。ハッテン場なんかに行ったら、すぐに噂が回ってさんざん言われちゃうし、プライバシーなんて何もないんです(笑)。
ドメスティック・
パートナーシップ制度は欲しいか
伏見 最後に。欧米ではドメスティック・パートナーシップ制度というのが企業や自治体などで導入されているケースがあります。忌引や看護休暇、健康保険のパートナーへの適用とか、いろいろな便宜が選択的にそれぞれのケースで実施されている。そういうのはあったほうがいいと思いますか。マリーさんは自分で会社をやっていて、どう考えますか。
マリー 私はプライバシーと仕事は分けたいほうなので、あまりそれを作ろうとも思わないし、欲しいともあまり思わないですね。私の以前の会社の顧客にアメリカの某企業もあったんですが、そこの内部を見てみると、アメリカでそういうシステムがあったとしても、やっぱりゲイであることは社内ではクスクス言われるし、ゲイ・フレンドリーと言われているその企業でさえ、そのことは昇進の足かせになってるんですね。アメリカでも、使える立場でも、使わない人は多いみたい。ファンクションしてないルールなのであれば、私はそんなのがあったってなくたって別にどっちでもいいのではないかと思いますね。それに会社にそこまで面倒見てもらいたくないということもあるかもしれない。
ラク 僕もそういった制度はいらないですね。パートナーと住める社宅があれば、経済的にはすごく助かるだろうけど、会社にカミングアウトをしたために、昇進で足かせになったり、周りでクスクス笑われるというデメリットがあるのなら、仕事をがんばって、自分のお金で稼いで二人で同居するほうに努力を傾けますね。
junchan 僕は世の中全体にゲイが受け入れられている、というのが前提としてあって、その上でその制度が導入されることが喜ばしいことだと思いますけど、まずそこまでいくのがものすごく大変なことだと思う。カミングアウトすら全然できてない状態なので。
伏見 いまそれを導入しようとしても、コストとベネフィットをはかりにかければ、完全にコストのほうが高くつくでしょうね。ただ、制度上、ヘテロの人に比べてゲイやレズビアンが不利益を被ってることは確かなんですが。
マリー そういう制度はあったほうがいいと思いますが、それを使う使わないは僕らの自由なので、選べるという環境にあるほうがいいでしょうね。
マリー それなりの収入がある人にはあまり必要がないのかもしれないけど、環境的に許されない人たちがいるとしたら必要。
伏見 転勤のことを考えると、同性カップルにも何か便宜はあったほうがいいような気はする。転勤というのはすごく大きな問題だよね。
マリー 大きい。
ラク だから東京のような都会で職場を見つけて、そこに住むことを前提に、会社を選ぶ人はすごく多いですね。でもゲイの中でも、とりたててパートナーを欲してない人たちもたくさんいるので、転勤があることを逆に喜んでる人もいる。三年、四年ごとに常に新しい自分を演じられる環境にあるほうがいいっていう人もいるし(笑)。
伏見 イナゴみたいに土地土地で男を食い荒らす(笑)。それも幸せだよね。
ラク だからその人にとっては、自分のライフスタイルの好みと、会社の仕組みと合致してるんですよ。「今度は北の男!」「次は南の男!」みたいに。
伏見 なるほどね。
本日はさまざまなお話をそれぞれの立場からお聞きして、大変勉強になりました。長い時間、どうもありがとうございました。
(了)