2002-06-10

IT時代における出版メディアの挑戦

 2002年6月8日(土)、中部大学人文学部コミュニケーション学科に沢辺均氏(ポット出版・代表取締役)を招いて「私はこうして出版社を作った―IT時代における出版メディアの挑戦」というテーマで学生向けの講演&トークをおこなった。

 なぜ私がこの企画を考えたかというと、学生たちに出版現場がどうなっているのかを体感してもらいたかったことと、デジタル化とネットワーク化によって小さな出版社にも新たなビジネスチャンスがめぐってきていることを伝えたかったのである。

 そして、その結果はどうだっただろうか。

 出版について熱く本音で語る沢辺さんの迫力と、本のデータベース、ネットワークでの販売と決済、本のダウンロード販売のサイトとしての「版元ドットコム」を展開している沢辺さんのスキルの両面を、学生は十分に感じたようである。また、出版社を作るには、あるいは出版社で仕事をするには本の仕事への熱意と愛着、そしてなによりも自分がやりたいことを十分に自覚している冷静さが必要であることがわかっただろう。

 そこで、今回は学生たちのミニ・レポートを読んでいただこう。

中部大学人文学部コミュニケーション学科主催・講演&トーク
「私はこうして出版社を作った!―IT時代における出版メディアの挑戦」
ゲスト●沢辺 均氏(ポット出版・代表取締役)
聞き手●湯浅 俊彦(中部大学・講師)

2002年6月8日(土)11:00ー12:40
[中部大学人文学部27号館 2742教室・参加者36名]

 

設問1●本日の講演&トークを聞いて、出版社の作り方、出版社の仕事についてあなたはどう思いましたか?

回答●
●もともと出版社の仕事に興味があるので、実際に仕事の内容を聞けてとても参考になりました。驚いたのは本の売上げの利益のうちわけです。1ページ分が意外に安いということにビックリしました。本を1冊売るのには、出版社や書店などたくさんの機関を経るので大変なことなんだと実感しました。
●聞いただけでは出版社を作るのはかんたんだと思った。しかし、作った後、今の日本の出版社業界でいきていくには、出版にかけるあついなにかをもっている人たちが必要なんだと思った。そのなにかとは、わからなかったけど、きっと人の心を動かすなにかと思う。
●こんな簡単でいいのかっと思いました。そして裏の現実を知っておもしろかった。出版社の仕事って、とても大変そうだけど、やりがいはとてもありそうな気がした。
●小さくても自分たちで出版社を作ることができるということが驚いた。
●大きな会社より中小の会社の方がいろいろな挑戦ができるということは、とても大きなことだと思った。
●出版社の人から話を聞くことができて良かった。出版の仕事について興味を抱いた。毎日のように繰り返し出版される本を買い手からではわからないたいへんさがあるように感じた。本を作るということは色々な知識を学び、みにつけていかなければ良い本を作れないんだなあと思った。今日、本屋に行ったらいつもと違う見方で本を選んでいる私がいると思う。
●出版社と聞いたら大きな出版社しか想像できなかった。家の本などはすべて有名な出版社だし。でも今日の講演を聞いて出版社と作り方など知っていくうちに小さな出版社は新しいことを開発することができるというみりょくある仕事だと思った。
●出版社の人はもっとマニアックなイメージがあったけど、意外におもしろそうな人でトークもおもしろかった。ちょっとだけ出版社に興味がわいてきた。
●作り方としては許認可も資格もいらないということで、ポット出版社さんも、今はそれほど大きい会社ではないにしても、社長さんの前向きな考え方、向上心のあるところや、小さいからこそいろいろ挑戦できるということがあるということがわかった。もぐり込む方法、一緒に働きたい社員というお話がとてもタメになり、心をひびかせる、心を動かせる人になるにはストレートな行動がきくということが大事であり、50万円もっていって1年間タダ働きでいいから仕事させてくださいというのに、なにかそれほど意識していなかったけど、そういうことが大事だということをあらためて感じて、目からウロコってかんじになりました。
●出版社を作るのは簡単、それを継続させるのは非常に困難だということを感じさせられた。それに加えて本を読むヒトが減り、出版業界はあまりかんばしい状態ではない。そんな状況下だからこそのインターネットを使っての新しい試み、何か新しいことをするのには、メリットよりはデメリットの方が多いと思う。開拓心こそ、必要な業界なのだろう。
●興味あることだったので、眠らずに聞くことができた。知識が全然なかったけれど、わかりやすい講義だったので理解することができた。
●出版社は思っていたより、地道な努力があってとても大変な業界だと感じた。奇抜な発想を持っている人だと思った。
●学科は違うけど、作り方というよりも仕事の内容がよく分かった。一つの事を極めていけばどんな会社にも入れる可能性があると思った。これからの希望が見えるような講演だった。
●少し興味を持ちました。でもかなり大変な仕事だということもわかりました。収入も思ったよりも少ないこともわかりました。でもすごく楽しそうだとも思いました。今は日本語日本文化学科だけどコミュニケーション学科に転科してこのようなことを勉強したいと思った。
●自分はJ科だけど出版社に興味があり参加したが、仕事はとてもたいへんだなと思った。原稿料とか思ったより安いし、自分がなにげなくだしている本の代金も初めて、そのうちわけが知れたしよかった。ますます出版社ではたらきたくなった。
●本を作ること自体はそんなに難しくないことにおどろいた。出版の難しさはいかに売れる内容の本をつくり、いかに売れ残りを出さないかと言うこともわかった。出版をする方の人、とくに小さな出版社の人々の苦労もよくわかった。
●出版社は思ったより簡単につくれるものなんだと思った。専門学校へいっても出版社の仕事には殆ど役にたたないと聞いて驚いた。これなら沢辺さんの言うとおり、50万持って「一年間タダ働きでやとって下さい」と言うのも悪くないなと思った。
●出版社の現状のつらさがよく分かりました。本屋の取り分が22%ということも驚きました。パソコンの必要性も重要なことであり、IT時代の影響も反映されてるんだなあと思いました。
●「出版社は喫茶店のような許可がいらないので、つくろうと思えば誰でもつくれるがどのようにしたら本屋に本を取り扱ってくれるかが問題」と聞いたとき、とても難しそうな仕事だなと思いました。仕事の内容が定まっていればそれをこなすだけだけれど出版社の仕事は他の仕事よりも戦略が必要だと思いました。
●だれにでもできるといっていた出版社だからこそ個人のスキルが大事なんだと思った。逆に成功するのは普通の仕事よりも難しいと思う。
●やっぱりどんなことであれ、続けていくこと、維持していくことが一番重要で難しいんだろうなーと思いました。お金がたくさんもらえるわけでないし、休みだって無くなってしまうかもしれない。よっぽど本が好きじゃないとやっていけないだろうなーと思いました。
●わかりやすくとてもよかったとおもいました。つくることはかんたんでもつづけることがむづかしいのがいろいろなことといっしょなんだとわかってよかったとおもいました。
●今日、日本が不景気であり、就職が難しいというのを再確認した。やはり今、普通の人間は就職がむずかしいのだと感じた。なにか持っている人間は社会にでてももっと成功するのだろう。実際には講演を聞いてみてそう感じた。私もいざ就職の時に普通のことしか言えなさそうで不安になってきた。自分にほかの人と違うものを持っているのだろうか。それを大学生活で見つけ出さなければいけないと感じてしまった。
●雇う側からみると余りピンとくる人がいないということがわかった。
●雇う側の感想を聞けてよかったです。出版社の仕事は大変だなぁーと思った。
●責任感や自分の考えがしっかりある人ではないとできない仕事だと思った。目的のことをこなすには、ただ人についていくのではなく、仕事を自分で覚え、自分でのばしていかなければ出版社の仕事はできないと思った。
●出版社の苦労というものがとてもよくわかった。特に印象に残ったことは2000部しか本を発行しなくなったというところです。確かに最近は本の売上げが落ちてきているということを言われていますが、2000部というのは本当に少ない。というより少なすぎるということを思います。そういったところに出版社の仕事の苦労がわかったような気がしました。
●今は本を取次屋に出しているだけではダメだということが分かった。出版社を作るには独自の販売形態が必要だと思った。他の会社と同じことをやっていては現代の競争時代には勝てないんだなぁ…..。
●私は経済方面の話が苦手なので、いまいち分からなかった。出版社の仕事は社長によって違うという話が興味深く思った。
●本日の講演を聞いて出版者の仕事及び作り方、それほど簡単じゃないです。
●出版社の取り分は全体の67%もあるが、その中には印税や制作費や編集費がふくまれており、少なくなる。社員もいるので、結構少ないなと思った。
●いろいろ考えられていて大変な印象をうけた。
●出版社にもいろいろあって、小さな会社から大きな会社があるってことを知りました。ただ、出版社を作るのはむずかしくて私の頭ではどれだけがすごいのとかがわからなかったから、本を1さつ万引きされたら5さつ以上売らないと利益がないなんて、どうやって経営が成り立つのかなと思った。あとやっぱり出版社はもうからないって言った意味もなんとなくわかった。
●すごく儲かる仕事だと思っていたが自分が思っていたより儲からないなと思った。
●「現実とはこんなものか?!」とか感心した。金銭面は微妙に切なくなるなあ。特に中小企業はどのジャンルも一緒だと不景気を嘆きたくなった。
●出版社は簡単に作れると言っていたけれど、簡単には作れないと思った。出版社はお金がもうかるかと思ったけど、仕事は大変だけどあまりお金がもうからないのだと思った。出版社の仕事は大変だなぁと思った。

設問2●IT時代といわれる今日、出版社はどう変化しつつあるのか。あなたの感想を自由に書いてください。

回答●
●昔よりもいい時代になり、選択肢が多く、やろうと思えばできるということは僕たちに対しての魂のメッセージでした。
●IT時代を迎えて、パソコンやインターネットが普及してきたので、出版社の働きもそれと共に変化してきている。この間学んだオンデマンド販売が実際に出版社で行われてことによって、本の販売の仕方が大きく変わったので、その変化に驚いたし、すごいと思った。
●本をつくるということはもうだれにもできるようになった。
●出版社はこれからいかにおもしろい人をえらんで本をかりてもらうかというのがすごくじゅうようになってきている気がした。これから本が売れるっていうのはむずかしいと思うけど、本をよむというのがふえると思う。だから、おもしろい本ではなく、おもしろい文がたくさんでてくると思った。
●今はITが入ってきて、試行錯誤の時代な気がする。しかし今までの授業であったように、ITをうまく利用し共存していくんだろうなと思う。でも、ここで勝ち組と負け組がはっきり出てくる気がする。
●本だけでなく電子本をどのように売り出していくのか(電子本だけにするか、電子本と本を売り出すのか)が問題なのかもしれないと思った。
●複雑だったものが、どんどん簡潔なものになっていくと思う。
●IT時代だからこそ色々な方向から本を作り出すことができるだろう。インターネットでも本を読むことができるなど便利だ。「出版社」を私の中で大きすぎてよくわからないところだったのが、この講義を聞くことができ、近づけたような気がする。
●もしかしたらインターネットなどのITの情報で用がたせてしまい、出版社というものがなくなってしまうかもしれない。けれどその中で新しいことをやっていくことのできる「小さな出版社」という存在が勝ち残っていけるのかもしれない思った。
●最近は出版する本の数の少なさにびっくりした。でも、その中でもハリー・ポッターなどは何百万部も出版してるから本当にすごいと思った。
●インターネットを使っての「青空文庫」。もしかしたらBSデジタル放映を使っての新しい「本」の形態ができるかも知れない。
●IT時代により昔からある出版社自体の活動は小さくなってきている。そのITをどのように使って拡大していくかは、出版社のがんばりにかかっている。これからどう変化していくのか、それを見ていきたい。
●一般の考えにとらわれない、自由な発想が必要になっていくと思う。
●限られた人々だけからもった一般の人々もかんたんに本がつくれるようになると思う。売るのはもっとむずかしくなると思うが。
●カメラなどの機材が安くなり誰でも手に入れるようになった今、出版社は誰でもつくれるようになったと思う。
●少人数でも出版業界では生きていける時代に変化していて、短時間で本が製作可能になっている。
●IT時代という時代の変化にともなって、出版社もインターネットを利用したりするなど変化していると思います。
●これからは本屋にいかなくても本が読める時代になってくるから、出版社はどこにでもチャンスがあると思う。小さな出版社でもチャンスが十分あると思うし、個人のスキルを高めていくことが大事だと思う。
●どうやって売り込んでいくのか、どうやって知名度を上げるのか、その辺のやりとりやかけひきが複雑になってきていると思うので、難しくなっているんだと思いました。
●うねりがある。
●ITが発達し、出版社は苦しくなる一方ではないだろうか。難しいことはよく分からないが本が好きな人はたくさんいるから大丈夫じゃないかなぁ。
●IT時代になって、昔なら100万ぐらいかかった撮影が30万ぐらいでできる時代になった。僕らもやればできる時代だということがわかった。
●10年前にできなかった事が今の現代にできるようになり、IT時代と進化した。
●進化する現代にとって、ITをつかっていけば色々なことができると思う。
●昔ながらの手法から脱皮して本もITに負けない経営をしていく事が大事だと思いました。確かに本の売上げは減少してきているけれども、本を読む人というのは消えるはずはありません。なので、これからはケチるというのは言い方が悪いですが、事前に予約をとって欲しいという人の数のみしか発行しないという方法をとると返品もなくなるし、ムダな経費もかからなくていいと思うんですが……。
●どんどん独自の販売を行っている会社も出てきているので出版社は時代に乗り遅れないように、常に先端をいくために考えなくてはいけないと思った。
●IT時代という言葉が未だよく分かっていないが、時代の流れにによって変化するという事は出版社に限らず重要な事である。
●IT時代といわれる今日、出版社はもっと高いレベルに変化しつづけている。読者は今後、書店に行かない、出かけない。直接、インターネットで注文して、本だけじゃなくて、CDなども受け取れる新しい販売方法も生まれていい。
●ITの時代なので、インターネットにも進出していくと思う。
●新しい考え方が必要になってきている。今までの考え方ではだめだ。ITにより本を買う事さえ過去のものになりそうだから。次々と作戦を考えていかないといけない。
●フライデーとかなんて、20~40万ももらえるなんて、東京に行ったらデジカメとか持ち歩いて張り込みとかしてみたいと思った。でもすごく大変だろーなー……。
●最近、本の出版数がへっているのにびっくりした。
●IT時代になったという昨今、本当にIT化したとは言い難くて、でも授業で言う通りにやった者勝ちかなと思った。試行錯誤の時代のアイデア勝負は電脳ではなく人脳ではいけないなと思った。
●IT時代だけれども出版社はITに負けないで頑張ってほしいと思った。出版社はもっと活発的に変化すべきだと思った。

  以上、学生たちの生の声である。

良くも悪くも現在18歳である彼・彼女らがこれからのメディアをデザインしたり、主要な受け手になったりしていくだろう。

 出版メディアは確かに今、ゆれている。しかし、地殻変動の時期はこれまでの商取引の慣行から締め出されていた新参者にとってはチャンスの時でもある。さらにかつては大掛かりな、非常にコストのかかるものであったコンピュータ・ネットワークがインターネットによって、またかつてに比べるとずっと安価で高性能なパソコンの登場によって企業と個人の格差をかなりの程度、埋めることになってきた。

 あとは本当にしたいことを持っている人間が出てくるだけである。それが講演を企画した私の、学生たちへのメッセージである。

 熱い話をしてくれたポット出版の沢辺さん、そしてご協力くださった中部大学人文学部コミュニケーション学科の小中陽太郎教授、都築耕生教授、事務室のみなさんにこの場を借りてお礼を申し述べたい。