2007-10-20

QJインタビュー 前田邦博さん(文京区議)

QJ5.jpg■ 福祉制度の利用術

—お金を貯めることより、
友達を作ること

*初出/クィア・ジャパン vol.5(2001/勁草書房)

前田邦博
文教区議会議員

前田邦博(まえだ・くにひろ)
1965年11月9日文京区に生まれる。
1988年住宅・都市整備公団に入社。母の介護問題(アルツハイマー病による痴呆症)に直面し、福祉や心理分野への関心が高まり、96年より約8年間のサラリーマン生活を終える。以降、都内を中心に全国各地でカウンセラー養成講座の講師を行い、普及のかたわら、痴呆の方の介護家族を支える活動や不登校の問題、男女共同参画社会に向けての活動を行う。1999年4月の統一地方選挙で無所属の新人として挑戦し、東京都文京区の区議会議員となる。高齢者福祉サービス評価研究会代表、生と死を考える会理事

● 母親がアルツハイマー病になった時

伏見 前田さんは文京区議会議員として、とりわけ福祉の問題に意欲的に取り組んでいらっしゃいますが、なぜそのような事柄に関心を持つようになったのですか?
前田 八年前、母親が若年性アルツハイマー病(注1)を発病したのがきっかけでした。母は現在、六三歳なので、五五歳のころですね。
伏見 前田さんは三五歳でシングルですね。僕と同世代。お母様が発病されたときはごいっしょに暮らしていたんですか。
前田 別居してました。兄弟もそれぞれ独立して家を出ていて、母は父と二人で寿司屋をしながら暮らしていたんです。
伏見 お母様の病気はどのようにわかったんですか。
前田 最初は、家事をしなくなったりして無気力な感じになって、仕事でも、お釣りを間違えたり、お茶を三つ持っていくところを五つも出したり、砂糖と塩を間違えてしょっぱい酢飯ができたり……。更年期障害の鬱的な状態なのかと思って、休めばそのうち元気になるかと思ったのですが、ある時、母は銀行で自分の名前を書こうとしたら、名前が書けなかったんです。文字が思い出せなかったらしいんです。彼女自身それがすごくショックだったみたいで、病院へ行ってCTとかの検査をしたら、若年性アルツハイマー病で脳が委縮しているということでした。
伏見 お母様は自分の病気のことをどう受け止めたんですか。
前田 彼女には告知してないんです。ただ、僕自身はその病名を聞いてホッとしたというところもあった。それまでの母の理解しがたい行動の理由がわかったので、「そうだったんだ」と納得がいった。もちろん、ショックはショックだったんですけど。
伏見 医学はまだ、若年性アルツハイマー病で脳が委縮していく進行を止められないんですよね。
前田 はい、そうです。
伏見 で、病気だとわかってどうなさったんですか。
前田 最初のころはまだ介護が必要な状態ではなかったんですよ。日常生活では家事はできなくなったけど、あとは物忘れするという程度だった。それから一年か二年経つと、一人で散歩へ行ったり買い物に行ったりすると、帰ってこられなくなることが頻繁になり、警察のご厄介になることも少なからずあった。それで一人では外に出さないようにしたら、彼女自身、お店が忙しくても自分が何の手伝いもできないという焦りとか、自分が見捨てられちゃうんじゃないかという不安で、父と女性のお客さんが親しく話してただけで嫉妬するようになったりとかで、かなりイライラするようになってしまった。そうすると、かえって家にいたくなくなって、また外に出て行ってしまうようになる。でも、家族としては一人では出せないというのがあって……という葛藤に陥って、いわゆる徘徊という問題が生じていった。
 僕は当時はサラリーマンをやっていたので、そういった状態になると電話で呼びだされて、仕事を中断して家に戻って、なだめてまた仕事に戻るということがしばしばあった。あるいは、朝顔を出して出社するとか、半日休んで病院に一緒に付き添ったりもしましたね。で、結局、家族だけだともう無理だということになって、ヘルパーさんを利用しようということになったんですよ。
伏見 その時、一緒に暮らそうとは思わなかったんですか。
前田 同居してしまうと、自分の生活がまったくなくなってストレスがよけいたまるので、かえって母につらく当たったり、優しくできなくなってしまうと考えました。
 僕自身は実家と適度な距離を置いて、生活を分けていたほうがいいと判断したんです。

● 役所の対応

伏見 ヘルパーさんというのは公的なサービスを求めたということですよね。それは介護保険法(注2)施行以前?
前田 はい。彼女が五七歳の時で、役所の窓口へ行ったんですけど、高齢者福祉というのは六五歳以上じゃないと適用されないし、障害者福祉になると、母の場合、手足も動くし目も見える、耳も聞こえるので、どの障害にもあたらない。記憶の障害というのは、障害に入ってなかったんです。ただよく調べてみると、初老期の痴呆も含みますという規定もあったんですけど、役所の人はそこまで教えてくれなかったんです。知らなかったのか、知っててそうしなかったのかわからないんですけど。そういう押し問答が窓口で続いて、最終的には、例外規定というのがあるからそれでヘルパーさんを頼める、ということになった。週二回三時間、役所からヘルパーさんが派遣されて、散歩とか話し相手になってくれました。
伏見 その当時の利用者の経済的な自己負担というのは?
前田 それは所得に応じてですね。うちは時給五百円で月一万二千円くらいの負担になりました。それでしばらくは家族の生活も安定したんです。母も一日一回外に出れば落ち着くので、父が犬の散歩を兼ねて朝、ラジオ体操に二人で行ったりもしてた。
しかし、だんだん症状が進むにつれて、ヘルパーさんの回数も増えて、介護保険になる前の平成十一年には、制度の枠をめいっぱい使って、週四二時間ヘルパーさんを派遣してもらうようになった。それでも一日六時間ですから、父がお店に出ている八時間のうち二時間分は、それプラス自費負担でお願いしたり、あるいはボランティアの人(注3)に入ってもらったり、昼間にデイサービス(注4)に連れていったりというかたちで、なんとか都合をつけていました。
伏見 それにしてもお父様は大変でしたよね。働きながらの介護ですから。
前田 夜も母の気配りをし、食事も作り、トイレへ誘導しなくちゃいけないから、父はけっこう大変でした。僕自身もそのころは週二回ぐらい、夜泊まりに行ったり、時間があるときには家にいました。

● 痴呆は記憶の障害

伏見 さきほど、病名がわかって逆に安心した、とおっしゃったけど、でも母親が五五歳で、子供が二八歳では、親が「呆ける」というのは普通予想しないことじゃないですか。前田さんはその事実をどのように受け止めたのでしょうか。
前田 もともと僕には障害者の友達が多かったので、障害を持っていても社会の中で生きていけるということは理解していました。だから、障害の種類が足腰の問題ではなくて、記憶の問題なんだなというふうに捉えた。足腰の場合だったら車イスがあるように、記憶だったら記憶を補うような助けがあれば、生きていけるんだろうなあと。それも誰かがそばにいれば、生活は普通にできるんだから、なんとかしようがあると思ってましたね。
 ただ、症状が酷くなるもっと前になぜわかってあげられなかったのか、と後悔はしました。たぶん、最初のころは彼女自身も不安だったりしたと思う。そのときにサポートしてあげれば良かったという思いはあります。
伏見 大事な人の記憶がだんだんなくなってしまう、それも自分の母親がということで、前田さん自身、精神的な葛藤はありませんでしたか。
前田 ありましたね。自分の母親の障害が酷くなっていく過程を見ていくことは、喪失感もあるし、精神的な負担も増していった。そのときに周りで悩みを聞いてくれる友達がいたり、共有する経験をしている障害者の友達がいたというのは励みになりましたね。
伏見 前田さんの身の回りに起ったことは、僕らの世代としては、人よりも早い体験ですよね。たぶん、二〇年ぐらい先取りしたということではないでしょうか。あと、前田さんはいまのところシングルですから、結婚しないゲイとも共通する条件の中でのことですね。
 今は、お母さんはどんな状況ですか。
前田 日常生活を一人でやるのはかなり困難になっていて、今は排泄やトイレは誰かに誘導してもらいますし、夜はオムツを使うようになっています。
伏見 前田さんのことは誰だかわかっているのでしょうか。
前田 まだわかりますね。会話らしい会話はしてないけど、僕が自分にとって特別な人だということは理解しているみたいです。接し方にも配慮があると向こうもわかるらしく、僕だと嬉しいようです。

● グループホームとは?

伏見 現在の介助の状況について教えてくださいますか。
前田 去年の四月から介護保険のみでは、サービスはレベルダウンしました。介護保険だと全国一律になるので、地方はサービスの水準が向上して、全体としては公平になったと思うけど、もともとサービスがよかった東京都だと逆にレベルが下がるケースが多いんです。
 それで、母の場合、病気が進行して在宅での介護が難しくなったこともあり、文京区内のグループホームに入ることにしました。
伏見 グループホームというのは、行政が運営している施設なんですか。
前田 グループホームは介護保険に対応して民間が作ったもので、企業ではなくNPOが運営しています。ボランティア団体が運営体として組織化されたという感じでしょうか。母は今、そこに暮らしています。
伏見 グループホームの場合、経済的な負担はどうなるのですか。
前田 介護の費用は介護保険が使えるので、三〇万円の介護費用のうち自己負担分が三万円になります。このように、介護保険のいい点は、民間の施設にも適用されたことでしょうね。保険法に記されている「痴呆対応型共同生活介護」というのが、いわゆるグループホームのことです。ただ、他にも家賃分を払わなければいけないんですよ。グループホームというのは、要は、下宿屋さんプラス介護サービスを行うところなんですね。家賃が六畳一間で月七万円程度かかるんです。あとは食費とかを足して合計すると、月に一八万から一九万の負担になります。母の場合は障害者年金他の手当てが適用になりますので、その半分くらいで済んでいますが。
伏見 ということは、九万くらいですね。
前田 まあ、食事代も込みなので、自宅で生活しててもそれぐらいはかかるだろうし、逆にもし同等の介護を在宅でやったとしたら、もっと自己負担額は増します。
伏見 グループホームというのは一人部屋なんですか。
前田 そうです。個室じゃないとダメだという決まりになっているんです。あとはリビングがあるので、そこで食事は一緒に食べる。五人から九人が定員になっています。個室ですから親父なんかはそこに泊まりに行ったりしてるみたいですね。休みの前の日とか、週に二回ぐらい。僕は週に一回ぐらい顔を出します。家から歩いて一〇分ぐらいなので近くて気楽に行けるし。
伏見 民間ということで、グループホームの経営状況というのは……。
前田 苦しいみたいですね。規模が小さいということもあるし、介護保険の介護報酬の設定が実態にあってはいない点があるのです。たとえば、夜の介護のことなのですが、介護保険の報酬の算定では、夜間は宿直で対応することになっています。宿直というのは夜寝ていてもよいので、夜勤の場合と比べて、手当は三分の一程度となります。しかし、実際は、夜間も見守りなど介護が必要な場合があり、夜勤で対応しています。収入は三分の一だけしか入らないけれども、正規の夜勤分の手当ては払わなければいけない。ですからその分経営的には、厳しくなります。
伏見 よく老人ホームなどの施設に入るまでの順番待ちが大変だという話を聞きますが、グループホームも入所するのは大変なんですか。
前田 そうですね。すぐ空きは埋まっちゃいますね。
伏見 前田さんは募集を見つけたんですか。
前田 平成十一年に、たぶん薬の副作用だと思うんですけど、母の状態がすごく悪くなって在宅で介護するのが難しくなったので、老人病院や老人ホームなどいろいろな施設を探したんです。そうしたら、空き待ちが二〜三年とか、すぐ入れる病院が見つかっても介護の状況があ まり良くなかったりで、どうしようかと思っていた時に、家でもないし施設でもない、中間的な形のグループホームというのがあることを知ったんですね。で、練馬区にそれが一つあったので、利用できないかと相談したところ、その時はいっぱいだった。NPOの代表の方から「それじゃ、グループホームを文京区に作りましょうよ」ということになりました。それで自分でも不動産屋を歩き回って物件を探したりもしたんです。なかなか条件のいいところが見つからなくて大変でしたが。
伏見 前田さんが経営にも関わっているのですか。
前田 いえ、僕は経営まではできないから、NPOの方々の手伝いをした程度です。
 ですから、うちは例外的なケースですが、入居に関しては、普通、口コミで入居者が決まってしまうということです。グループホームというのは元々少ないので、そこに入りたい人というのは、かなり関心も高い人たちで、常に探してるようです。ホームページもあったりしますし。母が入居したところも、かなりマスコミに出てて、知名度のある施設なんです。

● シングルの老親が痴呆になった場合

伏見 前田さんの場合、ご自身はシングルだけど、お父さんがまだご健在で、お母さんのケアをしている。たとえば我が家の場合、僕と母の二人暮らしなんですね。うちの母は大正生まれですからかなり高齢で、今のところ健康ですが、いつ痴呆の症状が出るかわからない。僕は家で仕事をしているから、それでもまだ介護をしやすいとは思うんですけど、普通の会社勤めの人で、同居の親が徘徊みたいな症状が出てきてしまったら、どうしたらよいのか。
前田 公的サービスを受けることを考えるのが先決でしょう。若い方で働きながら親の面倒を見なければならない状況の人の話というのはよく聞きますし、実際、相談を受けたりもします。そういう方々は、やはり、出勤時間中にはヘルパーさんに来てもらったり、デイサービスに連れて行ってもらったりしています。子供の保育園と一緒ですよね。会社へ行く前に預けて、帰りに迎えに行く。
伏見 現行の介護保険法で全部まかなえればいいけど、自己負担分もかなりあるわけでしょう。
前田 単純に施設を利用してしまうと、月に三〇万円ぐらいかかるんだけど、介護保険の適用でその一割負担で済むんですよね。それに三万円が食費としてプラスされるので、普通だったら七〜八万円ですみます。それで二四時間三六五日まかなえます。
 在宅で介護するとなると、介護保険の上限は三五万円なので、それ以上の部分は自費で負担しなければならない。実際、自費負担している家族も多くて、自分が働いてるのとほとんど同じ額を介護に払わなくちゃいけないなんていうケースもあります。
 奥さん分の収入がまるまるヘルパーさんのお金に消えるとか。ですから、現在、介護保険になって、施設を利用したいという意向が強くなってますね。
伏見 僕は介護保険法ってわかっているようで全然わかってないんだけど、障害がはっきりと深刻だったらすぐに適用されるんでしょうが、たまに徘徊したりとか、昼間一人で置いておくと火を出す危険があるといった高齢者はどうなんでしょう。
前田 介護保険の認定(注5)というのは、自立者と、要支援から要介護の五までがあって、施設を利用できるのは、要介護一以上だったら誰でも利用できる権利はあるんです。施設側は断れないので、実際はウェイティングリストに並ばなきゃいけないという問題はあるけど、そういう意味では逆に施設が利用しやすくなったと思うんですね。今まではかなり緊急性がないと入所できなかったり、所得の低い人のほうを優先して入れてたんですが。
伏見 そうすると介護保険によって、家族としては痴呆の老親を老人ホームなどに入れてしまえば、自分の生活を確保できるけど、中途半端に健康な人がそういう施設に入ってしまうと、本人のストレスがたまったり、孤独に苛まれたりといったことが問題になってきますね。
前田 介護保険だと、家族なりそばで支えてくれる人がいないと在宅介護は実際無理なんです。この仕組みは、家族がいることを前提に考えられているので、実際に、重度の要介護度五の人が一人暮らしでサービスを受けるとすると、月に七〇万から八〇万もかかると言われています。それを全部保険で負担したら財政的に難しいということで、結局その半分の三五万円程度に上限を設定しているんですね。
 ですから、シングルの人は親を施設に入れるしかないと思う。そうならないように変えていかなくてはいけないことですが。

● 最後には生活保護がある!

伏見 あと、自分がシングルで高齢者だった場合は、一人暮らしがままならなくなったら自分で施設に入るしかないということですね。
前田 現行の制度では、残念ながらそうですね。
伏見 介護保険の一割負担というのは?
前田 収入にかかわらず、かかったサービス額の一割を個々人が負担するということです。
伏見 す、す、すみません、後学のために教えてほしいのですが……貯金もなく年金も貰えないような老人はいったいどうなるんですか。
前田 生活保護の制度(注6 )があります。生活保護は扶養してくれる人がいないことが前提なんです。それが適用された場合、一定基準額、家賃など居住費も出るし、食費など生活費も出るんですね。で、介護費用もそこから出るんですよ。ただ、実際問題、資産チェックされたり、親戚とかに扶養できないか問合せをされたりと、かなり厳しい審査がなされますが。
 ところが、逆に困るのが、現金収入はないのに、へたに貯金があったり、家屋を所有していたりするケースで、そういう資産があると生活保護の対象にならないので、生活するのがかえって厳しくなったりする。ボーダーと言われている層です。生活保護になってしまえば、必要最低限の生活はできるようになるんですが、ボーダーの人たちは自分で経済的なことを全部自分で賄わなくてはならないんです。
伏見 その場合は、家屋敷を売ったりすることになるわけですね。それで現金にして、自分で施設に入って、現金にした中から一割負担分を払っていく……。じゃあ、最初から丸裸で生きてたほうがいいのかもしれない(笑)。益々、年金を納める意欲がなくなるわ!
前田 年金はきちんと納めてくださいね。でも、そんなに老後の生活の心配はしないほうがいいと思いますね。よく老後はお金がないとやっていけないと言うじゃないですか。だから、会社には行きたくないけど、ずっと続けてるとか。だけど、本当は生活保護のようなセーフネットとして機能する制度があるんですよ。最終的には死なずにすむようにはなっている。社会で活動していく上では当然失敗はあるんだから、失敗したときにちゃんとそれを社会で受け止めましょう、というのがセーフネットの考え方です。そのことによって、挑戦しやすい社会にしていきましょうと。そっちのほうが社会は活性化していくと思います。
 人間というのは本来勤勉な存在だと思うんですよね。逆にやりたくないことをやるほうが、力が発揮できないじゃないですか。企業に勤めてても、本来の能力を発揮しない人がけっこういっぱいいて、自分の能力を六割ぐらいしか使わずに、定年されちゃった人のことを考えると、寄らば大樹の陰じゃなくて、自由に自分の能力を発揮できるような活動ができたとしたなら、社会のためにもなる。
 だから将来の金銭的な心配というのは、実はそんなにしないほうがいいと思う。それよりは人間関係を作っていたほうがいい。介護が必要になった時、本当に助けたいなと思ってくれる友達を一人でも多く作っていたほうがいい。
 元会社の社長さんみたいな人でも、痴呆症になってしまってすごく寂しい人生を終える方もいらっしゃいます。マンションの一室で、ヘルパーさんは二四時間来てくれるけど、誰にも振り向かれないとか。お金があっても、必ずしも安心な老後はないんです。

施設は選ぶ

伏見 制度のことについて聞きたいんですが、たとえば親に痴呆などの問題が生じたときに、最初にどこへ行けばいいんですか。
前田 まず区役所の窓口ですね。今だと介護保険の受け付ける場所があります。どこの自治体でも、在宅介護支援センター(注7)というところがあるので、そこにお話しをしてもらうと、介護保険の申請で必要なことを教えてくれます。こういう手続きを取ってくださいと説明してくれるので、あとはその流れに沿っていけばいいし、ケアマネージャー(注8 )さんというのがいるので、どういうようなヘルパーを派遣してもらったらいいかとか、どういうサービスを利用したらいいかといったことの相談相手になってくれます。ケアマネージャーは専属でついてくれるので、以後その人と相談していくことなります。ただ、それもいい人に当たるかどうかが問題になってきますよね。そういう任にある人も、玉石混交ですから。
伏見 施設というのは、公的なものではどんな施設がありますか。
前田 基本的には三種類あるといわれてますが、これはそんなに差はないと思います。介護老人福祉施設、老人保険施設、療養型利用施設ということで、療養型というのは老人病院ですよね。介護老人福祉施設というのは老人ホームで施設ですね。どう違うかというと、後者は生活中心で、前者は医療が中心。その中間的なのが老人保健施設ということになります。本来、老人保健施設というのは医療施設なんだけど、入院していた人が退院したときに、すぐに自宅に戻れるとはかぎらないから、在宅に対応できるようにリハビリ等々するための中間施設です。
伏見 さきほどウェイティングという言葉が出ましたが、そういう施設に入るのは順番待ちが大変なんですか。
前田 施設によっても、地域によっても違うと思います。東京都だと施設が足りないので大変ですが、地方に行けば施設は案外充実してて、入りやすい。あとは施設の質によっても、最近は違いが出てきました。やっぱり評判のいい施設は、長蛇の列ができるけど、評判が芳しくないと入りやすかったり、遠くて辺鄙な場所にあると空きがあったり……。
伏見 居住地域以外の施設でも入れるんですか。
前田 全国どこでも大丈夫です。選ばなければ入れる場所はあると思うんですけど。
伏見 同じ行政のサービスでも違いがあるんですか。
前田 サービスの質が違いますね。あと本人に合った介護がなされるかどうか。施設によっては徘徊する人がベッドに縛られたり拘束されるということがあります。転んだりされると困るとか、危険防止のためといわれていますけど。でも、人手があれば見守れるわけで、苦しい思いをさせて縛ったりする必要もないのですが、条件が悪いところもあるんです。ただ、実際はそういうところでも入居せざるを得ない人はいるんですね。
伏見 でも値段は一緒なんですよね。
前田 介護報酬上はそうなんですけど、それも矛盾ですよね。それと、施設によっては、生活用品代を取ったりする場合があります。たとえばBGMをかけてるからBGM代を取りますみたいなところとか、娯楽代のために実費負担とか、積み重ねていくとベッド負担の別にもけっこう負担があったりします。だから施設を選んだり探すのは大変な作業なんですよ。

● 自分が呆けた時にはどうする?

伏見 QJの読者はシングルで生きる方が多いと思うんですよ。前田さんのお母様のケースみたいに、障害が出た時に、周りに誰かがいて気がついてくれればいいけれど、一人暮らしの老人の場合はどうなるのですか。ヘンタイの末路というか(笑)。
前田 けっこう厳しいんですよね、一人暮らしって。その問題はこれからの福祉の一つの課題です。今回の介護保険だと、自分から介護してくださいと申請しなくちゃいけないんです。アクションしないと、なかったことにされてしまう。だから、どうやって地域で、介護が必要だけど利用できてない人を探すかが課題になってきているわけです。普通、地域で民生委員さんという人がいて、ボランティア活動をしてるんですが、それだけでは対応できていない。
伏見 じゃあやっぱり面倒見てくれるかどうかはともかく、シングルの人は、お互いの老いの進行を見張り合うような関係性を作っておかないといけないですね。
前田 それは重要ですね。
伏見 でもみんな同じときに呆けたらどうするんだろう(笑)。やっぱり世代を超えたネットワークを作っておかないといけないよね。
前田 あと一人で呆けた場合、意思表示ができなくなった時どうするかですよね。たとえば、医療上は、本人にその能力のない時には家族が延命処置をするかしないか決めるけど、シングルの人の場合はどうするか。どんなに親しくても友達は家族ではないので、そういうことを決定することはできない。パートナーみたいな人がいても、法律的に家族でなければ決定権はないわけじゃないですか。だからそういう時に決定を下せるように、公正証書(注9)みたいなのを作っておくしかない。
伏見 あるいは本格的に、国の制度として、同性同士のパートナーシップ法、婚姻制度を求めるやり方もあるけど。
前田 ただ、先ほどの対応をお願いする相手はいわゆるパートナーじゃなくてもかまわないと思いますよ。誰か親しい人、公正証書仲間を作っておけばいいし、それは一人でなくても、何人かで作っておくこともできる。また、公正証書が実際に執行されるか見守るサービスを行うグループ、老後安心グループみたいのが最近できてるんですよね。
伏見 公正証書で契約を結ぶと、手術の承諾や延命装置の問題とかまで踏み込んでできるんだ。
前田 ただ、それは結局、現場の判断になってしまうんですよね。でもその際の一つの有力な武器や根拠になると思うので、ないよりはあったほうがいい。
伏見 財産に関しては、後見人制度(注10)というのがあるというのを聞いたんですが、どういう制度なんですか。
前田 成年後見制度というのは、判断能力が不十分になったときに後見人が財産を管理を支援するというもので、法律行為をする場合も、代理人などを立てることができることになってます。
伏見 ということは、痴呆が始まる前の段階で、そういう契約を結んでおくということですよね。
前田 そうですね。任意の契約の場合と、法律的にできる場合の二種類あるんです。任意の場合はあらかじめ契約を結んでおくと、それが登録されているので、当事者の意識能力がなくなったときに、契約が有効になってくるんです。援助してくれる人は最終的には裁判所が選ぶことになります。
伏見 それに、後見人がひどいことをしないように、裁判所のチェックも入るんですね。
前田 後見人を監督する人も選任されるので、ダブルチェックがかかるんです。裁判所が結局かかわるので、かなりいいと思うんですけど。あとは誰がなるかですね。
伏見 これも家族がいないシングルの人なんかは、お友達や弁護士に頼むとか、そういうことを事前にしておかないといけない。
前田 ただ、後見人を選んでも、自分にとって最善のことをやってもらえるかどうか、そのためには自分の意志をある程度形にしておく必要があると思うんですね。だから、遺言じゃないけど、こうなったときにはこうしてよということは、ある程度記録として残しておくのがいいと思う。公正証書のような形じゃなくてもね。好物はこれだから食べさせてねとかも含めて(笑)。
伏見 オムツは一番いいのを使ってとか。
前田 そうそう(笑)。そういうことを残したほうがいい。どんな老後がほしいかを、ある程度今のうちにイメージしておいて、それを伝えておいたほうが、周りの人はより自分にとって快適な状況を作ってくれるんじゃないかな。まだまだ先だから考えなくてもいいよじゃなくて。
伏見 そこまでかかわれる友達を作るのって、大変だよね。
 ところで、老後というか、引退から死ぬまでの間、いったいどれぐらいお金が必要なんでしょうか。三千万とか四千万とかいう金額を聞くこともありますが。
前田 結局、それはどういう生活をするかによるでしょう。僕は、いざとなったら生活保護を使えばいいよ派だから、あんまり考えません(笑)。
伏見 じゃあ、僕も考えません!

注1 若年性アルツハイマー病 アルツハイマーには、四五歳〜六五歳に発症するアルツハイマー病と、六五歳以上に発症するアルツハイマー型老年痴呆がある。前者のうちでも早発性のものを若年性アルツハイマー病ということがある。アルツハイマー病は、脳の、記憶をつかさどる部分から神経細胞が障害され、物忘れや記銘力障害(新しいことを覚えられない)等に始まり、障害部位の広がりとともに、空間認知や社会的行動もできなくなり、痴呆がすすんでいく。
注2 介護保険法 増大する介護需要を背景に、国民が安定した介護を受けられることを目的に発足した社会保険制度。保険者は市町村で、四〇歳以上の人が被保険者となる。「要介護状態」と認定されれば、介護サービスが受けられる。本人一割負担。
注3 ボランティアの人 個人の自発的な社会的援助活動。高齢者対象のものには、話し相手や家事援助、食事の宅配、外出、宅老所開設、北国の除雪など、多 種多様なものがある。
注4 デイサービス 従来、老人デイサービスと言われたもので、現在は「通所介護」と言う。要介護者・要支援者と認定された人が、老人デイサービスセンター等に通い、日常生活を支援する介護と相談などを通じて、心身機能の維持回復や社会的孤立感の解消、介護者の介護負担の軽減をはかる。入浴、昼食、送迎等。
注5 介護保険の認定 介護保険を利用するには要介護認定を受けなければならない。これは、訪問調査員の聞き取り調査や主治医の意見書を基に市町村の設置した審査会が判定を行う。要支援、要介護1〜5まで、在宅及び施設入所サービスの各支給限度額が設定されている。
注6 生活保護の制度 (1)保険料などの納付要件をいっさい必要とせず、(2)貧困原因の如何を問わず、経済的貧困状態のみに着目し、(3)自己の資力等を生活の維持に活用することを要件に、(4)最低生活費の不足分について給付する。資産や利用可能な制度を全部使って、それでも足りなければ支給しようというもので、資産調査等も行われる。
注7 在宅介護支援センター 援護の必要な高齢者及び介護者の介護等に関する総合的な相談に応じ、介護保険制度を紹介したり、各種サービスが総合的に受けられるように、各機関との連絡調整を行う。特別養護老人ホーム、老人保健施設、病院等の施設に併設されている。
注8 ケアマネージャー 要介護者などからの相談に応じ、その心身の状況に応じて、適切な在宅または施設サービスが利用できるよう介護支援サービス(ケアプラン)の作成を行い、市町村、事業者、施設などの連絡調整を行う。
注9 公正証書 公証役場で公証人(文章について公に証明できる人)に作成してもらう文章。法律的な信用性が高い。
注10 後見人制度 痴呆症や知的・精神障害で判断力が十分でない人が、契約や財産問題で侵害されたり、悪徳商法の被害に遭わないよう、代理人(成年後見人など)が本人をサポートする仕組み。従来、民法にあった禁治産、準禁治産という戸籍にも記載された仕組みが、昨年四月、成年後見制度に改められた。

2007-04-16

雨風強し!

金曜は日誌を書くのをすっかり忘れ退社してしまいました。すみません。
金曜といえば、落ち込むこともあったけどとても嬉しいことがありました。
『あんふぁん』(幼稚園に無料配布している雑誌)の読者の方に、応募して頂いたアンケートのことで電話をしたときのこと。
「楽しみにしています。がんばって下さい!」と励まされました。
なんだかむちゃくちゃ嬉しかったです。

この土日少しゆっくりしすぎたせいか、今朝の通勤電車で思わず貧血を起こしてしまいました。撮影にも行けず、なんだかだめな新入社員です。繊細ぶってすみません。

週末に掃除・洗濯を済ませたので、家に帰るのが楽しみです。

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