2009-08-31

溜息に似た言葉「見本出し」

今日は新刊『溜息に似た言葉』の見本出しに行ってきました。

見本出しというのは、取次さんにこんな本が出るんだよ、と見本を渡しにいくことです。目的としては、
1.商品登録のため
2.商品説明のため
に取次に直接、新刊見本を持っていくわけなのです。

本が書店さんの店頭に並ぶまでにはどういう経路を辿るかと言いますと、一般的には出版社→取次→書店という順番にリレーしていきます。取次というのは耳慣れない方もいるでしょうが、簡単に言えば本の問屋さんです。1日200点の新刊が生まれ、それを全国20,000店と言われる書店のどこででも購入・注文が出来るのは取次の機能によっています。

取次は自社と取引口座のある出版社の本ならば、自社と取引口座のある書店のどこからでも注文に対応できます。(割愛しますが、厳密に言うと口座のない出版社の本でも可能な場合があります。)それが可能なのは、口座のある出版社の本を在庫、もしくは把握しているからです。在庫があれば注文をもらったところですぐに出荷できますし、なくても把握していれば出版社に注文できます。逆に言えば、本が出たら教えてもらわないことには「この本は何だ?」となってしまいます。

なので、出版社は新しく本を出す時に取次に見本を出します。この本はウチの本である、という登録をお願いするのが「見本出し」の目的の一つです。

とはいえ、本の登録だけならばわざわざ人を出すことはありません。わざわざ人が持っていくのはもう一つの目的、新刊配本の希望を出すためです。

出版社は営業部員を何百人も持ってはいませんので、全国津々浦々の書店に新刊案内に行くには限界があります。そのためにFAXやメール、webを活用しますが、それでも書店さんに案内が届いているのかどうか、というとポットの場合は全国のうちの10%程度です。

ですが、ポットの本が売れる可能性のある書店は、案内をして事前に注文してくれた書店の他にもあるかもしれません。全ての書店を把握しているわけではありませんし、全国の全ての書店員さんがどういう考えで本を展開するのかということを個別的に把握するのは不可能です。

そこで、「新刊配本」というシステムがあります。取次は書店さんの本の入り口ですから、自社が取引している書店の売上はある程度把握しています。そのデータに従ってジャンル別に配本パターンを作っており、各書店に重みを付けて適正数を決め、新刊が出たらパターンに従って送品します。

書店さんは忙しいですし、山のように毎日新刊がでますから全ての新刊を把握するのは難しい。なので、データに従って仕入を代行してくれているわけです。出版社からすれば自社で把握できない売れる可能性のある書店に本を送ってくれるわけですから大助かり、書店さんもお店で売れる本が勝手に入って来るということで大助かり、というわけです。

できるだけ取次に適正な配本を希望する数で送品してもらうために、見本出しの際に商品説明や周辺情報の提供、事前にもらった注文を伝える必要があるわけです。(事前にもらった注文はその分だけこの書店には出して下さいなとリスト化して渡し、その分を送品してもらいます。)

それを元に取次がこのくらいは行けるという数を決め(「部決」といいます)、配本パターンを決めます。出版社は約束した期日に決まった数を納品します。そうすると、取次から事前注文をくれた書店、配本パターンに入った書店に新刊が入荷するわけです。めでたしめでたし。

以上、小学生の工場見学的な建前の並んだ「出版流通のお話〜見本出しとその理由」のお話でした。これでみんな満足パーフェクト、なれば素晴らしい話ですが、実際にはこのプロセスの中に細かいものから大きなものまでいろいろと問題があったりします。

ひとつ具体例を出せば、配本パターンといっても、あくまで取次が判断したものであり、書店は本を勝手に決められたパターンの元で勝手に送られてくるわけで、「こんな本売れねーよ」ということは頻繁におきます。というより毎日おきている書店が大半でしょう。きりがないのでその他の問題点は他の機会に譲りますが、問題は様々ありありな訳です。

まあとはいえよく出来たシステムという見方が出来るのも事実。現状はこのシステムにポットも含め大半の出版社が立場は違えど頼っているわけです。長々してしまうと、きりがないのでとりあえずこの項終わり!

さてさて、話は戻って新刊『溜息に似た言葉』
今日見本出しに行ったわけですが、このあとは
9/2(水)部決確認(取次がいくつ仕入れてくれるか確認する)
9/4(金)新刊搬入(確認した部数を取次へ入れる)
というスケジュールを辿ります。上述のような流通ストーリーを辿って、都内の大きな書店であれば当日に本が並びます。翌日であれば地域にもよりますがほとんどの書店に並びます。(だいたい本州内→本州外→北海道、沖縄というように遠くなるほど1日ずつくらい差が出てきます。)

編集も様々な過程でつくりあげた本が、営業や流通の過程を経て書店へ並びます。何の気なしに書店さんで本を手に取った時に、膨大な数の人の間でリレーされ、多くの過程を踏んできたことを感じていただけたら嬉しいです。それでその本が『溜息に似た言葉』だったらもっと嬉しいです。

名作にある言葉のイメージから脚本家が語り、名作にある言葉のイメージから写真家が写す。名作のイメージをより膨らませてくれるいい本です。9/4(金)以降に全国書店、オンライン書店でぜひお買い求めください。