2003-09-11
第4回 自動発注
●増える自動発注
チェーン展開をしている書店での「自動発注」の導入が増えています。人員が減ったことにより在庫をチェックして補充といった作業に割く時間が取りにくくなっている、という事情が導入を後押ししているのも事実ですが、機械に出来ることは機械にやらせ、人間にしか出来ないことをやる、という理念から考えても自動発注の導入は増えてくることは間違いありません。また、中小零細書店においても棚での売れ筋を切らさないように確実に維持するために、何らかの形での自動発注を導入するところが出てくる可能性は高いと言えます。
●自動発注:出版社のメリット
書店にとってのメリットは前項で触れましたが、出版社にとっても自動発注は上手く使えばメリットは大きいと言えます。弊社の場合、出版VANに参加していないため、受発注のやりとり(電話やFAXなど)が減るだけでも手間は軽減されます。また、特に既刊の売行きについては、機会損失の減少が見込まれるため、影響は小さくないと考えています。ただし、こうしたメリットは商品がきちんと自動発注の流れに乗っていなければ全く享受できません。そのためにも自動発注の仕組み(どの商品が、どのタイミングで、どうやって、どこに、発注されるか)を理解することは不可欠であると考えています。
●紀伊國屋書店新宿本店での壮大な実験
しばらく前の話ですが、日本最大の売上を誇る巨大書店「紀伊國屋書店新宿本店」さんが自動発注を導入されました。その際、「自動発注は外してください。弊社の営業が責任を持って在庫を補充します」といった出版社があったことを聞いています(今でもそうしている出版社も多いかと思いますが)。新宿本店での自動発注の導入は、ある意味、業界全体としての「自動発注」に対する実験の場です(新宿南店も同様ですが)。つまり、このお店で自動発注が上手く回らないのなら他のお店でも不可能です。ですので、弊社は多少の売行減は我慢してでもここで自動発注の仕組みを学習することにしましたが、それが良かったのかどうかは今でもまだ判断がつきかねています。
●自動発注の対象商品(補充フラグ・非補充フラグ)
いくつかの例外を除くと、ほとんどの商品が自動発注の対象ではあるようです。が、実際に自動発注されるかどうかは「補充フラグ」「非補充フラグ」の設定にかかっています(データに何らかの印やマークをつける事を「フラグ(旗)を立てる」と言います)。自動発注ではこのフラグが非常に重要ですが、フラグ自体は自動的に設定されるものではなく、人手によって設定されることが多いようです。そのため、時として「フラグの付け忘れ」や「フラグの外し忘れ」といった問題が発生します。各書店のシステムによって新刊入荷時のデフォルト(初期設定)が「補充」なのか「非補充」なのか、も違います。ですので自社の商品がきちんと自動発注されるようにフラグが設定されているかどうかの確認は書店営業の重要な作業のひとつであると考えています。
●発注のタイミング
レジで売上が発生した時点で発注を行なう場合が一般的なようですが、これもフラグとの兼ね合いがあるため、必ずそうだ、とは言い切れないようです。また、売上が発生しても自動発注が発生しない、例外的な場合も多々あります(次項)。また、在庫と連動し、最後の1冊が無くなったら(または最後の1冊になったら)発注を行なう、という考えかたもあるようですが、これを実現するためには非常に正確な単品管理が前提となるため、ICタグの導入などが実現しない限り難しいのではないかと考えています(この辺は逆に詳しい方のお話を伺いたいところです)。
●発注が発生しない場合
フラグの設定ミス(かなり多いように思います)・例外処理(高額商品の発注は自動的には行なわない・まとめ買いの場合は発注を行なわない、など)・新刊委託商品の初期設定として発注は行なわない、など、発注が発生しない場合は多々ありますが、上記の場合は少ないように思います。売上時点で発注を行なう場合、必然的にレジを通らなければ発注は発生しませんが、そういう場合が最も多いように思います。具体的には、発送などの処理のため通常のレジで売上が発生しない場合・店舗間の商品移動(売上ではないので発注は発生しない)、そして最大の問題は「万引」です。万引された商品はレジを通らないため、発注されることは絶対にありません。売れ筋の商品の場合、盗まれた商品の直接的な価値だけでなく、発注が行なわれないことによるその後の売上げの影響も被害になると思われます。出版社にとっても大きな痛手です。
●在庫ステータス(品切)の問題
せっかく受注をいただいても品切で出荷できない、ということがあります。良心的な出版社であればあるほど「品切」で返してしまう場合もあるかと思います。弊社でも増刷までの短い期間の品切についてそうしていたこともあったようです。ですが、一度品切という情報を返してしまった商品について、あらためて発注が発生することはありません。「増刷したのに、さっぱり受注が増えない」「増刷したのに以前より受注が減ってしまった」などといった場合、この原因を疑ってみることが必要です。短冊で回ってくる注文についても全く同様のことが言えます。気軽に「品切」で返してしまうことはその後の補充回転の芽を摘んでしまうことになりかねません。大手は増刷時に再度配本をかける場合があるため問題にならないこともあるかもしれませんが、中小の場合、「品切」で返してしまうことは死活問題とも言えると思います。ただ、安易に「調整品」や「保留」などとしてしまうことにも疑問は感じていますが、この辺のさじ加減は難しく、業界としての在庫ステータスの統一も、今の段階では残念ながら困難なようです(この件についてはそのうち情整研(出版在庫情報整備研究委員会の略・日本出版インフラセンター(参照1、参照2の委員会)からなんらかの発表があるものと思われます。
●取次の在庫の重要性
書店からの発注データは取次に飛びます。当然の事ながら取次に在庫があればその後の流れはすべて上手くいきますが、在庫がなければその後の流れはあまり上手く流れません。下手をすると従来よりも時間がかかってしまう場合もあるのではないかと思います。ですので、自動発注をより効率的に生かすためには取次の在庫が非常に重要です。と言っても、取次の倉庫も無限の広さを持っているわけではないので、そこに在庫をもってもらうということは簡単なことではありません。取次の在庫を維持する、という仕事は、出版社の営業の非常に重要な任務のひとつであると考えていますが、と、同時に非常に困難な仕事でもあると思っています。
●データの共有
注文短冊を起票するシステムもあるようですが、自動発注は発注データを書店・取次・版元の三者がデータとして共有できてこそ意味があるように思います。しかし、従来の出版VANなどは導入コストが高く、弊社も参加していませんでした。が、ここへ来てインターネットを前提とした低コストの新しいネットワーク(いわゆる新出版ネットワークのことですが)も提案されています。弊社でも前向きに検討したいと思っています。
●自動発注をより有効に活用するための周辺整備
現物がない場合のフラグの設定などにはISBNコードが必須です。注文書にも販促用のチラシなどにもISBNコードを必ず入れるのにはそういう意味もあります。また、様々な形での書誌情報の提供、しっかりとした形での在庫情報の提供(中と半端な情報での混乱を防ぐため)も、非常に重要な課題であると考えています。弊社の例ですが、「版元ドットコム」経由で取次に書協・取次・オンライン書店などに書誌情報や在庫情報を流すようになってから、状況は大きく改善されたように思います。
●「自動発注だから」という言葉の意味
書店営業をしていると書店員さんから「自動発注だから注文は出さないよ」と言われる事があります。以前はよく「スリップ回してるから〜」と言われましたが、両者とも、意味は同じだと思っています。要は、門前払いのソフトな口実です。書店も忙しいので仕方がない側面はありますが、そう言われて「はい、そうですか」と引き下がるのもなにかな、と思っています。自動発注をはじめとした流通の様々な仕組みについてのきちんとした理解としっかりとしたデータ、この二つを使ってきちんと話をするべきではないかと思います。「自動発注で回してる」はずの商品について、例えばそのお店で半年間全く売上がないとすると、これは「回っていない」のが正解ではないでしょうか。そういう商品をあらためて自動発注の対象として設定してもらう。地道な作業の積み重ねですが、それはやはりお店に伺ってきちんと話をしなければ出来ない、つまり書店営業のやるべき仕事であると思っています。
●中小零細書店における自動発注
経費のかかるシステム導入の難しい中小零細書店では自動発注の必然性がないのか、というとそうでもないように思います。機械に出来ることはなるべく機械にやらせて人間にしかできないことをやるためにも、中小零細書店こそ自動発注を必要としているのではないか、とも思うのですが、いかがでしょうか。金のかかるシステムを維持するのは大変ですが、例えば本屋さん同士が集まって自分たちにとって使い勝手の良いシステムを開発・運営しているという例もあります(本屋の村)。
●常備に代わる「データ必備」という可能性
書店からのPOSデータ(実売データ)は、従来とは比べ物にならないぐらい安価に入手可能となっています。せっかくいただいたデータを社内での様々な分析などだけでなく、より積極的に活用するために、このデータに基づいてこちらから出荷を行なう、といった形態を夢想しています。「常備」が担っていた売れ筋商品の確保、という機能を新たな形で実現させたいということなんですが、どうでしょう。