2007-01-16
第20回 書店向けFAX
今回は2006年10月19日に版元ドットコムの会員・会友を集めて開催された勉強会のレジュメに一部加筆修正したものを掲載いたします。当日は私の他に出版コンサルタントの石塚昭生さん(著書:『石塚さん、書店営業にきました。』)にも講師として参加いただき、講義形式だけでなく参加者の持ち寄ったFAXの品評会なども行なわれる大変興味深い会でありました。
版元ドットコムでは本来の取り組みである書誌情報の公開とそのためのデータベースの運用等の他に、メーリングリストでのノウハウの共有などを行なっています。勉強会も頻繁に開催していますので、興味のある方は版元ドットコムのサイトをご覧ください。
今回のテーマである「FAXを利用した販促」は中小零細に限らず多くの出版社でかなり重要な話題であると思います。あくまで私の経験の範囲内での考えをまとめていますので異論反論などあるようでしたらお気軽にお寄せください。
書店向けFAXの前提
●目的:何のために書店に働きかけるのかを真剣に問い直す。
◇綺麗ゴトではなく、自分の分身(自分の代わりに営業に行ってもらっている)と考える。自分がお店に行ったらその商品を置いてもらうために何を話すのか、どう説明するのか。
◇相手が書店だ、ということを常に意識する。「この本は素晴らしい本ですよ」という読者に向けたアピールではなく、「この本は素晴らしい本なのでこういう本と一緒にこういう客さんにこうして売ってもらいたい」まで提案できることが理想。営業の視点。
◇出版社の顔となることを常に意識する。中途半端な出来の恥ずかしいもの、おちゃらけたモノは不可。
●目標:何をどのぐらいという具体的かつ実現性のある数値を設定する。
◇特徴、読者層、置いてもらいたいお店や棚・ジャンルなどを具体的にイメージする。
◇とにかく沢山とか全ての書店に、では焦点がボケてしまう。目標を考える過程で対象が明確になるという効果も。
●記録:結果を記録することによって効果を測定し、無駄と惰性を防ぐ。
◇郵送などと比べるとFAXは安上がりだが、結果をきちんと反芻しないと惰性になってしまう。
◇紙の記録でも充分だが、データを溜めてから他の用途にも使いたいのであればデータ化しておくべき。データベースなどは不要。エクセルで充分。
※目的が明確になれば、必然的にどういった内容のFAXをどこのお店に送るかは明確になります。それによって具体的な数値目標を設定できるようになります。逆に目標が明確になればどこにどういった形で働きかけるのがより効果的かということも見えてきます。
書店向けFAXの基本
→なぜ送るのか?
◇受注の促進(より多くの注文が欲しい、但し、返品につながる無意味な注文は減らしたい)
◇書店とのつながり・コミュニケーション(より多くのお店との関係性を維持したい)
→どこに送るのか?
◇絞りこむ(特定のお店で確実に)
◇広げる(より多くのお店に情報として)
万人向けの書籍などない!
大型店に適した本、町の本屋に適した本。
→いつ送るのか?
◇平日の日中(早い反応が欲しい)
◇その他の時間帯(じっくり目を通してもらいたい)
気持はわかるが、夜中に送られたFAXを朝見てうんざりしているのが実際。FAXは日中に送りましょう。
→何を送るのか?
◇新刊の事前注文
注文の戻りはいいが、本当に売れるのかどうかは別問題。あえて送らないというのも選択肢。
◇ロングセラーの増刷など
売れている本を再度案内するのでこれが一番理想的。常備寄託が形骸化してしまった今だからこそ、増刷の情報はどんどん送るべき。
◇メディアでの露出など
メディアでの単発の紹介はほとんど実売に影響しない。特にテレビでの紹介は事前に告知すると期待感から煽りがちなので結構な数の注文が集まってしまうが返品になる可能性は非常に高い。なので、事前の告知を行なう際はその影響を慎重に見極めるべき。
メディアでの露出後、順調に実売が伸びているようであれば事後報告したほうが良い。
既に動きのあるモノが繰り返し様々なメディアで取り上げられるようならそれは是非とも告知すべき。
◇時宜に合わせた品揃えの提案
通常の営業を行なっているのならこれは必須。
出版社ならではのカラーや親しみやすさは無理して作る必要はない。
書店向けFAXの実際
→サイズは? 枚数は? 送信頻度は?
◇サイズはA4(B4だと店舗のFAX機で縮小されてしまう場合が多い)
◇枚数は1枚に押さえたい。
◇余白が少ないと送信先で2枚になってしまう。ギリギリ目いっぱいの原稿はやめよう。
◇あまりに多いとうるさく思われる。週1回以上は明らかに多過ぎる。
→手書きのほうがいいのか?
◇手書きで味を出すのは考える以上には難しい。パソコンを使ってもOK。
→どんなソフトを使って作るのか?
◇一般的なソフトのほうがデータで渡したりする際にトラブルが少ない。パワーポイントは意外とお勧めだが、汎用性を考えるとワードかイラストレーター。
→表紙画像はあった方がいいのか?
◇画像はあったほうがわかりやすいが、FAXは潰れるのが前提。判別不能な画像を載せるぐらいなら無しでも可。
◇画像はグレースケールに変換しておくこと(FAXはモノクロのメディアなので当たり前)。
→効果的なキャッチコピーは?
◇相手が本屋だということを考えると「この本はこんなに素晴らしい」は不可。
「この本は素晴らしい本なのでこういう本と一緒にこういう客さんにこうして売ってもらいたい」が理想。
◇煽りは禁物。「待望の!」や「売れてます!」。誰が「待望」しているのか?
どこでそんなに「売れて」いるのか。無意味な煽りで注文をとっても返品になって困るのは結局出版社。
→メリハリはどう利かせるのか?
◇デザインの基本は「整列」「近接」「反復」「対比」。メリハリを利かせるためには「対比」が重要になる。
◇強調するだけでなくあえて強調しないところを作ることでメリハリは生まれる。
◇FAXはモノクロのメディア。重要なポイントで使う「白抜き文字」は効果的。
→フォントは何を使えばいいのか?
◇フォントを多く使いすぎると見た目がごちゃごちゃするだけでなく、どこが強調されているのかがわかりにくくなる。メリハリを利かせたいポイント以外はおとなしめに作るぐらいでちょうどいい。
◇特殊なフォントを使用するとデータで渡す際に問題が発生する可能性が高いので注意。
◇丸ゴシックの系統(ゴナやナールなども)は潰れにいので書店向けFAXには適している。
◇数字はTimesの系統が最適。
◇ワープロソフトの「太字」などはほとんど意味が無い。文字を太くしたいのなら最初から太い字体のフォントを使う。
→ISBNコードは載せなくてもいいのか?
◇FAXで送ったからといってFAXで返信が返ってくるとは限らない。書店がPOS端末などで発注するためにはISBNコードは不可欠。
→会社名はどこにいれたらいいのか?
◇雑誌のタイトルのように、FAXの上部にはっきりと。できればロゴなども入れたい。どこから送られて来たかわからないFAXはゴミ箱に直行すると思ったほうがいい。
→注文の枠は短冊形式がいいのか? それとも一覧か?
◇新刊の事前注文はその後の処理を考えると短冊形式。
◇話題の本、大規模な増刷などは一点(もしくはせいぜい関連の数点)で押すはずなので短冊。
◇シリーズやその他多数を掲示する場合は一覧。
◇どちらの場合でも番線印を押すスペースはしっかり確保しておくこと。番線印が押せないサイズの注文書では注文は(あまり)返ってこない。
→返信先のFAX番号はどこにいれたらいいのか?
◇どこでもいいが、とにかくはっきりとわかりやすく目立つように。どこに送り返したらいいかわからないFAXで注文が返ってくることはない。
→「FAXは要らない」という返事が返ってきたらどうするのか?
◇「要らない」と言われたら無理して送る必要はないが、なぜ「要らない」と言われたのかは考えてみるべき。サイズは、枚数は、頻度は、その店にとって重要と思われる情報を送っていたのか。不快に見えるような出来では無かったか。反省すべき点は多い。
◇FAXを受けるか否かはあくまで書店の意思。なので、「FAXの受信が不要の場合には」という箇所を作っておくべき。
→一般家庭から「FAXは送ってくるな」と怒られたが?
◇FAX番号の管理が甘いとそういうことも実際に発生する。ちゃんと謝るのは当然だが、今後そういうことが起こらないようFAX番号をキチンと管理することも重要。