2005-03-30
パリ症候群?
あこがれのパリに留学したのに、生活になじめず、心の健康を壊してしまう。
日本人女性に多いこの症状を在仏二〇年の精神科医・太田博昭氏は『パリ症候群』と名付けた。にほんのメディアでも取り上げられたし、フランスの新聞でもしばし、この症状は紹介されている。
期待が大きいぶん、それが裏切られると、深い絶望に落ちるのが人の常だ。日本で紹介されるパリは「華の都」「文化の都市」「おしゃれで歴史ある都市」だ。パリ生活はとっても華やかで文化的で薫り高いに違いない……と思ってしまうのも、無理はあるまい。
日本にいるとき、「パリに留学する」というと、「うらやましいなあー」「遊びに行きたい」と、多くの人が口を揃えていった。きらびやかな都市というイメージしかないようだった。
パリといえば、シャンゼリーゼ通りやルイ・ヴィトン、凱旋門といったことぐらいしか思いつかない人は、おそらく、次のような事実は知らないだろう。
①:移民増加と極右台頭が社会問題になっている。
②:ストやデモが日常茶飯事である。
③:物乞いが多い
④:街娼が多い。
⑤:ピルを服用している人が多い。
以前、パリを旅行した知人が
「いやあ、黒人や中東系の人が多いのにビックリした」
と驚いていた。
今月、パリを旅した友人は
「パリって結構治安悪いですね。物乞いのひともかなり多い印象でした。まあ、ロンドンに行った後だったので余計、不安定に見えたのかもしれませんけど。」
と私に漏らした。治安のけっしてよくないロンドンに比べても、パリは危険な匂いが強いようだ。
電車に乗っていると、一日に一回は、車内に物乞いが乗ってきて、お金をせがむのを目撃する。たいてい、車内に入るや自分の名前と窮状を大声で訴え、「ぜひ、お恵みを」といった後、小銭を入れる為の缶や紙コップを片手にもって、車両の端から端まで歩き、乗客一人一人に声をかけていく。
路上やプラットホーム、駅構内にもよく物乞いが地べたに座っている。
日本人女性の中には、そういう風景を「不潔」と感じる人もいるようだ。パリらしく、ないとも。しかし、テレビの娯楽番組では取り上げられることのない、それがパリの現状なのだ。
ヨーロッパでは移民の増加が社会問題になっており、フランスではモロッコ、アルジェリア、チュニジアからの移民が多い。移民が増えると、排斥運動が強まるのが常で、フランスではジャン・マリー・ルペン党首が率いる極右政党『国民戦線』が常に一定の支持を得ている。次期大統領と目されているサルコジ氏が内相の時、移民強化を強めたせいもあり、外国人が就労するのはかなり難しくなった。フランスでの就職・転職を夢見ている人は、パリに来てから厳しい現実を見ることになるかも知れない。
フランスで生活していると、しばしば郊外電車・地下鉄・バスといった公共機関のストや学生・労働者・市民によるデモに遭遇するであろう。1995年の12月にはほぼ一ヶ月、パリ市内のすべての交通機関がストのため、ストップした。日本でいえば、JR・小田急・京王線・西武線がすべてとまり、バスも走らない状態が一ヶ月、続いたようなものだ。それでも、過半数以上のフランス人はストを支持したという。数分の遅れにもいらだつ人であれば、パリの電車・地下鉄にはたえられないかも知れない。
フランスでは、自然な快感を堪能するためであろうか、ピルの服用が盛んである。避妊はピルに頼ることが日本より多く、コンドームは主に、HIV予防のために用いられる。フランス人の恋人(♂)ができたら、ピルを服用するようにいわれた……という話もしばしば、耳にする。
とまあ、「パリ留学」が論ざれるときに、触れられることのない話をいくつか、書いておいた。これをよんで、「フランスってメッチャ、おもしろい国ヤン」と思えるような人ならば、渡仏後も「パリ症候群」にかかることはないであろう。