図書館問題研究会発行の『みんなの図書館』に書いたものです。買ってください。
発行●教育史料出版会
03-5211-7175
最後に、唯一届いた「図書館員への質問」返事メールを掲載します。
返事の主は
大阪大学生命科学図書館参考調査掛・諏訪敏幸さん
です。
オンデマンド印刷ってなんだ
オンデマンド出版とは、オンデマンド印刷で作った出版物と、それを流通させることだと思うんですね。そこで、まず、オンデマンド印刷とはなにか、からはじめます。
たとえば、『日経BP デジタル大事典 2000-2001年版』(日経BP社)には、こんなふうに書いてあるんです。
「On-demand Printing
必要なときに必要な部数を提供する印刷のこと。(中略)共通するのは小ロット短納期でメリットを生む構造になっていること。日本では部数的には1000部前後。配布先が限定されるような印刷物を作ることができるので、余分な在庫を抱えることもない。多様化する顧客のニーズに合わせた限定出版物を作る装置としても発展が期待できる。」
On-demand って英語の訳が、「必要なときに必要な部数を提供」みたいな解説に結びつくのでしょう。
『デジタル大事典』に知恵を借りながら、ぼくなりにオンデマンド印刷を解説させてもらうと、第一に、一部から印刷して、本に製本することができる印刷方法。
これは、今主流のオフセット印刷でも可能。ただし、製作費がバカ高くなってしまいますけどね。
第二に、一部も百部も千部も、一冊当たりの製作単価がほぼ同じでできる印刷方法。
これは、オフセット印刷ではできません。これができるのは、コンピュータのプリンタの方式を利用しているオンデマンドならでは、であります。
第三に、デジタルデータがあれば、一日で百部程度は作ることができる印刷方法。
オフセット印刷だと、インクを乾かすことなどが必要で難しい。
第四に、以上のことが可能だから、一部ずつ、違ったものを作ることもできる印刷方法。
数十ページの短編小説、百点のなかからお好みのものだけを選択して一冊にすることができるってことですね。小松左京さんがやってるっていうやり方。
これも、製作費に糸目を付けなければオフセット印刷でも可能は可能。でも、無茶です、その製作費の高さは。
こうしたオンデマンド印刷という方法をつかって本などの出版物を作り、流通させようというのが、オンデマンド出版と呼ばれるモノなんですね。
オンデマンドの本の作り方
オンデマンド印刷で本を作るためには、本の要素がすべてデジタルデータになっていなければなりません(チラシでもなんでも同じで、本の場合だけの条件ではないですよ。念のため)。
みなさんも、「図書館だより」みたいなチラシを作るんじゃないですか?
今は、パソコン(ワープロ派もまだ多いのかな?)でプリントアウトして、コピー機で印刷したり、リソグラフみたいな簡易印刷機・孔版印刷機で印刷するじゃないですか。
このとき、一度プリントアウトして、それを「版下」につかうでしょ。でもって、写真を糊で貼ったり、手書きでイラスト書いてみたり、っていうの、やりません?
でも、いくらパソコンをつかっていても、これではデジタルデータってもんじゃないですよ。
文字原稿をデジタルにしておくのは当然ですけど、写真もイラストも、すべての原稿要素をデジタル化して、レイアウトまでして、「版下」は一切作らないってところまでやらなくてはなりません。だから、ハードウェアとしては、パソコンが必須。
ソフトウェアは、ワープロソフトでもできるってもんですが、たぶんポット出版で作るるんならクォークエキスプレスだのページメーカーだのって六万〜二十万円もするソフトウェアで作るでしょう。そのほうが、いろんな工夫もできるし、スピードも早くできるからです。
こうして、すべての原稿要素をデジタル化して、オンデマンド印刷機に送り込んで印刷(プリントアウトに近いかな)してもらう。ついでに紙を折るってところまで、その機械でやれるものもあるのです。
さあ、だからどうやって作るってことは、すべてデジタル化しておくことが、肝心カナメなんです。間違ったとこを、ホワイトペンで塗りつぶすってのはダメなんです。
オンデマンドで出版するといいこと
さて、じゃあなんでオンデマンド印刷で本を作る――出版するってことが注目されてるんでしょうか。
これは、まったくの独断・予断なんですが、まず最初にオンデマンド印刷機ができた、ってことじゃないかと睨んでるんです。
オンデマンド印刷機のなかのモノクロ印刷機で有名な機械でドキュテックってのがあります。ゼロックス製です。この機械が一番つかわれているのが、会社だって聞いたことがあります(又聞きではあるんですがね)。ほら、会議の資料とか、百部程度の社内マニュアルなんか、特に写真を入れるわけでもないから、ワープロソフトで作って、プリントってやれば一気に何十部かプリントされ、ページ順に丁合、ホチキス留めもされればバッチリでしょう。
さて、これをもっと他にも売り込めないかって考えた人が、「本だ」ってひらめいたんじゃないか。これがぼくの想像なんです。
でも、けっして「だからよくない」って考えてる訳じゃないんですよ。
今はすたれたポケットベルが、外回りの営業マンだけじゃなくて、女子高校生に大受けになったのっていいじゃないですか。それとおんなじで、違ったつかい方を考えるのがけっこう面白い。
じゃあ、出版物を作ろうって人たちが、このオンデマンド印刷って方法を、どうやって活かそうって考えたんでしょうか。
ぼくがこれまで一番、「ふむふむ」って感心した活用方法は、少数民族の言語で作る本ってアイデアです。なるほど、それはいいって。
確かに、その言語を読める人の絶対数が少ないんだから、本当の意味で少部数出版。
そうした、少数の文化でも認めあい、尊重しあうために、技術や経済力が現実に必要だって思うからです。
このアイデアの系列でバリエーションを考えてみると、大活字本なんかも考えられますね。弱視の人向けに、無茶苦茶大きな活字でオンデマンド印刷する。
デジタルで、それも、そうした大きな活字への変更が簡単なように作っておけば、もともとの本はいつものオフセット印刷で作り、大活字本はオンデマンドでってつかいわけが簡単にできる(技術的にいえば、あらかじめ変更可能なようにデジタルで作るってとこが一番のミソなんですがね)。
弱視者むけってとこまで極端な大活字本以外にも、老眼向け一二〇パーセント拡大本も考えられますよね。
こんなふうにつかうといいですよね。
オンデマンドに傾倒する人の意見
ところで、オンデマンド印刷をつかった出版に傾倒する人の考えはどんなもんなのだろうか?
『本とコンピュータ』一三号・二〇〇〇夏に、ちょうど「オン・デマンド出版が本の未来を変える」という文章が載っていた(ちなみに、この号にはぼくが書いた「版元ドットコムかく始動せり」が載っているんで必読ですよ)。書き手はマリオ・グァラルディというイタリアのGuaraldi
Publishing Houseという出版社の一九四一年生まれの人。
さて、このグァラルディさんの考えるオンデマンド出版のメリットは以下のようなモノだ。
(一) 出版社が見込み生産から解放される。
つまり、実際に売れる部数だけを、売れたときに印刷・製本すればいい。だから、倉庫代も節約できる。
(二) 読者はインターネット上に、当然作られるであろうデータベースから、好きな本を選んで購入できる。絶版・品切れ重版未定がなくなるからその選択肢は大幅に増える。
そして、この結果、出版社の「本の制作にかかる諸経費は、編集とプリプレス段階(さっき書いたデジタルデータを作るってこと――沢辺の注)でかかるコストだけとなる。もはや高い印刷コストに悩まされる心配がないのだから、出版社の利益分岐点は大幅に下がるはずだ。印刷部数の多寡にかかわらず出版社は利益を得られるようになるから、大量生産のいわゆる「クズ本」を作る苦労からも解放される。私たちは、文化的価値をもつ本が復権するさまを目の当たりにできるかもしれない。」と言っている。
経費でまだまだつかえない
天の邪鬼なぼくは、まずグァラルディさんの意見についての疑いから書かせてもらいます。
第一に、現時点での技術(とそれに基づく経費)ではまだまだ見込み生産から解放されるほど、経費は下がってないってこと。
『本とコンピュータ』が実験的に行っているHONCO on demandoで、ぼくも本を買ってみました。『オンライン・マガジンを読み倒す』(著・仲俣暁生/水越伸/和田忠彦)って本です。これ、カバーなし、見返しなし、四六判の体裁で一五二ページの本で、定価二千円です。よくよくみるとトナー(つまりコピーってこと)かなっていうくらい印刷はまがんばってると思うけど、これ「高い!」って思いませんか。
この値段、この体裁でいいんなら、ポット出版で千部以下で十分出版できます、オフセットで。
『本とコンピュータ』のさっきと同じ号にこの売上げ部数が載ってます。発行、半年で約五百部売れたそうです。五百部なら、ポット出版であれば、オフセットで千部刷って、たぶんHONCOより利益は多く出せると思います(それほど慎ましく作ってるってことですよ、念のため)。
いま、オンデマンドとオフセット印刷のコストは、二百部が分岐点だとか、五百部とか言われてます。それ以上作る本なら、どんどんオフセットのほうが安くなるってこと。やっぱり五百部くらいは出版しますよね、商売で出版やってるんだから。で、オンデマンドがもっと安くならなければ、実際に見込み生産から解放されるってことにならないんです。
ただし、この「オンデマンド印刷はもっと安くならなければダメ」って問題は、おもに技術に関わる問題だから、そのうち必ず解決できると思ってます。だから、その日のためにポット出版も準備をしてるんです。オフセットで作るのであっても、デジタルデータで作っておく、そして保存しておく。さらに、誤植などの修正の記録をとっておく、って準備です。
第二に、グァラルディさんの言っている「本の制作にかかる諸経費は、編集とプリプレス段階でかかるコストだけとなる。もはや高い印刷コストに悩まされる心配がないのだから、出版社の利益分岐点は大幅に下がるはずだ。」ってことについてです。
これ、まったく違っていると思う。
さっきのHONCOを例にしてみます。
五百部の実売、定価二千円だから、総売上が百万円です。
本屋さんで売ってもらうことを考えたら、本屋さんの取り分が二十万円、取次の取り分が十万円。書き手の印税を十パーセントの十万円(なんと安い!)として、出版社の売上げが六十万円になります。ここから、デジタルデータの製作費と、オンデマンド印刷費と、編集者の人件費と、出版社運営費、ほかにも営業や経理などの人件費も捻出しなければなりません。
ぼくが聞き回った、編集者の年間製作点数は七〜八点(小学館のある友人、決して小学館の平均値ではない)から、二十点程度(経理一人、営業一人、社長兼編集一人の出版社。だから二十点で三人の給料を稼ぎださなければならない)。二十点作るっていう話には、ちょっとからくりがあるから、まあ十二点が平均として六十万円でまかなえると思いますか? 全部が実収入とあり得ない仮説をたてて、さらにたった一人ですべてをこなすとみたって、年間収入が七百二十万円ですよ。公共図書館の人、ご自分の源泉徴収票を探してみてみて下さいよ。
編集・制作(これさっきのデジタルデータを作るってこと)の作業量は、オンデマンドになったって減らないですから、手を抜けばいいかもしれないけど。
そう考えると百部程度(五百部でも千部でも)の、文化的に高度な本を出し続けて、出版社としてメシを食べるだけの給料を確保するのはほぼ絶望です(同じ体裁で、五千円、一万円の定価を付けられるような専門書なら可能でしょうが)。
ですから、よく耳にする「少部数の出版が可能、低予算で可能」というのは、ご飯の食べられない出版社員の給料、そして書き手の印税(なにせ、一冊分の原稿書いて十万円ですから)を前提にしてなければあり得ないっていうのが、ぼくの意見なんですね。
本の増刷にいまから準備
じゃ、出版社としてオンデマンド印刷を利用することがあるのかってことになります。
今すぐ考えられるのは、増刷です。
それも、既刊本じゃなくて(昔、版下からフィルムを撮って刷版焼いてっていうやり方で作った本じゃだめということ)、デジタルデータで作ってあって、ちゃんとそのデータを保存してあるものの増刷です。
千部〜二千部の初版の本は、そのぐらいしか売れそうにないからそういった部数なんです。それが、大化けしたんなら別ですが、一年、二年たってやっと完売、なんてことだと、増刷するのは厳しいんですね。五百部以上は増刷しないと、製作単価が高くなっちゃう(初版三千の本なら千部は増刷しなきゃ)。でも、最初の千部〜二千部を一年かかって売ったんだから、増刷の五百部は四〜五年くらい覚悟しなくてはならない。ましてや一部も出ないことだって考えられるんです。
そこでオンデマンド。
もうすでに、原稿は印刷のためにデジタルデータにしてあるんだから、プリプレス段階の費用はかからない。少し手を入れなければならないけれど、ほぼ、そのままでオンデマンド印刷機にかけられる。
場合によっては、ISBNコードを付け替えて、値段を少々上げて改訂版にしてもいい。
こうした利用方法は今でも考えられる。だから、さっきポット出版では準備だけはしているって書いたんですね。
あっ!、いけない。この前三年ぶりに二刷した『おーいひきこもり そろそろ外へ出てみようぜ』って本は、にもかかわらずオフセットで千部増刷したんだ。初版三千で、順調に減ってきていたから、千部増刷でも一〜二年で六百〜七百くらいは出るだろうって思えたから。当然デジタルデータは残っていたんだけど、オンデマンドでなんて考えなかったっけ。
本の未来像からオンデマンド出版を考える
さて、本の未来像はそもそもどんなことになるのだろうか。実はそれによってオンデマンド出版の現在の意味がわかるんじゃないだろうか、ということで考えてみましょう。
第一に、出版が、最高にデジタルとネットで革新されたパターンです。それは、完全なデジタルデータが、ネット上で買われるってこでしょう。紙の本はなくなるってパターンですね。
このための条件は、著作権確保のためのプロテクトと解除キーがうまく完成することか、著作権をいっさい認めないという社会的な合意ができること、寝っころがって読める、軽くて、目が疲れなくて、丈夫で、一万円くらいの色もきれいに表示できる読書端末が完成すること、です。この二つがクリアできれば紙の本が本当になくなるか、高級で特別な四万十川の天然ウナギのような存在で生き残るかだと思います。
こうなると、オンデマンドの出る幕はあんまりないですね。高級品としての本がオンデマンドで印刷される可能性も残るけど、それはもはや少部数で、低予算で可能、のオンデマンドでも何でもないですものね。
第二に、デジタルの本と、紙の本の共存が長く続く場合です。すでに今は、その端緒についていると考えられます。
百科事典のような、検索もので、大部のものは、CD-ROMというデジタルで、本のような役割を果たすものとしてつかわれていますよね。まだまだ、比率で考えれば紙の本が多いんですが。
で、この段階ではオンデマンド印刷という手法がつかわれたりするでしょう。
ただ、流通までを視野に入れれば、出版側で印刷してお客に届ける方法と、データをネットで送って、お客さんの持っているプリンタでプリントする方法が二通り考えられます。もちろん後者の方が、圧倒的に流通費用が安くなります。
すでに、朝日新聞はデジタルBS放送で、お客さんにデータを送って、自分でプリントアウトしてもらう方法を確立するらしいですよ。でも、本には、製本が必要だから、お客さんがプリントして製本ってとこまでできるかな?
ゴメンなさい。こうやって考えていくと、オンデマンドにも可能性はあるし、自宅でプリントしてもらうのにも可能性はあるし、紙の本にも可能性は残ってるし、デジタル読書端末にも可能性はありますよね。結局未来はよくわからんって話になっちゃいました。
実用化されたオンデマンド出版事業
さてさて、今、出版業界で実際に行われているオンデマンド印刷による出版ってやつの概略をちょっとだけご紹介しましょう。
●HONCO on demand――これ、さっき紹介しましたね。
●ブッキング――日販と小学館・学研などの大きな出版社が組んではじめたやつです。ねらいは主に絶版本。絶版本をバラバラにばらしてスキャニングってやり方。本文のデジタルデータなんてない時代のものを出そうというんだからしょうがないですが、データが重そうで、効率悪そうです。もっとも、全部テキスト入力からやりなおしてたら、もっともっと経費がかかるはずですから。(ところで、現時点でオフセット印刷のときのデジタルデータを将来に備えて意識的に保存している出版社は何社あるんでしょうかね。ほとんどないと言っていい気がします)最近は「まぐまぐ」というメールマガジン配送サービスの会社と組んで、なんかやるそうです。
●電写本サービス――紀伊國屋と学術出版社が組んではじめたもの。これも絶版本復刻企画です。
●デジタルパブリッシングサービス――トーハンと凸版がはじめました。出版社向けにオンデマンド印刷やりますってサービスだと理解してます。
●ブックパーク――富士ゼロックス、だからオンデマンド印刷機のメーカーがやってるサイトで、ここでオンデマンドの本が買えるってもの。
●著者が直接やっちゃうオンデマンド出版――小松左京さん、村上戟iりゅう)さんの実験、が有名です。出版社はどうなっちゃうんでしょうか。
●出版社がやってるやつ――品切れになっても、オンデマンドで必ず出し続けますって宣言してる英治出版というのがあります。さっきポット出版では準備しているってやつをちゃんと宣言しているんですね。さらに、拡大版の本の販売もやってます、オンデマンド印刷つかって。
URLとかは、いちいち入れませんでした。もうちょっと知りたかったら検索してくださいね。
図書館の人に質問です
いよいよ最後です。
図書館とオンデマンド出版の関わりを書くんです。が、残念ながらぼくにはそのネタがありません。そんに図書館のこと良く知らないですから。
だから、みなさん、図書館の方々に質問してみることにしました。
その一
リクエストか何かでしょうか、あなたは本を買おうと発注しました。ところがすでに絶版。半年後、書店から「前に注文↓絶版になってたあの本、増刷されたんだけど、買わないですか?」ってきかれました。あなたはもう一度発注しますか。
その二
たぶん全国で百とか二百しか出回らないだろうと思われる、コアなテーマな本のチラシがありました。二〇〇ページで三千円。どんなテーマの本なら買いますか。
その三
あなたは、図書館にオンデマンド印刷機を入れたいと思いますか。経費的にはどうですか、どういう流通状況ならいれますか。
ぜひ、回答してください。オンデマンド印刷の利用方法がわかりそうです。電子メールでよろしく。
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返事のメール
私は大阪大学生命科学図書館参考調査掛の諏訪敏幸と申します。
「みんなの図書館」no. 282 (2000.10), pp. 13-23 の記事を拝読しました。
ポイントを突いた正確なご意見だと思います。
新しい技術が出てきたときはいつもそうですが、空騒ぎの傾向のある論説が多くて良質な情報が意外と手に入りにくいものです。「オンデマンド出版」もいささかその気が無きにしもあらずで、私は「こういう話題とは今はつきあいたくないな」と思っていました。そこに来て「みんなの図書館」の特集がこれだったものですから、「みんなの図書館」よお前もか、といささかげんなりしながら手にしたのですが、案に相違して有益な記事に巡り会うことができ、幸せです。同僚にも一読を勧めました。
で、まずアンケートの回答ですが、
当館は外国学術雑誌を中心とした比較的専門性の高い図書館なので、おそらく御社とは話がすれ違うところが多いのではないか、ということを前提にお答えします。
その1.
当館では予算がないのでほとんど図書が買えません。(中略)また、本を買う予算の大部分は教官の委員が何を買うか決める仕組みになっており、情けないことに図書館が選択できる余地はあまりありません。しかしリクエストがあったら多少無理をしてでもそれを買おうということは全くないわけではない、という程度の話になります。
だから、「半年後」という設定は現実的にはほぼあり得ないのですが、それでも、もしも貴重な学術資料だったら、予算さえ何とかなればたぶん買います。特に、他の図書館でもほとんど持っていないとか、持っていても借りにくいとかいうこであれば何とか手にいれようとするはずです。もしも買えなければ、一応翌年に引き継ぎます。
その2.
当館の扱っているジャンルで、かつ学術的に重要で、かつ他の方法では入手困難であれば、買いたいと思うはずです。(中略)
医学・生物科学系の学術図書の価格として、200ページで3000円は高くありません。私がこのあいだ個人で買って図書館にも推薦した(そして本学の生協によると「よく売れている」という)「国際誌にアクセブトされる医学論文」という本は、233ページで本体4500円です。私はこれを安いと思いました。
その3.
沢辺さんも触れていらっしゃるように、著作権が大きな問題です。これをクリアできた著作物がよほど多くならないと、入れても無用の長物だと思いますので、決して入れたいとは思いません。
ついでに、
1.
私の仕事の1つは、利用者の求める文献が当館にない場合に、他の図書館からコピーを取り寄せたり−もちろん著作権法の範囲内でです−、本であれば借り出したりする仕事です。この仕事をやっていていつも悩まされるのが次の3種類の資料です。
1)統計(借りられない、コピーを請求しようにも現物がないと掲載ページも、どの統計表のどの部分が必要かもわからない)
2)修士論文(ほとんど常に全ページ複写が必要だが著作権が処理されていない−これは大学の問題ですね−ので本人に連絡を取らなければならないし、保存システムも確立していない−これも大学の問題−)
3)団体出版物、あまりメジャーでない研究会の機関誌、科研費などのプロジェクトの研究報告(販売ルートに乗らないのでどこの図書館も持っていない)、あまりメジャーでないシンポジウムの抄録集
このうち1)はwebサイトにでも上げてもらわないと解決できないと思いますが、2)と3)はオンデマンド出版というのも1つの選択肢かなと思います。もっとも2)3)も直接webサイトに上げて、そこからエンドユーザがいきなりダウンロードしてしまうというのが主流になるかもしれませんが。でも3)のようなものは、出版費用は別に用意されていて、もともと売って元をとるというような仕組みにはなっていません。ただで点々と配る代わりに、あるいはそのついでに、著作権処理をした上でオンデマンド出版のような形で頒布の仕組みを作っておいて貰えればたいへん助かります。科研費の報告書は売るわけにはいかないのだろうと思いますが、そこは何かやり方がありそうな気がします。
出版して採算が合うか合わないかは考えていません。すみません。
2.
どうでもいいような話ですが、オンデマンド出版のアイディアはアメリカでは確か1970年代頃に一時期言われていたのではないかと思います。去年ある雑誌に掲載する論文を書いていて、1970年代のアメリカの図書館ネットワークに関する資料を当たっていたら出てきました。これが当時調べていた本筋ではなかったので、ノートもとっていないし、確実にとは言えないのですが。
その頃コンピュータ利用の新しい可能性として喧伝されたオンデマンド出版と、今のそれとどう違うのかな?とちょっと疑問に思っています。(まあ、コンピュータも発達してパソコンなども普及したし、技術的条件は全く違っているのですが。)
長くなってすみません。
職場で昼休みにでも書くと簡潔になるのですが、今回は家で書いて職場に持っていくつもりですので、ついいろいろと書いてしまいました。悪しからず。
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