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沢辺の気文 [2000年03月30日]

データベースの構築は
出版社の役割だ
『新文化』2350号

『新文化』2350号・2000.3.30号に書いた文章です。
発行・新文化通信社 電話03-3942-5561
みなさん、買って読みましょう

 最近、日経新聞を購読しはじめた。紙面を眺めていると、IT(情報・技術)革命だ、e-Commerce(イーコマース・電子商取引)だ、という記事がてんこ盛り。インターネットでなにかやらないと「時代遅れ」になってしまうとか、「乗り遅れるな」という雰囲気が蔓延していて、どうもうさんくさいと感じる。
 インターネットといっても、電話やファックスといった連絡手段の新型にすぎない。ただし、その圧倒的な安さや手軽さ、効率が、連絡手段としての質まで変えてはいる。版元ドットコムの会議レジュメや報告、会員の質問などはすべてメーリングリスト(一括同報通信)として電子メールで送りあっている。これをファックスでやると、40人くらいのメーリングリストで一回400円として、1日5通で、月に6万円もかかってしまう。版元ドットコムの活動が、すべての会員・会友に公開できるのは電子メールの安さと手軽さのおかげなのだ。で、そうした情報の公開は「組織」の活動を、質的に変化させることができるかもしれない。しかし、それだって「組織」のありようを変えるという問題意識がなければ何も変わらないのだと思う。大会社で、社長のアドレスを公開して全社員からメールを送れるようにしても、組織が硬直化、官僚化していれば意味はない。電子メールがあるから質が変わるのでなく、質を変えようとするときに電子メールが使えそうだって話なのだ。
 イーコマースだって同じで、インターネットでやるから売れるんじゃなくて、インターネットにあった売り方をやるから、売れてるってところがあるんだと思う。
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 講演や原稿書きなどであっちこっちに露出している往来堂。そのサイトは、ローテクの嵐だ。
 一番簡単なリンク機能で「文脈」ごとに本紹介ページをつくる、みたいなやり方。それでも、アクセスが多くて、結構売れてるらしい。
 例えば、この往来堂のサイトに学ぶとこうなる。
 人脈を活かして、往来堂をめぐる人たちに「読み物」を書いてもらって、キチッと掲載していること。けっして、きれいなビジュアルやハデな動きがあるわけではない。でも、準備に一番手間のかかる読み物をいつも更新しているからアクセスしたくなる。
 人の名前で読み物・情報を発信していること。店長も店員も出版社員などの人脈関係者も個人として登場。情報の出所がはっきりしてる。
 情報を惜しまず公開していること。とくにメールマガジン「SENSE」では安藤さん自らのおすすめまで公開。
 で、結局一番のキーワードは、大変なことだけど大切なことをしっかりやっているってことなんだと思う。書店を切り盛りしながらサイトをつくるって、ともかく時間的に大変なはずだ。人に原稿を頼んで集めるのが、いかに手間のかかることかは、編集者のみなさんならおわかりだと思う。メールマガジンを毎週書き続けるのって、事務処理能力がなければできません。
 膨大な手間のかかる事務作業をキチッとやっているから、俄然輝いているんだと思う。
 IBMと手を結ばなくとも、イー・ビジネスはできる。イヤ、IBMと手を結ばなくともできる人が、IBMと手を結んでもいいイー・ビジネスができるんじゃないだろうか。
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 じゃあ、版元ドットコムは一体どこで、膨大な手間のかかる事務作業をやろうとしているのか。それが、本のデータベースづくりなのだ。
 「エジプトのことをいろいろ知りたいな」と思う人、例えばエジプトに単身赴任する人が、このデータベース上で「エジプト」というキーワードを入れると、タイトルに「エジプト」と入っていない本でも、検索できるようなデータベースをつくろうとしている。
 テスト版のデータベース(4社のデータのみ)で実際に検索してみる。「エジプト」という言葉で、内容検索すると、『 アフリカ旅物語 北東部編』と、『女の歴史』と、『神の刻印 (下)』と、『マヤの予言』の四冊がヒット。
『女の歴史』は「女の労働を歴史的に叙述した恰好の入門書」という内容。古代・エジプトの女の労働に関する記述の目次にヒットして、検索された。
 こうした本のデータベースをつくれば、本の世界・本を読んだり利用したりすることを、ますます面白く広げていくことができる。このデータベースづくりは手間のかかる事務作業なのだが、このことをキチッとやれば、データベース自身を楽しんでもらうことができると思っている。
 実は、これが多くの出版社にとって結構な手間だ。版元ドットコムのことで、多くの出版社の方々と話すと、図書目録を冊子などの印刷物などでつくっている出版社は多いが、それをデータベースにしているところは少ない。図書目録を刷った印刷所から、そのテキストをデータでもらえるところはまだいい方だろう。
 しかし、これは、本を楽しんでもらい、買ってもらうようにするためにはとっても必要なことだと思う。で、これまで、本のデータベースに取り組んできたのは、取次と紀伊國屋などの大手書店と書協のブックスなどで、出版社の取り組みは弱い。実際、書協のブックスを除いて、出版社が本のデータを提供しているのは少ないはずだ。
 もちろんそのデータは、いまだに書誌データや、流通のためのデータが中心。本の内容までを含んだデータベースはまだまだ少数だ。
 そして、この本の内容まで含みこんだデータベースをつくるのは、やはり出版社自身がやるべきことなのだと思う。つくったデータは、読者はもちろん、業界全体に提供して使ってもらう。書協には、自動転送する。紀伊國屋がもらってくれるのなら転送したい。取次が今後電子データで新刊データを事前送付することにしたいのなら転送していきたい。小さな本屋が自分のサイトで、版元ドットコム・データベースの検索窓を表示してもらえるようなシステムにしたい。
 本を売ることは、こうした手間のかかる事務作業の向こうに始めて見ることができるのだと思う。
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 2月17日に会員参加説明会を開いた。3月15日現在、29社が参加。まだまだ増えていきそうだ。会友という、業界外から意欲的な協力者も9人申し込んでくれた。
 この間、書店との懇談会や、書店大学で話をさせてもらった。トーハン・日販・大阪屋・太洋社・鈴木書店と、取次にも挨拶にうかがった。
 書店・取次のみなさんからの直販(中抜き!?)に対する「批判」を予想したが、ほとんどなかった。「この時勢だからしょうがない」という気持ちもあった思うが、予想外に、版元ドットコムへの共感の声もいただいた。共感の声に限っていえば「こうしたデータベースが業界にあるべきだ」という理由が一番多かったと思う。地方の書店からは、応援メールをいただいた。
 やはり、このデータベースから出発して、販売の機会をしっかり増やしていくことが必要なのだと思う。
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 さて最後に肝心の版元ドットコムの機能を紹介しておこう。
●本のデータベースを提供。
●お客に会員版元の本を、送料無料、2〜5営業日着で直販。代金はネットでカード決済。
●書店に送料無料、2〜5営業日着、80%・買切りで直販。代金は、各版元へ郵便振替で送金。会員制。当面1年の実験として取り組み。「版元ドットコム取扱書店」として宣伝もしたい。
●本のデータダウンロード販売に取り組む。
●会員は版元。入会金1万円。会費は出版点数50点までで2千円、1000点まで5千円(一例です)。
●会友という、版元以外でこのサイトの運営に参加したい有志も募集。入会金・会費は無料。
 出版業界は客注品などの到着日数をもっと早くするなどの、問題改善が求められている。
 さらに、書店でも、取次でも、本の内容を含んだデータベースが、販売に役立つと思う。版元ドットコムはこうした問題に取り組んで、本の販売機会そのものを増やしていこうとしている。

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