2010-02-08

いただいたご本『大人問題』

978_4_7808_0141_5.jpg● 小浜逸郎『大人問題』(ポット出版) 1900円+税

こういうと生意気だけど……小浜逸郎さんは同世代の思想家である上野千鶴子さんなどに比べると、器用でもないし、条件反射的な頭の回転にも劣ると思う。だけど、だからこそ、自分が引っ掛かかりを感じた問題を深く掘り下げて、じっくり考えることをしてきた方だと想像する。彼は、”こういう文脈だったらこう言えるし、こういう理論からするとこのように見える”みたいな安易な相対主義にも陥らない。あるいは、”あなたの見ていた世界は偽りで、本当の世界はこのようなものです”みたいな危ういカタルシスを読者に与えようともしない。市場ではこういう態度の著者はそれほど「売れない」だろうが、思想家としては信用ができる。

そういう小浜さんの頑固な味わいが本書『大人問題』からはにじみ出ている。思想や理論としての切れ味を残したまま、なんとも人間的なこうばしさが漂っている。自分の父親について回想したエッセイや、藤沢周平についての評論など、60代まで実直に生きてきた男ゆえの奥行きがあって感動すら覚える。

社会批評としても流行の理論や言い回しに流されず、射程が広く深い。

「おそらくかつての小さなムラ社会的(氏族、部族的)な共同体では、私たちがいま考えるような家族的な共同性はそれほど強く意識されなかった。
 その代わりに、ある共同体全体の宗教とか、労役を通じたまとまり意識(たとえば狩猟や航海や戦闘に参加する男たちの共同性)のほうが重みをもって受けとめられ、配偶関係や血縁関係の認知構造としての「家族」は、その原理を保存しながら、それらの共同性(同胞意識)のなかにぼんやりと融解していたと考えるのが妥当だろう。
……しかしいっぽう、家族は近代になって初めて成立したというようなよく見かける言説も極端である。配偶関係や血縁関係の認知構造としての家族観念は、やはり歴史時代のはじめから存在したと見なすべきで、それはたとえば、山上憶良の歌やギリシア神話(たとえばオイディプス神話)や旧約清書などからじゅうぶんうかがえることである」

こういう批判に応えようとする研究者ははたして今いるのだろうか?

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