2009-10-17

うたぐわさんインタビュー(後編)

1237339026786.jpgインタビュー「人気ブログの著者、うたぐわさんってどんな人?」(09.9.23 エフメゾにて)

うたぐわさん/人気漫画ブログ「♂♂ゲイです、ほぼ夫婦です」の著者。
1966年生まれ。B型。フランス(パリ)が苦手。

インタビュアー/伏見憲明(エフメゾママ)
 
 

● 女子ともエッチができた!?

伏見 うたぐさんがゲイの部分でどうしてオープンリーな社会人になれたのか聞きたいのですが。思春期の頃には悩んでいたんですか。ゲイだというのにはいつ気づいたの?

うたぐわ ゲイだということは、かなり子どものときに気がついていました。いろいろなコンプレックスがあって、ゲイだということもそうだったし、肥満児だったし、家庭環境が複雑だったということもあって、思春期まではそれらと闘っていたという感じ。性格の過激さ、過剰さも相まって、自分のコンプレックスみたいなものを掘り始めちゃうと、今度はどこまでも掘っちゃうというのはあって、わりと思春期から20代いっぱいまでは、そういうのに結構囚われていたようなところがあったと思います。

伏見 女子ともつきあおうと思ったりしたそうですが。

うたぐわ 実は、20歳くらいのときは、女の子と暮らしたりしていたんです。
伏見 え! それはエッチありで?

うたぐわ エッチありです。

伏見 それはバイセクシュアルってことなんですか?

うたぐわ いや、なんなんでしょうね。そのときはエッチもできちゃったんですよね。今はどうだかわからないけど。当時は真剣にノンケになりたかったんです。ほら、昔「あの人、結婚してないんでっすって。ヒソヒソヒソ……」みたいな社会だったときは、ゲイ的なものが自分の中にすごくあっても、多くはそれを抑圧して結婚して、子どもを作ったりしてたわけじゃないですか。やっぱり性欲って社会的なものだから、そういう社会だったらそういうふうになっていくんじゃないかなとは思うんです。だから僕も女の人とエッチもありながら、そのときは暮らせてはいたという。

伏見 当時は一方で男に対して欲求不満もあったんですか。

うたぐわ うん、やっぱり男の子にはすごく関心があったので、男の子を求める気持ちというのは心のなかに同居していました。プラス一緒に暮らしている女の子への気持ちというのも、やっぱり育ってはいて。

伏見 それは恋愛感情として育っていたということ?

うたぐわ 恋愛感情だったのかどうかわからないけど、情は湧いてましたよね。

伏見 その彼女を前にすると、ムラムラッとしたりするわけですか。

うたぐわ えっと……うん。ムラムラッとしたというか、なんつったらいいんでしょうね。メキシコに行くと、お米はあるんですけど、日本みたいな水稲うるち米はないんですよ。ボソボソのごはんをピラフにして食べる。あとはタコスを食べるしかない。だからタコスとそのボソボソの米しかないから、そっちを食うみたいな(笑)。

伏見 女の人はボソボソの米やタコスでつか(笑)。

うたぐわ そう(笑)。だって男の子が好きだからしょうがないですよね。でも、タコスやボソボソの米は中南米の人にとってはこの上なくおいしい食品だし、世界的に見てもうるち米よりも食べてる人はぜんぜん多いみたいな(笑)

伏見 やっぱり男の子を好きだという気持ちのほうが大きくて、拭いされないものとしてずっと育っていったわけですか。それはそれで大きくなっていったということ? 抑圧をしつつも。

うたぐわ はい、そうです。

伏見 そうやって女子ともつきあっていて、いつゲイのほうにシフトチェンジするわけですか。

うたぐわ それで、その女性と一緒に暮らしていて、情は湧いていたんですけど、やっぱりちょっと玉砕しちゃったんですね。男性に対する自分の気持ちがどうしても抑えられなくなって。ちょうどタイミングよく、その女の人は故郷の沖縄に帰っちゃったので、じゃあこの先自分は別の女の人とつきあうのかなと考えたら、そうじゃないなって思った。

伏見 玉砕というのは、その女の人に粉砕されちゃったの?

うたぐわ 関係自体が玉砕しちゃった感じ。要はエッチするだけだったらできるし、女の人と友達として仲良くすることもすごく好きなんですけど、恋人や彼氏、夫というような関係は、やっぱり自分にはできないと思ったんです。まあ、女の人が全部そうだとは言わないけど、女の人は友達同士だと、わりとイーブン・イーブンという関係を保とうとすると思うけど、彼氏に対してはイーブン・イーブンじゃなくなりますよね。

伏見 どうなるんですか?

うたぐわ いや、そうなんだと思うんですけど、イーブン・イーブン以上のものを求められちゃうことに対して、あんまり優しくなれなかったという。

伏見 イーブン・イーブン以上というのは、「うたちゃんは全部私のもの」というような独占欲が強くなるということですか。

うたぐわ うん。あとは自分のフラストレーションがガーッとなったときに、ワッとぶつけてこられちゃうようなこととか。

伏見 生理?

うたぐわ うん、それはよくわからないけど(笑)。要は自分は男の子がブスッと機嫌悪くても、「どうしたの? 何か食べる? どうしちゃったの?」みたいな感じになれるんだけど、女の子がプンとして口きかないと、「あ、じゃあ機嫌よくなるまで、僕はこっちで遊んでるね」みたいな(笑)。

伏見 それは女の問題じゃなくて、うたちゃんの問題でしょ! やっぱり男の子のほうが、仲良くなれる感があったということなのかな。

うたぐわ そうです。

伏見 それでその彼女は沖縄へ帰っちゃって。そのとき男との経験はまだないわけですよね。

うたぐわ いやいや、それはもうすでに……。

伏見 え、あったの。それはいつ?

うたぐわ 高校生のときに初めて男の子とつきあい始めて、高校を卒業するときにその関係は終わったので。

伏見 じゃあ男の子との経験もちゃんとありながら女性と暮らし、クンニリングスなんかもしてたわけ?(笑)

うたぐわ はい(笑)。例えば、日本の国民が、70%くらいがドコモの携帯を使ってたときって、大体みんなドコモを買いましたよね。それと同じようにみんなが異性愛をやっていたらノンケの道も選びたくなりますよね。だからやっぱり僕も選びたかったんです。

伏見 彼女との関係が終わったときに、同性への欲望も抑えられなくなり、ノンケの道を選ぶのはもう無理だって悟ったわけですね。

うたぐわ そこで悟った感じはありました。21歳くらいのときのことです。

伏見 うたぐわさんは僕より3歳くらい下だから、80年代後半?

うたぐわ 本田美奈子が「マリリ〜ン」って歌ってた頃です。

伏見 80年代ですね。でもその頃から僕の『性のミステリー』まで、結構長い期間があるような気がするけど。

うたぐわ うん、そこからもずっと男は好きなんだけど、そのことに対してまだ「これは障害なんだ」と思ってたんです。病気じゃなくて障害だと思ってて、だから僕は男の欠陥品なんだと思っていたんです。だからそこがすごくフォビ子だったんですけど。だからそのときは、他のゲイの人もみんな欠陥品だと思ってたんですよ。

伏見 まあ、実際、欠陥品みたいなもんだけどね(笑)。

うたぐわ 欠陥品としてのコンプレックスをずっと抱きながら生きていて、わりといろいろなことにそのことは影響していた感じでした。

 

● カミングアウトされる側の変容

伏見 会社でカミングアウトしたのはその頃なんですか?

うたぐわ はい、その頃からしてました。カムアウトしたというよりは、僕はすごくバレやすいタイプなのでバレちゃった感じ。自分から「僕はゲイなんです」というのではなくて、女の子がニマニマ近寄ってきて、「あんた中田のこと好きでしょ〜」「な…な……なんでわかったの!」みたいな(笑)。そういうことでカムアウトしていった感じ。

伏見 最初の話に戻りますが、カムアウトしたときの受け止められ方というのは、20代と30代の頃と、今は40代になりましたが、ずいぶん変化は感じられますか。受け止められる側の向こうの人たちは。

うたぐわ それはすごい変化していると思いますけど。

伏見 うたぐわさんのほうも変化しているわけじゃないですか。年代とともに自己肯定感はどんどん増していくわけですよね。それってどういう関係なんだろう。うたぐわさんが変わったから周りの受け止め方も変わったのか。それとも時代の変化の問題なのか。

うたぐわ まだ100%肯定できたのかどうかわからないですけど、肯定してないときと、肯定感が強くなってきたときでは、周囲の反応は違いますね。やっぱり肯定してない気持ちが強かったときは、悩みを打ち明けるような形でカムアウトしたりすると、「いや、おまえそれってさ、絶対治るよ」とか言われたり(笑)。そのとき、わりとナヨナヨチックなしゃべり方をしていた時代で、僕はわりと時代によって男らしかったり、女らしかったり、ちょっと波があるんですけど(笑)、そのときは「俺がおまえを絶対に男らしくしてやるから!」みたいにノンケの男に言われて、でも結局、その子のほうがなんだか女らしくなっちゃった(笑)。オネエ言葉みたいな、男らしくないしゃべり方って、ノンケの男もしゃべっててラクみたいで。

伏見 あれは感染するよね。

うたぐわ そうそう。「オネエ言葉を抜くのが大変」って恨まれました(笑)。

伏見 オネエ言葉を使ってたということは、20代から二丁目にも出てきてたってこと?

うたぐわ 二丁目デビューは16歳くらいのときでした。高校のときに彼氏と初体験をした3日後くらいに、「いつか行くんなら今行ってしまえ」と思って、まだジップバーがディスコだった頃のことです。

伏見 16歳から二丁目に出ていて90年代の半ばまで自己肯定できなかったって、本当にフォビ子時代が長かったということですね。

うたぐわ そうでしたね。僕は二丁目に対して、ギラギラした性欲の権化がいっぱいいるところみたいな気持ちはずっと抱いてて、それでも暮らしていた女の子と別れてからしばらくは、僕も人並みに性欲はあったので、そういうのはどこでガス抜きするかとなったら、やっぱり二丁目しかなかった。「不本意だけどゲイとエッチします」みたいな、そんな感じ。「ホントはノンケとやりたいんです」みたいな。ゲイもボソボソの米でした、当時は。

伏見 僕が最近すごく気に入ったうたぐわさんの漫画があって、お持ち帰りされた相手の家に泊まって、朝起きると相手の気持ちが豹変していて、「駅までの道、わかる?」って冷たく言い放たれるっていうやつ。あれってホモフォビアとも関係してるところがあると思うんだけど。

うたぐわ ああ、そうでしたね。

伏見 身につまされる思いがしました(笑)。

うたぐわ 一応あの話のキャラクターにはモデルがいるんですけど、僕の恨みもだいぶこもっています(笑)。

伏見 ずいぶん言われたんですか?

うたぐわ うん。今、伏見さんだとか、あそこにいらっしゃるタックさんとかがゲイのパートナーシップだったり、モラルアップを運動としてずっとやってこられて、ゲイのほうも考え方が変わりましたけど、あのときはエッチだけ求めてくる人のほうが圧倒的に多かったので、エッチが終わったらさっさと帰ってくらいの感じだった。それゆえにエッチをするたんびに、ゲイフォビアをますます募らせていく感じでしたね。

伏見 かつてはそうでしたね。ゲイのセックスのなかにも濃厚にホモフォビアが反映されていた。まあ、いまもそれは性幻想のある傾向を確実に形作っているけど。
 さっき、自分の自己肯定感によってカミングアウトをしても相手の反応が違うという話が出たけれど、時代的に言ってもゲイを受け止める側の状況もずいぶん変わりましたよね。

うたぐわ 変わったと思います。テレビとかそういうものの力って大きいなと思っていて、HGが出てきて、子どもまで「フォー!」ってやって、それを見ている親も笑って一緒に「フォー!」ってやっているのを見たときに、やっぱり時代は変わったわと思いましたよね。
 おすぎとピーコの頃はキワモノ扱いをされていたし、僕も子どものときには「おすピー」って言われていじめられていた。今ではおすピーがいたからこそと、すごく感謝してるしリスペクトしていますが、子供のときは恨んでましたよね。おすピーがいるからそう言われちゃうんだって。

伏見 ノンケ男子は、うたぐわさんがゲイだと知ると昔だったら「治してやる」と言ったのが、今だとどういう感じなんですか。

うたぐわ カムアウトすると咄嗟にリベラル表明するんですよね。「僕、そういう差別とか全然しないほうだから!」とか、「あ、俺二丁目行ったことある」みたいのとか(笑)。

伏見 確かにそうですよね。とりあえず建前上、自分は差別しないと表明したがる人が多いですよね。

うたぐわ うん、でも建前だけではないような気もしますね。「そういうのに関係なく俺は仲良くするよ」という生き方をしたい人が増えたんじゃないかなと思いますけどね。その結果、僕の漫画にノンケの男の子も見てくれて、というのはあります。

 

● トライアル&エラーを重ねるしかない

伏見 会社でカミングアウトをする戦略って、ここにいる学生のお客さんも参考にしたいかもしれませんが、どのようにしていったらいいわけですか。会社に入ってカミングアウトを必ずしもしなければならないとは思わないんだけど、するならこういうふうにするといいとか、しないんだったらこうしたらいいというのはありますか。

うたぐわ とにかく会社の中での評価は仕事なので、その仕事でどれだけリスペクトされるかで全く違うと思うんですよ。その人がその職場に必要だと思われれば、僕がゲイであってもなくても大事にされると思うんですよね。だからそこのところが一番の根本であると思うんです。
 あとは僕の場合、声もすごくデカくてうるさいし、人のことを構うのが大好きなので、自分で言うとちょっとアレなんだけど、ムードメーカー的な存在なんですよ。今日そこに職場の同僚がいるので恥ずかしいんですけど(笑)。

伏見 あそこに座っている女性が、マヌーっていう人?

うたぐわ 違う、違う!(笑) 
 自分ムードメーカーみたいな感じでもあるので、そういうところでゲイであるからこそ楽しくできるみたいな目で見られてる部分があって、職場内がそういう雰囲気になったら、ゲイに対して緩やかになっていくと思ってる。僕はずっと人のことを笑かせてばかりいるので、「やっぱりオカマが職場にいると面白いんだ」みたいな、そういう感じのところがあるんじゃないかと思うんですよ。

伏見 ブログの中でも、笑いということの効用が書いてあったけど、やっぱり笑いは大事だと。

うたぐわ 笑かしたら、かなりこっちのもんですね。

伏見 一方で、例えばテレビのおすピーとか、オネエ系タレントの人のことについて、「あんな人たちばかりじゃない」と言いたいゲイにとっては、ゲイだからといってなんでもかんでも笑いの文脈に押し込められるのはどうかという面もあるじゃないですか。そのへんはどうですか。そういう意味での笑いというのは。

うたぐわ たしかに僕が僕のスタイルでオープンリーに暮らしているというのは、誰にでもできることではないと思う。でもそれと同じように、僕も他の誰かのようにはできないんです。なので自分だったらこれができるなとか、自分だったらこうしたほうがいいんじゃないかなというのは、トライアル&エラーを重ねて、自分のウェイを見つけていくしかないと思うんですね。

伏見 うたぐわさんにとってのエラーというのは、例えばどういうことがあったんですか。説教されちゃったというのはあったにしても、他には?

うたぐわ 僕も今ではおじさんですけど、昔は若かったので(笑)、恋しちゃったとかそういうことが入ってくると、自分のコントロールだけではどうしようもなくなるときがあるわけじゃないですか。

伏見 ブログにも書かれていた温泉で勃っちゃったりとか、そういうこと?

うたぐわ そうじゃなくて、やっぱり恋しちゃったら、その人のことをもっと知りたいし、近づきたいし、自分のものにしたいと思っちゃうじゃないですか。そんなときに目の前で女の子とイチャイチャされたりしたら、思わず机をバンッ! みたいになるわけでしょ(笑)。そういう失敗はかなりありました。好きな男の子の誕生日に、秘かにプレゼントを買ってたんだけど、職場の女の子と2人で飲みにいっちゃったということがあって、「僕に結構優しくしてくれてたのに!」って。……でも恋さえしてなければ、そんなことはないんですよ。そんな狂ったことはしないんですけど……。

伏見 どんなことをしたんですか?

うたぐわ その子たちが飲んでる店まで行って、プレゼントをその子に投げつけて帰ってきたんです(笑)。

伏見 それはすごい!(笑) 切ない愛だねえ。

うたぐわ 伝説になっちゃった……。

伏見 それは社内的にはどうなったんですか。

うたぐわ 結局その彼は誕生日に一緒に飲んだ女と結婚したんですよ。結婚式には会社の中では何人かしか呼ばれなかったんですけど、そのとき僕はその会社を辞めていたので、二次会の招待状が来たんです。行くのもどうかなあと思ったので、とりあえず二次会会場に電報を送った。「おめでとうございます。お幸せをお祈りしています。いつまでも仲良くね」って。それで最後に僕の名前が読み上げられたときに、会場がドッと笑ったって(笑)。

伏見 ここで言うのもなんですけど、長年見ていて確かにうたぐわさんて恋愛すると狂っちゃうほうだよね。

うたぐわ うん。

伏見 だからうたぐわさんと自分は近い人間だと思ってたんです。ほら、だってストーカー系でしょ(笑)。僕もかなりその傾向があるんで。

うたぐわ いや、今はもう40代を越して、わりと火力のコントロールや火の方向のコントロールもできるようになってきちゃいました。火自体も若いときと違ってガスが少なくなっているので、コントロールできるくらいのものになった。恋愛にガーッと邁進しちゃうのも、すごく燃えるし、このジェットコースターもすごくイイッと思うんだけど、今そこに突入できるのかというとあんまり。「ディズニーランドに行こ」とか誘われて、楽しいのはわかってるし、盛り上がるのもわかってるけど、「まあ寒いし混んでるからいいや」みたいな。

伏見 話しを戻して、会社でゲイだからと差別的な対応をされたことがあったが上司がかばってくれた、ということも描いていたけど、そういうこともあるんですか。

うたぐわ 僕らよりちょっと上の世代、50代、60代くらいの人たちは、「ホモ」と「気持ち悪い」がワンセットになっていて、そういう人たちは社会の真ん中からどんどん卒業していかれるので、卒業するのを待っていればいいんじゃないかなとは思うんですけど、彼らは本人の目の前では言わないで、陰でコソコソという傾向があって、「自分の部署にうたぐわは欲しくない」と誰それが言っているらしいというのが耳に入ってくる…というのとかは、直近ではないですが、30代前半の頃にはありました。
 ただ、仕事で僕は数字も上げてきたし、僕の機動力を買ってくれるノンケの上司も、それはそれでたくさんいたので、どっちのほうがビジネスマンとして上かなという判断を、僕のほうからしていたという感じですね。「この人は僕がゲイだとかそんなことに惑わされてバカみたい」と思って、「味方につければこんなに強いのに」「敵に回したね。バカ者!」と高飛車に思ったり(笑)。仕事上では、それくらい強気な考え方でやってきちゃいました。

伏見 僕より上の世代や僕と同年代のゲイの人たちには、「ゲイは会社でノンケの3倍仕事をしなきゃいけないんだ」と考える人がけっこういます。それで自分の地位を揺るがないものにするとか、仕事を認めさせることで自分も認めさせる。でも差別の問題の本質として言えば、別に3倍働かなくても、同じに働いていて差別されないのが一番正しいことなんだけれど、戦略としては仕事ができたほうが確かに認められやすいよね。

うたぐわ うん。ゲイであることとは関係なく、仕事で認められたい欲求はかなり強いです。でもま、3倍仕事ができなくても、3倍かわいかったらいいんじゃないですか(笑)。昔よりも、仕事だけじゃなくて、いろいろな面を見てくれるようになってきているように感じています。

伏見 今までバレバレで会社生活をやってきて、窮地に陥ったとか、辛かったということは、ゲイの問題としてはそんなになかった?

うたぐわ あんまりね。ゲイだから辛かったというのは、自分自身がゲイである自分を嫌って、自分自身がジトジトしていた時期ですね。他の人から攻撃されたというのは、まず僕の場合はなかったです。どっちかというと得したことのほうが全然多かったです。

 

● セックスの描き方

伏見 漫画の話も聞きたいのですが、タイトルの「ほぼ夫婦です」ということから、一応パートナーシップ論的なものなのかなという気はするんだけれど、でも意外と夫婦の関係性は、エピソードとしては書かれているけれど、例えばセックスの問題とかは書いてないじゃないですか。夫婦の何を書こうとしているのか、何を書かないようにしているのかというあたりを、今日はちょっと聞きたいなあと思ってました。

うたぐわ ええ〜、ツレちゃんと僕のセックスの話……?(笑)

伏見 いやまあ、そうとも言わないが(笑)。関係性論だと、そういう話まで入ってきちゃうじゃないですか。でも意外とそこは避けたいところなのかな。ナマナマしいところは。

うたぐわ っていうか、ナマナマしいから書かないというのではないんですけど、ツレちゃんはあの漫画の通り、本当に脳内が幼児で、性的なことにあんまり関心がないんです。そんなにセックスのことを描くほどもないみたいな、そんな感じだから、あんまりネタがないんですよね。脳内幼児みたいな人がエッチしてるところの漫画も、誰も見たくないだろうなと思うし、そんなの描かなくていいんじゃない? という感じなので。

伏見 ゲイっていうと、普通はセックスとイコールになったりするわけじゃないですか。僕も店ではやたらとセックスネタを口にして、そういうステレオタイプなゲイを表現することで喜ぶノンケを見て、「なんて頭が悪いんだろう」とか思ってニンマリする(笑)。うたぐわさんの漫画の場合、ゲイ夫婦だけれども、セックスについて書かないというのは、1つ面白いフィクションだと思って読んではいるんですが。

うたぐわ セックスの話は、ペロちゃんが担当してるんです。

伏見 ああ、そういうキャラ分けがあるんですね。

うたぐわ ペロちゃんとトンちゃんは、SATC的な要素をあの漫画に取り入れたくて登場させたんです。

伏見 ごめんなさい。SATCってなに?

うたぐわ 「セックス・アンド・ザ・シティ」のこと。

伏見 あぁ、ペロちゃんはサマンサみたいな役割りなんですね。

うたぐわ そうそう。なので、ペロちゃんは当分、彼氏は作らせません、みたいな。まあ、実際できてないんですけど(笑)。

 

● スキンシップは好きだけど、性的ではない

伏見 また突っ込むのもアレなんですけど、ツレちゃんとはつきあって2週間で一緒に暮らし始めたんですよね。

うたぐわ はい。

伏見 それで長く暮らしてきて、いまや「夫婦」っていう感じがやっぱりあるんですか。

うたぐわ そうですね。法律で結婚できるように、法改正されたら結婚すると思うんです。

伏見 うたぐわさんは結婚制度はあったほうがいいと思ってるんですか。同性同士でも。

うたぐわ いや、結婚制度があったほうがいいというか、今は「ない」っていう選択肢しかないので、「ある」と「ない」と両方の選択肢があったほうが、それはいいに決まっていて、要は捨てるんだったら、1回もらってから捨てたみたいな、そういう感じですよね。あそこのステキなパーティに呼ばれてから断りたいの……みたいな(笑)。

伏見 過去にノンケに恋をしたり、ゲイ同士でもいろいろな恋愛関係はきっとあったんだと思うんですけど、そういう関係性とツレちゃんとの今の関係というのは、どう違うんですか。ツレちゃんはスペシャルなものなんですか?

うたぐわ それはもうスペシャルですよね。

伏見 どのへんがスペシャルなの?

うたぐわ えーっ……。2人をつなぎ止めておく絆ってなんだろうと思うと、僕にとってはツレちゃんていうのが、「うたちゃん、好き好きスーッ!」みたいなテンションが、一緒に暮らして9年にもなるのに、全く落ちてないので。

伏見 あれ、ちょっと熱い話ですね。

うたぐわ 聞いといてなにさっ(笑)。

伏見 いやいや、そうくるとは思わなかったから。へえ、そうなんだ。

うたぐわ 「好き、好き」というのは全く落ちてなくて、それは自分にはできないことだから、それに関してはツレちゃんを尊敬するという感じなんですね。

伏見 聞いていいのかどうかわからないんだけど、その「好き好き」っていうテンションというのは、性的なテンションということなんですか?

うたぐわ スキンシップは大好きだけれど、性的なテンションではない。

伏見 でも恋愛的なものなの?

うたぐわ 恋愛的なものなのか、親子的なものなのか、その2つにどういう差があるのかちょっとわからないんですけど、まあでも、とにかく僕がいたら、僕に触っていたいとか、離れているのがイヤでくっついていたいとか、自分が声を出したら返事をして欲しい〜! みたいな、そういうテンション。

伏見 漫画の通りだよね(笑)。

うたぐわ そうです(笑)。だからあれはホントに実話なんですって。僕は僕で放っておいて欲しいと思うタイプでもなくて、常に愛情があるということを確認していたいタイプ。そうでないと他に愛情があるほうに気持ちが移っていっちゃうと思うんですね。それで、一番強い愛情はここにあるんだということをいつも明確にしてくれるのが彼。

伏見 いつもマーキングをするということ?

うたぐわ そうそう。おしっこシャーみたいな(笑)。なのでやってこれてるんじゃないかなと思ってるんです。

伏見 さっきの話だと、うたぐわさんはかなり恋愛体質なわけじゃないですか。恋愛的な高揚を求めちゃう欲望は40代になって枯れてきて、他の新鮮な恋に目が移ることはないということなんですか。

うたぐわ いや、でも恋愛って事故みたいなもので、本人が避けてても衝突して、っていうことだってあるかもしれないですけど、今のところはその問題はないです。というか、僕自身がそんなに求めてもいないので。でもね、去年というか、僕がダイエットに成功して、自分の嫌いな太ってる自分じゃなくなったときに、結構僕の性的な価値を確認したいっていうような欲望が広がり始めた。そのときは、ほら、猿のメスって発情期におケツが真っ赤っかになるじゃないですか。あんなおケツになってたと思うんですよね。「私はOK!」みたいな(笑)。でも、おかげさまでそのときには誰も引っかかってこなかったので、無傷で終わりました。

伏見 漫画でトンちゃんが、自分はデブなのがイヤだけれど、おなかを目指してくる子が来るというエピソードがあったけど、あれは自分ネタ?

うたぐわ でもこれはネタバラししてもいいのかな。幻滅させてしまったら申し訳ないのですが、トンちゃんとペロちゃんというのは、モデルはちゃんといるんです。知ってる人しかわからないけど(笑)。なんだけど、その中身は何かというと、トンちゃんは太ってるときの僕をある程度担当していて、ペロちゃんは若いときの僕とか、僕の性的な部分だったりとかを担当してくれる役割のキャラとして登場してきていて、それぞれ性体験があるから、トンちゃん、ペロちゃんで「セックス・アンド・ザ・シティ」をやってもらいたいと思っている。で、ゲイシーン的なことも、彼らの口から言ってもらえるし、要はブログをはじめた時期にある程度の期間は毎日更新するということを心に誓ったので、彼らが登場しなかったら、ネタが尽きちゃうというのもあったし。しかもツレちゃんと僕ばっかりじゃ、飽きさせちゃうというのもあるし。

伏見 やっぱりプロフェッショナルに描いてますね。

 

● ツレちゃんがファーストプライオリティ

うたぐわ 最近ちょっとヤバいなと思ってるのは、ツレちゃんと僕との話ばっかり書いてると、ツレちゃんの本当にコアなところまでを書かないと、ネタが続かなくなっちゃうので、ツレちゃんのイヤな部分もどうしても書いちゃうんです。そうすると、だんだん初期の頃よりもツレちゃんの味方が減ってきてるような感じがしてきてて、「うたさんばっかり大変ねー」っていうメールが増えてきちゃったりして(笑)。このへんのバランスをどう取っていこうみたいな、毎日更新であるがゆえの難しさがあって。
 話はそれちゃいましたが、トンちゃんは太ってるときの僕の気持ちを表してくれているけれど、トンちゃんはトンちゃんで僕よりはもっとのん気なキャラクターなので、僕の要素がありながらもトンちゃんはトンちゃんという形で、あそこに載っけています。

伏見 夫婦の関係を書くというのは、すごく大変なことだと思うんですよ。僕は最初の本で、出会ってまだ3年目くらいの彼との対談も入れてたり、ネタ的にカップルのエッセイを書いたりしたんだけれど、それ以後って二人の関係性自体にはそれほど触れていない。関係性というのを表現してパブリッシュする難しさというのがあって、言えることはほんの少ししかないのに、言えないことはもう山のようにある。うたぐわさんなんかはそのへんはどうなんですか。リアルタイムなツレちゃんとの関係性の中で描いていて、それも日々、毎日更新しているわけでしょ。

うたぐわ うちはね、かなり描いてますね。ただそこに本と違ってコメント付けてくる人がいて、そこも微妙さを醸し出しますよね。だから、「ツレちゃんのそういうところ、ホントに私嫌い」って書いてくる人もいるし、「見ててイライラします」とかコメントしてくる人もいるし、「うたぐわさんのほうも配慮が足りないんじゃないですか」と非難されたりもするし。

伏見 そういうのをコメントする人ってどういう気持ちで書くんだろう。人んちのことなのに(笑)。

うたぐわ もっと全然軽い気持ちで書いてるんだと思いますけどね。

伏見 「渡鬼」の赤木春恵が町を歩いてると、「ピン子のことをいじめないでください」と視聴者に言われるってテレビで語ってましたけど、それに近いところがあるのかな。

うたぐわ 多分そうだと思う。軽い気持ちで書いてはいるんだろうけど、読んでる当事者は、本当のことを書いてるから、グッときたりもしますよね。そこで、ツレちゃんがすごいなあと思うのは、彼には彼のシンプルさがあって、「そんなのはいいのにゃー!」の一言で終わっちゃうんですよ(笑)。

伏見 「にゃー」がつくんですね(笑)。

うたぐわ そう(笑)。で、「ホントに勘弁して。書かないで」っていう感じには全然ならなくて、「もっと書くのにゃ!」みたいな感じになるから、それに支えられてる感じがする。だからやっぱりこの漫画は、彼が相手じゃなかったら、続けてはこれなかったし、描けなかったと思う。他の人じゃダメだったんですね。

伏見 なんか、すごいいい関係性ですね。感激しちゃった。

うたぐわ これが逆で、もしも僕が描かれてるんだとしたら、「ちょっといい加減にしてくんない?」ってなるんだけど、ツレちゃんの場合は違うんですよ。で、「休み明け一発目はどの話を書くのにゃ?」とか言うから、「キミツくんとか書こうかな」って言ったら、「キミツなんかいい、ツレちゃん書け!」って(笑)。

伏見 キミツさんて、この前、このエフメゾに連れてきた人?

うたぐわ そうそう。

伏見 あの人ってそんなに悪魔? 感じのいい方だったけど。

うたぐわ いや、漫画では彼のいいところは一切書描いてない(笑)。彼の悪いところだけを描いてるから。ただし、描いてあることは一切ウソではありません。いい部分は書いてないってだけ(笑)。その結果、コメントを見てても、「あまりの性格の悪さに、気持ちがスッキリする」って書いてあったりして、へんに優しい面も書いちゃうと普通の人になっちゃうから、あの人には、あのままでいてもらいます。

伏見 キミツさんがいらっしゃったときに、どんなことを言ってくれるのかなと思って期待してたんだけど、きわめて常識的な方だったから。

うたぐわ えー、でもね、会社の人を彼のお店に連れてって食事したとき、僕と会社の人が食事してる間近までツカツカ歩いてきて、いきなりビンタを張られたことがあるんですよ。「どうしたの?」って言ったら、「いや、なんかかわいくて」とか言われて(笑)。なんかね、愛情の示し方が間違ってるんです。

伏見 ツレちゃんとの関係というのは、やっぱり結婚したいっていうくらいだから、解消するなんていうことは絶対考えられないということですか。

うたぐわ 絶対考えられないというか、今のところファースト・プライオリティは2人で一緒にやっていくということが、僕が生きてる上で、一番優先順位が高い事柄なので、例えば仕事を続けていたら2人で一緒に暮らせなくなるんだったら、仕事は変える。病気で一緒に暮らせなくなっちゃったら、病気を治す。とりあえずプライオリティ的にはファースト・プライオリティに設定しているので。

 

● セクシュアリティとパートナーシップ

伏見 ツレちゃんは「うたちゃん好き好きテンション」が落ちないとさっき言ってたけれど、うたちゃんも好き好きだけど、あの人も好きということはないんですか。

うたぐわ ああ、ないみたいなんだけど……ないと思ってたんだけど…………(笑)。なんかね、彼の仕事がすごいキツくなっちゃったときがあって、そこにちょっと佐藤浩市に似てる先輩から、「おまえ、こんなに毎日残業してないで、ちょっと飲みにいこうぜ」って誘われて、「でもこれ今やっちゃわないと」って言ったら、「なんで? こうしてこうしたらもう終わるじゃん。な?」って返されて、ドキッとしたらしいんですよ。そのときは一緒に飲みにいったらしいんですけど、その人がたびたび飲みに誘ってくれるようになり、ランチも誘ってくるようになり、仕事で忙しくて行けなくなっちゃうと、「なんで来ないんだよ。待ってたんだぞ!」みたいなメールをよこすようになって、ツレちゃんの気持ちがちょっと揺らいだのかもしれなくて。

伏見 その人はゲイなんですか?

うたぐわ ノンケ。なんだけど、ノンケでもそういうことあるんですよ。だから100%ノンケっていうのもそんなにいなくて。別にエッチする・しないじゃなくて、どうしてもこいつと飲みたいとか遊びたいとか。で、その人が配置替えで、そのオフィスからいなくなっちゃうときに、ツレちゃんにその経過を説明されて、「送別会でプレゼントをあげたいんだけど、何を買ったらいい?」って。「なんでそんなことを僕に聞いてるんだよ!」みたいな(笑)。それで4時間くらい、東急ハンズを歩かされて選ばされた。でも、基本的には揺らいでないみたいですよ。

伏見 そのときは嫉妬心はすごいわけですか。

うたぐわ 嫉妬はそんなにしないんだけど、なんでプレゼントを選ばせるわけ? みたいな。しかもそのときは僕もお母さんのような気持ちになっちゃってるので、「その人、ふだんはどんなネクタイしてるの?」とか聞いて、「えー、どんなネクタイしてるかわかんない」とか言うから、「じゃあ、背広とかはどんな色を着てるの?」「わっかんない」「全然絞れないじゃない!」みたいな(笑)。「なんにもわかんないんだったら、無難なハンカチや靴下にしときな!」って言ったら、「えー、ハンカチとか靴下とかじゃヤだ」「じゃあ何にしたらいいのよ!」みたいな、そんなオカンと娘の会話になってました(笑)。

伏見 ごはんはいつもうたぐわさんが作っているんですよね。人をケアすることが、自分の人生を支えるというか、豊かにするという感覚なんですか。

うたぐわ うーーーーん……難しいんですけど、やっぱり、うん、そうだと思う。人のことをかわいがったり、慈しんだりしているときの自分が好きだから。純粋にその人のためかというと、よくわからないんですけど。そうしていることで僕はわりと生き甲斐みたいなものを感じてるかも。自分で言うのもなんだけど、構いたいみたいなのとかって、僕の中から過剰に出てきちゃうんですよ。例えばここのカウンターで、1人で誰ともしゃべれない人がいると構いたくなってきて、「ね? どうなの?」とか振ってみたり。そういうのを吸い取ってくれる人とくれない人がいるわけじゃないですか。「僕はそういうふうに構われると居心地が悪いのでやめてください」とか「あんまり甲斐甲斐しくされると居心地が悪いんでやめてください」みたいな人もいるけど。僕もやりすぎちゃいけないなというのはあるんですけど、僕の中からはそれが過剰に出てくるので、吸い取ってくれる人というのもある意味必要なんだと思うんですよ。

伏見 ねーねー、でもそれってさ、性とは関係ないっちゃないじゃないですか。だけど最初に同棲した女性とは結婚にはそうならず、お話だけを伺っていると、そんなに性が重要でもなさそうなツレちゃんとの関係の中では、そういうのがより生かされてる。

うたぐわ タイミングだと思いますけどね。だって彼女との関係が終わっただいぶあとに、僕はゲイだということを、激しく自分を責めるということをまずやめて、じゃあゲイとしてどうやったら幸せになれるだろう、ということを探し始めたし、それと同時に、自分のことを受け入れたら周りのゲイのことも受け入れられるようになった、そういうのがまずあって、それで例の激しい大失恋事件とかもありーので、そのあとで結構ツレちゃんとは知り合ってるわけで、やっぱり20歳くらいのときと、ツレちゃんと知り合ったのは33歳か34歳のときで、やっぱり年齢的にちょっと違いますからね。

伏見 じゃあ今だったら、例えば女性で「うたちゃん、好き好き!」っていう人が現れたとしたら、ケアしたいとか、そういう関係になれる? やっぱり出だしは少なくとも性が必要なの? そこがよくわからないんだけど。

うたぐわ 性行為ということで性だと定義するのであれば、必ずしも必要じゃない。ただ、かわいいと思う気持ちだったり、ハグしたいという気持ちだったり、そういうところまでを性と定義づけるとしたら、やっぱり性は必要で。

伏見 そうなると男になるわけですか。

うたぐわ そうですね。

伏見 ボソボソの女じゃなくて(笑)。

うたぐわ 女の子とは友達として助け合えるところは助け合うし、女の子だからわかってくれることっていうのもやっぱりある。だから女の子だからわかってくれるというところ、まあ全員が全員、そうだとは思えませんけど、女の子とゲイという立場だからわかってもらえることもあるので、向こうにとってもそれはあるだろうし、そういうことで協力しあって生きていきたいと思うし。

伏見 いや、僕もずっと自分で疑問でね、なんで男なんだろうって。だって誰とでもセックスはそうそう長くは続かないわけで、だったら女でも同じじゃないかと。どうせなくなっちゃうものなら、女性がパートナーになってもいいじゃないかと。実際中村うさぎさんのところみたいに、男女でっていうところもあるから、それもないことはないんだろうけれども。

うたぐわ でもね、3年くらい前、初めて浜口京子を見たとき、結婚できるんじゃないかなって思った(笑)。だって男前じゃないですか。結婚できるかもと思ったら、どんどん女らしくなってっちゃったから、ああ、女らしくなっちゃた……と。

 

● 変われることを伝えたい

伏見 最後の質問なんですけど、ゲイである自分がすごくイヤだった時期が長くて、だんだん肯定していったうたぐわさんですけど、それこそ「オールアバウト〜」をやったり、パレードとかレインボー祭りのスタッフをやったりとか、いわゆるアクティビズム系のことにかかわって、今はそれはちょっと足抜けしちゃったのかもしれないけど、うたぐわさんはゲイということになぜこだわっているんだと思いますか。こだわっているというのは違うのかもしれないけど。

うたぐわ やっぱり20代いっぱいはルサンチマンがすごくつのってたんだと思うんですよ。自分がゲイであることにすごく恨みがあって、20代でつのっていたのが、今度は30代に入ったら伏見さんの本とかに出会ったり、タックさんとかと知り合って、グルッと転換してきたというのが、自分の中であまりにも鮮やかな経験だったと思うんですね。それとまたノンケの人たちが、「うたちゃんはゲイでも、うたちゃんはうたちゃんじゃない。僕はうたちゃんが大好きだよ」といったケアをしてくれたし、僕がゲイであるということは、男の欠陥品なんだと思っていたときに、やっぱりノンケの男の子のほうが、「欠陥のねぇ男なんかいねぇよ」とか言われて。だから「欠陥があることも含めて男として完璧だから、うたちゃんも男として完璧なの!」ということで、そういった言葉を常に自分に投げてきてくれたりもあって、自分のとらえ方というのがグルッと転換したというのがすごく鮮やかだったと思うんです。

伏見 ふむふむ。

うたぐわ そうしたら自分はこういうふうに変われたんだよということは、まだ変われてない人たちに伝えたかったというのもあって、まず「オールアバウト」は、いろんな経緯があったけど引き受けて、そこから付随してパレードの実行委員をやりましょうという話だったり、とりあえずそれに向けて全力投球をしたかったというのはあります。だからやっぱり自分の中から過剰なものが出てきて、それをバーッと発散せずにはいられなかったんだと思うんですよね。
で、ゲイシーン的にも今はこういう時代になってきて、ノンケのほうからもゲイを見る目がこういうふうになってきた中で、じゃあ今度、どんなものを自分が、冒頭で言ったようなことを試してみるには、どんな打ち出し方があるんだろうと考えたときに、今のブログの形で出してみるということを、とりあえず今回は試みたということだと思うんです。

伏見 漫画の中の登場人物はゲイ以外もいますよね。ゲイコミュニティというフィクションは、これからも必要だと思いますか。

うたぐわ コミュニティはフィクションなのかしら、というのが僕はよくわからないんですけど、とりあえずコミュニティというのは、どんな単位からコミュニティなのかと思えば、例えば僕とゲイの友達が何人かいる、これをコミュニティと呼ぶのであれば、コミュニティは絶対に必要だと思います。要は会社の飲み会だったり、ノンケとの飲み会のあとに、たまらなく二丁目に行きたくなるのは、やっぱりゲイコミュニティが必要だからだと思うんですよね。やっぱりノンケとの飲み会のあとに、何か吐き出していない何かがあるという気持ちになるじゃないですか。そうしたら絶対に二丁目には行きたい。だからノンケ飲みのあとに二丁目に必ず来ちゃう人って、結構いると思うんですね。そういう意味で、ノンケの中では吐き出しきれていない何かを、二丁目では吐き出せるので、やっぱり二丁目がなくなるなんていうのは、考えられないし考えたくもない。二丁目ってこのままの形で必ずしも残るとは思わないけど、吐き出したいものを吸い取ってくれるところは、僕にとっては絶対必要なんです。

伏見 そういう場として水曜日のエフメゾもありたいと思います(笑)。宣伝になりますが、ここにいらっしゃる方も、このインタビューを読んでいただいた方もぜひ遊びに来てくださいね! じゃあ、最後にうたぐわさんに拍手を!

うたぐわ どうも長い時間ありがとうございました。