2009-07-07

いただいたご本『被爆のマリア』

hibaku.jpg伏見は共同だったか時事だったかで単行本版の書評を書いたのだが、それが著者の目にとまったらしく、文庫版の解説を書かせてもらうことになった。よい機会だったので田口ランディ氏の他の作品も読み返してみたら、どれも彼女しかアクセスできないような異界を抱えていて、その異空間にからだごと呑み込まれそうになった。恐ろしい魔力を持った作品を指先から滴らせる人だと思った。

そういう物語の評を書くことくらいやっかいなことはない。こちらの言葉が届かない感じが拭えないからだ。こんな小説に接するときほど評論の言葉の限界を痛感するときはない。そんなわけで四苦八苦してどうにか入稿した解説なのだけれど、最初に新聞に寄稿したものよりは手応えを感じる内容になったと思っている。田口氏の作品の箸休めとして読んでいただければ幸いだ。

● 田口ランディ『被爆のマリア』(文春文庫)533円+税