2005-11-30
いただいたご本『ヨーロッパ物語紀行』
松本侑子さんの勤勉な仕事ぶりを見ていると、いつも頭が下がる。とにかく熱心だし、探究心が旺盛。そしてフットワーが軽い。『赤毛のアン』の詳細な翻訳に見られるように、その仕事は単なる作家の枠を超えて、研究者の域にまで達している。日本の大学は、どうでもいい作家を教授に迎えていないで、彼女を招聘すべきである。それだけ価値のある文学研究を積んできた人だ。
彼女の今回の本は、ヨーロッパの名作小説の地を探訪する文学紀行だ。『ロミオとジュリエット』『フランダースの犬』『カルメン』『エーミールと探偵たち』……などの舞台となった街を訪ね、作品の背景をつまびらかにする。それは文学論としても勉強になるし、作家論として興味深い。というか、伏見のような無知には、(なさけなくも)読んでいない名作のあらすじを簡単に知ることができるだけでも、ありがたい一冊だ(教養、うんちく本としても使える!)。
ところで、伏見の、松本さんの文章の楽しみ方はふつうではないかもしれない。一般には、彼女は優等生とか、才女とか、その美貌ゆえにお嬢な作家とイメージされているように見える。読者はそのちょっとハイソな世界を楽しんでいる印象だ。が、伏見は、そういう「女」に化けている松本さんの自意識のほうに官能するのだ。清楚な女性だと思ってよく見たらナチュラル女装だった!みたいな感じ。この本も、ヨーロッパに外出女装して、女流作家コスプレしてみた私……的な彼女のナルシシズムに超アガる。そこにこそ、松本侑子という作家の毒と倒錯した感性が潜んでいる。
●松本侑子著『ヨーロッパ物語紀行』(幻冬舎)1500円+税