2008-11-07
斎藤美奈子『モダンガール論』
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● 斎藤美奈子『モダンガール論 (文春文庫)』
★★★★★ 倫理主義的なフェミニズムとは一線を画す
フェミニズムが心をそそらないのはなぜか。これだけたくさんの関連書が書店に出回り、学会の論客がメディアで舌鋒鋭く女性差別の解消を訴えても、どうも、人口の半分を占める女性たちの大きな支持を得ているようには見えない。フェミニストという党派の立場からすると、「男社会の価値観の中で育てられた女性たちは、自分たちが不利益を被っている事実をなかなか受け入れられない」ということになるのだろう。しかし、ウーマンリブが沸き上がった1970年代初期ならともかく、現在も一般大衆の女性たちが、社会の女性差別の網の目に気がついてないと考えるのは、あまりにもナイーブだ。
とすると、フェミニズムという思想がいまひとつ支持を得られていない原因は、そこで生産される言説群自体に問題があると考えるのが道理だろう。それを確信させてくれる本がやっと現われた。気鋭の文芸評論家・斎藤美奈子による『モダンガール論』。本書は、その文体の軽妙さにかかわらず、日本の女性たちの近代史を書き換えようという壮大な目論みによって綴られた一冊である。
そして、そこでキーワードになるのが「欲望史観」という考え方。これまでの女性の歴史を紡ぐ切り口は「進歩」や「抑圧」であり、いかに女性たちの状況が遅れたものであったかを、現在の理念から断罪するものであった。しかし斎藤は、過去という条件から生まれいずる「今」という時代の波頭で、どんなときも、女性たちは自らの「欲望」に突き動かされてきた、という視点から歴史を再構成しようとする。「差別」「権力」「抑圧」といった言葉しかなかったフェミニズムの言語空間に、「欲望」という新しい軸を導入したのだ。
「…リッチな暮らしがしたい、きれいなお洋服が着たいから…人生の成功者と呼ばれたいまで、人々の欲望が渦巻くところに歴史はできる…女の子の出世願望だってすごかったんだから」
「欲望史観」は、過去の女性たちを一方的な被害者とするこれまでの歴史観では掬えなかった、彼女たちの「生」の息吹を甦らせることとなった。それは結果として、第二次世界大戦に女性たちが積極的に参加していったという負の歴史さえも暴くことにもなったが、そうした女性を聖域化しない態度こそ、女性を語る言葉にリアリティを与えた。欲望存在としての女性の可能性を示して見せたという意味で、斎藤はフェミニズムと現実との間を再び接続することに成功したと言える。
少女漫画評論で活躍する藤本由香里も、フェミニズムを足場にしながらも、女たちの欲望にとことん伴走する姿勢を保っている。最新作『少女まんが魂―現在を映す少女まんが完全ガイド&インタビュー集』では、エッセイやインタビューを通して、時代時代に少女漫画に映し出された女性たちの重層的な欲望を、鮮やかに浮き上がらせている。
「そう、いいの! だって、王子さまになったからって、もうお姫さまになれないわけじゃないんだから。と、でもいいたいかのように、この作品(『少女革命ウテナ』)の魅力は、全篇とにかく華麗、むせかえるような陶酔と官能—これに尽きる」
*初出/現代性教育研究月報(2001.6)