2007-10-13
QJr 座談「良いハッテン 悪いハッテン」後編
某ゴーゴー
ボーイの
ごう慢
伏見 トムさんはハッテン場でのコミュニケーション、作法はどういうふうに学んでいったの?
トム それは試行錯誤ですよね。初期の頃は恥ずかしいこともいろいろしでかしました。ヤリ部屋系のハッテン場に初めて行ったときなんかは、当時では新しいタイプのきれいなヤリ部屋で、そのせいか人がたくさん入っていたんです。個室も全て満室で、いま思えば中で駆け引きがなされていたんですけど、そんなことなどつゆ知らず、とりあえず中に人が入っているのか確認してから個室に入らなきゃって思って、全ての個室のドアをノックしてまわったんですよ。それがマナーだと思って(笑)。
伏見 嫌がらせだよね、それ(爆笑)。
トム 普通はそれがマナーだけどハッテン場ではかえって迷惑になることもある、その場の空気が、初めてなもんだから読めなかったんですね。たくさんの客が壁一面にズラーっと並んで見ているのに片っ端からノックしてまわっちゃって、あとから考えたら恥ずかしー!
ゆうじ ある程度は即物的というか、チンコとチンコの、というところはあるんだけど、それでもやってるのは人間なので、最低限の気遣いやマナーは持っておいたほうがいい。相手が嫌がることはしないとか。たとえ言葉がなくても、相手が嫌がっていると感じたら引いてあげる、というコミュニケーションは必要。その辺はちゃんとレスポンスをしていかないと。
トム そうだよね。ハッテン場とはいえ人と人とのコミュニケーションの場。むしろ暗闇の中だからこそ、その人の素の姿が出てきてコミュニケーションの仕方がむき出しになる。ある意味それは怖いですよ。断り方ひとつで、その人の株もその場の雰囲気も変わる。断るときに、会釈するとかごめんなさいの一言があればすぐにすむことなのに、意思表示もせずに無言でジトーッと逃げて行ったり、汚いものに触られたみたいにそっけなく手を振り払ったり、こっちがその人にアプローチしようと思っていないのに自意識過剰ぎみに露骨に嫌な顔をしたり……殺伐としたオーラをまとって、ハッテン場だからマナーなんてどうでもいいっていう偏狭な態度の人もいます。そんな「物腰ブサ」は、いくら見た目がよくても勃ったチンコがいっきに萎える。せっかく性に大らかな遊び場なんだから、もっとお互いに気持ちよくハッテンしようっていう大人の気遣いぐらいはあっていいと思いますね。そういう気遣いのある人はセクシーに見えるし。
ゆうじ つねにマグロの人、いますよね。キレイでモテるんだろうな、っていう人が、全く動かずに、オラしゃぶれ、みたいのとか。そんなのいくらキレイでも駄目、許せない。
トム 以前、ハッテン場にあるゴーゴーボーイがいたんです。で、こっちにアイコンタクトしてくるから手を出してみたらオッケーで、一緒に個室に入ったんですよ。そしたらまったくのマグロ。というか全然相手がノリ気な感じがしない。始めてみたら相性が合わないってことはよくあることだから、「気が乗らないんだったらやめよっか?」っていったら、「そんなことない」っていうもんだから、そのまま続けたんですね。でも相変わらず向こうがノッてこない。再度確認したら、「友達と来てるから何時ごろ帰るかちょっときいてくる」っていうんですよ。これは体のいい断り方だなと思って、「やめるんだったらここでやめていいんだよ」っていったら、「そういうわけじゃない」という。「じゃあ俺はここで待ってていいんだね?」っていったら、「うん」。で、ひとり個室で待っていたんですけど、10分経っても20分経っても戻ってこない。「ああ、してやられた」と思って個室の外に出たら、彼が喫煙コーナーのソファーに座ってプカプカ優雅にタバコを吸ってるんですよ。ぼくは思わず説教してしまいました。「子供じゃないんだから、意思表示くらいちゃんとしな」って。「ゴーゴーボーイだかなんだか知らないけど」って捨てゼリフを吐いてやろうかと思いましたが、それは何とか呑み込みました(笑)。でも、もう一人、別のゴーゴーボーイとやったことがあって、その彼は本当にノリがよくてエロくって、こんなキレイなイケメンくんがこんなことまでしてくれるのぉ〜!みたいなこともありました。
ゆうじ 人それぞれということだよね。
トム そうだね。でも、イケメン意識が強いハッテン場は、なんか気取ってしまって殺伐とした空気になりがちかもしれない。そうなると、いくらイケメンが多くいてもエロくなくなってくるんだよね。やっぱりエロにはホスピタビリティがないと。ぼくの個人的な印象では、エロに正直で遊び慣れているノリのいい人ほど、マナーも心得ていて、セーファーセックスも心がけているような印象があります。中途半端にキレイぶっている人ほど、「ん?」って思うことが多いような……。
伏見 太郎さんは容姿にコンプレックスがあるみたいですけど(笑)、ハッテン場では自分をどうアピールするの?
太郎 いや、アピールも何も、暗がりから出られない感じです(笑)。
伏見 さっきのゴーゴーボーイの話じゃないけど、ハッテン場でこれは許せないというのは他にありますか。
太郎 許せないというほどのことでもないんですが、前にあるサウナに行ったことがあって、そこはロッカーのキーを右腕につけるか左腕につけるかで、タチかウケかをアピールするというシステムになっていたんです。で、30過ぎたらタチをしなくちゃいけないんじゃないか、という義務感みたいなものがあって(笑)、タチ側の腕にキーをつけ、寝ていたんですが、手を出してきた人が二人くらい連続で、こちらがタチだとわかるや否や、何もしなくなっちゃったんです。さっき言ったように、ぼくの場合、相手への好意があれば、一方的な奉仕であっても興奮できるんですが、知らない人相手に黙々と身体を触ったりしていても、何だかむなしくて、何となくさよならしてしまいました。
ゆうじ そう、ウケの人はマグロであっていいというのには反対(笑)。マグロは絶対駄目です。
太郎 ぼくの場合、すごくセックスに不慣れなので、ここで何をすべきかとか考えるとぎこちなくなって、かえって行動が制限されてしまうんだけど、それは許される?(笑)
ゆうじ それはもちろん。やる気があれば。もどかしくても不器用でも気持が見えれば。
トム そうそう。逆にいじらしくて、かえってエロさが増す!
伏見 でもノリもいろいろあるでしょう。ハッテン場特有のノリ。
ゆうじ オラオラ系のノリですかね。さっきの輪になってする明るいハッテン場では、積極的に声を出すこと、という指令が書いてあるんですよ。「オーすげー、たまんねー、チンポすげー」とか(笑)。ずっと何かいいながらやっている人もいる。
ヘルペスと
コンジローム
になった
ことが…
伏見 さまざまな人が集まってくるハッテン場でセーファーセックスはどうなっているんでしょう。
トム ぼくは基本的にしごきあいや亀頭責めが好きで、たまにケツを掘るくらいなんですけど、掘るときは必ずゴムを着けるし、相手も概ねそれが当然って雰囲気ですね。傍から見ていても、周りが生掘りをやっているイメージはそれほどないです。ただ生フェラはよく見かけます。それに、暗いミックスルームで乱交状態のときは、生掘りしている人もいるかもしれませんね。
ゆうじ 昔は暗いヤリ部屋をメインによく行っていて、自分はタチでアナルセックス好きなので、ぶっちゃけゴムなしでやることも多かったんです。みんなそうだったというか、当たり前みたいな雰囲気だったんですよ。7、8年前くらいですか。それでクラミジアをやって、最終的にはB型肝炎で入院したんですね。Aだと口から簡単に入っちゃうからAだと思っていたらBで、これはHIVと同じような経路でかかるので、いくらタチでもナマでやってるとこうなるんだ、と実感して、もうやめよう、と。真っ暗でナマをやっているところは行かなくなって、ゴムも使うようになりましたね。やっとか、って感じなんですけど。
伏見 その頃って、もうエイズのこととかわかっているような時期でしょう。
ゆうじ そうなんです。わかっていても、自暴自棄になっていた時期があった。よくないとわかっていても、たまに相手がナマじゃないと嫌だみたいな人がいると、こっちも目の前のイケてる人を逃がしたくないから、とか。種付けファンタジーの人とはハッテン場以外でもゴムなしでしたね。その肝炎での入院の後、一回だけまた同じハッテン場に行ったことがあるんですけど、もう怖くてできなかった。それで暗くてナマでやるようなところにはまったく触手が動かなくなった。明るいところはそもそもケツを掘ることもないんですけど、明るいおかげでみんなの前でナマをやる人もそんなにいない。
伏見 場のコンセプトがそんな感じなの?
トム 最近、そういうコンセプトを明確に打ち出す店も出てきましたよね。明るくて清潔な店づくりを売りにして、「ちゃんと見えるところでゴムをつけてセックスしよう」って呼びかけて。そういうお店はやはり安心感があります。あと、そういうコンセプトを明確に掲げていなくても、ネットの情報なんかで、だいたいあそこはこんな感じって出回っていますからね。そういえば、ぼくもさっきゆうじさんがいっていた暗いヤリ部屋に行ったことがあったんです。めずらしく無性にケツを掘りたくなって、だけど時間がなくて、そこだったらすぐにやれるかもと思って。で、暗くてどんな人がいるのかよくわからないし、そのときは人も閑散としていて、イケてるウケくんをやっとの思いで見つけて個室に入ってゴムをつけてやろうとしたら、「ゴム着けんの? 痛いから嫌だ」みたいなことをいわれてドン引きで。ぼくの場合、そういうことをいわれると、その人に抱いたエロファンタジーもいっきにしぼんでしまうんですね。アソコもすっかり萎えちゃって、珍しくやらずに帰りました。
伏見 いま、ハッテン場でのセーファーセックスの基準というか方針はあるんですか。
ゆうじ アナルセックスのときはコンドームを使う。でもフェラチオのときは使わない。それが口の中で発射されて飲んだとかでなければ、HIVに関してはほとんど感染する確率が低いと思っているんですよね。
伏見 最近、射精のないフェラチオで感染した例というのも取りざたされているようですが。他の感染症についてはどうなんだろう。
ゆうじ 可能性はあるだろうなと思うけれど、割り切っている。治療すれば治るだろう、みたいな。
伏見 ゆうじさん、クラミジア以外はどうだったの?
ゆうじ ヘルペスとコンジロームになったことがあります。クラミジアはなったら症状がすぐ出て、チンコから膿が出てきておしっこする時に痛かったりするので、わかりやすい。
伏見 太郎さんは、性病にかかったことは?
太郎 唯一経験したのが毛ジラミ未遂です。数年前、京都に行った時、ちょうど紅葉のシーズンでホテルが取れなかったんですよ。それで、バーのマスターに教えてもらったハッテン場に泊まったんですが、誰とも何もせず、ただ寝ていただけなのに、毛布か何かにいた毛ジラミをもらってしまったみたいなんです。で、そのまま東京に帰ってきたら、当時付き合っていた人がウチに泊まりにきたんですが、その日から突然連絡が取れなくなってしまって。後でわかったんですが、どうも毛ジラミが、ぼくには卵を産まずに、その人にそのまま移動していたようなんです(笑)。これはとんだ災難だったと思いました。
トム ぼくはハッテン場に行く前は、免疫力を高めるサプリメントを飲み、イソジン、殺菌成分の入った薬用のど飴、コンドーム、ローションを入れた「ハッテンセット」を持参して防備をするんですね。ぼくはケツにこだわっていないのでそれほど危険なプレーにはなりにくいのですが、たまにケツを掘りたくなったときは必ずゴムを使います。で、基本的にフェラはしない。相手がフェラ好きの人で、じっくりフェラしなきゃなんないときはゴムを着けてフェラをやる。射精なしの生フェラをさわりだけするようなこともたまにありましたけど、そのときもフェラした口の中にたまった唾液をその場でティッシュに吐き出すようにしてました。で、相手にもティッシュを渡してそうさせて。あとは、終わったら必ず持参したイソジンでうがいをする。セーファーセックスへの意識が高い店にはイソジンを備え付けてあることが多くて、それが一番いいんですけどね。あとは、冬場にはココアを飲みます。ココアの成分って、インフルエンザのウィルスを殺しちゃうらしいですよ。ハッテンでスッキリした後は、自動販売機でココアを買って飲みながら帰る!
伏見 それだけ完全防備でやってきて、いままでの病歴は?
トム 毛ジラミとA型肝炎をやりました。肝炎のときは入院もしましたね。
伏見 それだけ防御していても感染するんだ!
トム ただA型肝炎に感染したときは、いまほどの防備はしていなかったかもしれません。でも、持参したイソジンでのうがい等は励行していたと思います。ただ、その当時行っていたヤリ部屋が、トイレ・洗面所とシャワーが分かれていないところだったため、トイレの前にいつも行列ができていて、やった直後にうがいや手洗いできずにプレーを続けてしまいがちだったのがマズかったんじゃないかと思います。たとえば、ぼくとやる前にアナルプレーをしていた人が、アナルに突っ込んだ手で乳首を触られたあとシャワーも浴びずにいて、その人の乳首をぼくが舐めたとしたら、ぼく自身がアナルプレーをしていなくても感染は十分考えられます。やはり、シャワーやトイレ、洗面所などの水回り環境って、セーファーセックスという意味でもとても大事だと思います。
伏見 メンテというか、定期的な検査はどうなんでしょうか?
ゆうじ ぼくは年に一回、名古屋のNLGRというイベントで検査を受けているんです。
トム ぼくは日ごろからかなり防備しているから大丈夫だと思う自分がいるのと同時に、絶対ということはないから感染しているかもしれない、というせめぎあいの中でここ数年は検査に行ってないです。心の準備をしてからでないと、というのもあって。行かなきゃとは思ってるんですけど。
太郎 ぼくは、しばらくセックス自体をしていないので、行く必要がないんですが(笑)。6月に名古屋のイベントに行くので、そこで検査してみようかなと思っています。
伏見 ハッテン場のセックスは衛生面では非常に疑問だよね。
ゆうじ シャワーがないとか、あっても使わないようなヤリ部屋でやる場合には覚悟しますね。このチンポは誰かのケツ掘ったチンポかもしれない、と想像する余地は持っていたほうがいいのかな、って気がします。ただ、いまは暗くてシャワーがないようなところは行かないし、見せ合いしごき合い系のところなので、しゃぶりもあまりないんですよ。
ゴメオを
勝手に
仕込まれ
集団レイプ
伏見 けっきょくどういうハッテン場が理想なのだろうか。
トム 店内の照明は、客の趣味や嗜好の問題もあるし、センズリ系か掘り系かということもあるから、一概に明るいほうがいいとはいえないかもしれない。衛生面でいえば、シャワーがなかったり、シャワーで1回100円とったりするところがいまだにあるのは問題でしょう。ぼくは野外では一度もやったことがないんですが、それはシャワーを浴びることができないしリスキーだからです。それにシャワーがあってもそれを使っていないような雰囲気のところはまず行かないですね。見ていればそのお店がセーファーセックスに関心があるかどうかはすぐわかるんですよね。たとえば洗面所にイソジンが置いてあるとか、コンドームをいつもきちんと備え付けてあるかとか。備え付けのローションにイソジンを少量混ぜてあるヤリ部屋もあるんですよね。セーファーセックスのことを意識しているなとわかるお店は行っても気持ちがいいし、伸び伸びとやれる。あとはちゃんと掃除しているかってところにもその店の姿勢って出ますよね。結構してないところもありますよ。寝ただけで毛ジラミがうつるんじゃないか、みたいなところも……。
ゆうじ あとね、受付で顔が見えないようになっていると……実際はマジックミラーになってるんですが(苦笑)、面が割れていないという匿名性の安心感から、「ちょっと悪いことをしてもいいか」みたいな意識が芽生えることもあると思うんですよ。そういうお店ではマナーを守らなかったり、してはいけないことをしたりする人が確かにいる。じっさい店員さんから話を聞いたことがあるんですが、レイプや暴力事件があったり、行為の最中に勝手にゴムをはずしたりだとか、知らないうちにゴメオをケツに仕込まれて動けなくなった人がいて救急車を呼んだりとか、様々なアクシデントが起こってる。一方で、受付で店員さんとコミュニケーションを取れるようなところはそういうことがまったくないんですよ。顔を見られているから、お客さんにも、ここは公の場所なんだ、という意識が芽生える。
伏見 レイプ事件なんてあるの!?
ゆうじ 年齢や体格の差で無理やり押さえ込まれてやられることがありえるんです。聞いた話だと、体の小さい若い子が、抵抗したけど放してくれなくて、顔射されて精液が目に入ったとか……。さっきのゴメオを勝手に仕込まれた人は集団レイプに近くて、無抵抗でなにもできない状態だったのでどんどん種付けされて、ということだったらしいんですね。助けも呼べず動くこともできなかった、という痛ましい話。だからぼくは、受付で店員さんの顔が見えない店よりも見える店の方が安全かなと思います。
トム あと、店のホームページでBBSがあるところは雰囲気がわかりますよね。たしかに自作自演の書き込みもあるかもしれないけれど、客からの意見の書き込みに対して店がきちんと建設的な回答をしているところは、サービスをよりよくしていこうという店の姿勢があらわれていて好感が持てるし、安心感があります。
伏見 トムさんはハッテン場をよりよくするためにネットで運動をしていると聞いたんですが(笑)。
トム ハッテン場環境向上委員会(笑)。いやいや、運動っていうほど大げさなものでは全然ないです。店のホームページやハッテン場情報を募ったホームページのBBSに、さっき言ったようなセーファーセックスのためのハッテン場環境の改善点を書き込んだり、ハッテンマナーに関する書き込みの内容があまりにもひどかったからコメントを付けたりとか。どこの書き込みだったか、「ハッテンマナーをいうやつは、みんなブスだから相手にするな」で全てを片付けてしまうような書き込みが目立つようになって、「チンコ出してマナーとか何?」みたいな雰囲気になっていたので、これはいかんと思い反論しました(笑)。ぼくはハッテン場で小粋で素敵な殿方たちにたくさん出会ってきたし、そんなに殺伐としないで「お互いに気持ちよくハッテンしようぜ」的なノリの輪を広げようじゃないか!って。まあ、自演書き込みの問題もあるけれど、ホームページで情報交換できるようになったことは、店としても、客としても、何が問題かがわかるので、いいことだと思います。でも、ナマでやりたい人たちが出入りしているような店のBBSを見ると、堂々と「種付けしたい」って書いてあったりして、ちょっと怖いですね。伏見 種付けしたい人たちはいっぱいいるのだろうか。
ゆうじ いっぱいいると思いますよ。エロミクを見ていても、種付け原理主義とか、種付けコミュニティとかに何百人も登録していたりする。種付けしたい・されることのファンタジーがなければ自分の生きている意味がない、みたいな業の深い人だと、気持ちがわかるというかそれは自由だと思うんですけど、深い考えもなしに、なんとなくみんなそうだからで流されているのであれば、ちゃんと考えた方がいいんじゃない? とは思う。
伏見 店のセーファーセックスに対する意識は見ればわかるという話があったけど、ハッテン場ビジネスってみんなが病気になっちゃったら顧客が減っていくわけだからね。そこまで考えてない店も多いのかな。
ゆうじ いま、レインボーリングでハッテン場キャンペーンをやっていて、ポスターやパンフレット
を都内で60軒くらいの店が置いてくれている。それはセーファーのことを考えてますよ、という意思表示なのかな。それとは別に独自にポスターを作って貼ってる店もある。
倒れた人を
みんなで
救助
伏見 どういうふうなハッテン場だったらぼくらにとってプラスになるし、楽しく利用できると思いますか。
ゆうじ やっぱり悪いことや常識はずれなことが出来ないような雰囲気づくりが大事だと思いますね。非人格的というか、ここでは何をやってもいいんだ、とお客さんが思ってしまうような照明やつくりは考えたほうがいい。店側のスタッフの教育も大切。「ゴメ紀」に通路でうずくまって動けなくなっている人がいて、大変だって店員さんを呼んだことがあるんですけど、「あー、ほっといてください」みたいな対応をされてビックリした。店員さんもそういったことが日常的なことになっていたのか、教育されていなかったのかわからないんですけど。
トム ぼくの場合は、以前あるヤリ部屋で、立ち待ちしている人が、薬を使っていたのかバタッて急に倒れた場面に出くわしたことがあったんですよ。そのときはそこにいた客みんながその人を助けようとしていました。しかもちょうど客の中に医師がいて名乗り出てくれて、通報を受けた店員さんといっしょに個室に入って介抱して、倒れた人も無事に復活して個室から出てきました。客のみんなも「よかった、よかった」って雰囲気で。場所が場所だからもっともらしく騒ぐ感じではなかったんですが、みんなそれぞれに心配して、助けようっていう雰囲気があって、とても後味爽やかな素敵な場面でしたよ。
ゆうじ オーストラリアのハッテン場はほんと明るくて、日本のとは全然違う雰囲気なんです。カウンターでドリンクをもらってインターネットや映画を見たりして、普通のレクレーション施設のようでした。その中にミックスルームがあるんだけど、それもけっして暗くない。エイズ禍の時期に一度閉鎖されたみたいで、これはマズイということでハッテン場のオーナーたちが組合をつくって、一定の審査基準を設けて、それにそぐわないところは営業出来ないようにしたらしいです。マル適マークみたいなものが付いていて、明るさやシャワーの清潔度をしっかりチェックしていた。
太郎 大勢としてはそっちへ持っていったほうがいいかもしれないけど、非人格的で暗くないと燃えないという人たちもいるじゃないですか? その人たちはその人たちで、アングラなところで勝手にやってくれ、という感じになるのかな。
ゆうじ だからぼくは棲み分けをすればいいと思っている。暗くて人格がなくなることがそもそもファンタジーなのであれば、そういう人たちが集る場所はあっていい。方針がハッキリと打ち出されていて、他の人が紛れ込んだりしないということがハッキリ出ていればいいと思う。
伏見 「ゴメ紀」以降、ハッテン場でのドラッグ状況はどうなんでしょうね。
ゆうじ いまでもオリジナルのドラッグを売ってるところもあるんですよ。しかも、オリジナルだから得体が知れない……。
トム 経営者は本当にゲイのことを考えているのかな。
ゆうじ あそこは経営者がノンケさんなんですよ。だからあまり考えていないと思う。
トム 昔のようにハッテン場がタブー視されていたときと比べると、ハッテン場でのコミュニケーションも、当たり前のことを当たり前にするというふうになってきているんじゃないかな。
ゆうじ 一度あるところの六尺デイに行った時に携帯をなくしちゃって、あ、携帯がない、っていったら、そのまわりにいた六尺をつけたアニキたちがわらわらと探し始めてくれて、すごく心温まった(笑)。
トム 昔のようにハッテン場がタブー視されていたときと比べると、そこでのコミュニケーションも当たり前のことを当たり前にするというふうになって来ているんじゃないかと思う。
太郎 ところで世代的にいまの若い子ってハッテン場に行ってる?
ゆうじ いまの若い子はハッテン場よりもネットや携帯の出会い系サイトを見て、というのが多いと思う。それは単純にツールが変わったから。雑誌を見ないで携帯だけでゲイの情報を得ている子がすごく増えていると思う。何かの統計によると若い子の感染率が高かったりするから、ハッテン場に行かないからといって安全というわけではない。
太郎 大勢の集まる場に行かなくなると教育が行き届かなくなるってことかな。
ゆうじ そうだと思う。けっきょく彼らはコミュニティ接触以前の状況、ってことだと思うのね。それだといい情報が入ってこない。
伏見 ネットの情報は自分の欲しいものしか取らないからね。雑誌しかないときだったら、とりあえず買うしかないし、買ったら他の記事も目に入るから学びもある。
ゆうじ 携帯の世界だとほとんどそういうセーファーセックスとかいい情報がない。
伏見 そうすると、ハッテン場にポスターが貼ってあるとか、コンドームが置いてあるということは、携帯のみで出会っているよりは情報に接する機会になっている。
太郎 そうやって置いてあれば、着けるもんなんだ、って思うもんね。
ゆうじ そういう意味においては、ハッテン場はエデュケーションというか予防啓発のいいきっかけなんだと思いますね。(了)