2008-10-28

はらたいら『はらたいらのジタバタ男の更年期』


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● はらたいら『はらたいらのジタバタ男の更年期 (小学館文庫)

★★★ すでに故人になってしまったはら氏であるが、この本によって救われた男性は多い。ちなみに伏見も(笑)

本書は、男性にも更年期障害がある、と世に訴えた問題作である。

著者のはらたいら氏は、「クイズダービー」でお茶の間でも有名になった売れっ子漫画家で、三、四十代の頃は、連載に講演にテレビにフル稼働するワークホリックな日々を送っていた。が、そんな氏も、五十を越えた辺りで、仕事に疲れを感じるようになる。講演中に意識が遠のくことを体験し、講演後に救急車で運ばれることにもなった。だんだんと仕事に対する集中力や意欲を失って、落ち込むようになっていく。酒が弱くなり、食物の嗜好も変化する。そしてついに漫画が描けなくなるに至った。

そんな折、女性編集者の「はらさん、更年期障害みたいよね」という言葉に、ハッとする。「その瞬間。僕は、今まで抱えていた心のモヤモヤが、嘘みたいにスッと楽になるのを感じたのである」。それからはら氏は「更年期障害」について調べていくことになる。

そこでわかったことは、閉経のない男性も、女性と同様に中高年になるとホルモンのバランスの乱れが生じるようになること。つまり、比喩ではなく、明らかに「更年期障害」の症状に見舞われるケースがある事実だった。ホルモンの分泌が減ると、身体は必死になってそれを補おうとして、自律神経の乱れが生じる。「結果、いわれのない体調不良、頭痛、肩こり、倦怠感、不眠症などの『不定愁訴』に襲われる」。

更年期の感じ方は個々によってさまざまで、軽い人もいれば、重い人もいる。その差はホルモンの問題ばかりでなく、仕事や家庭環境などの外的な条件によっても変わってくるという。とくに男性の場合、仕事一筋でがんばってきた人、つまり、はら氏のような仕事人間が、エアポケットに落ちたように落ち込んでしまう傾向があるらしい。マックスに自分の限界を生きてきたからこそ、身体機能の低下が劇的に心身にひびくのだろう。

昨今、鬱病の文字を見ない日がないほど鬱が流行っている。精神的なストレスが原因で病に至ったばかりでなく、そもそも身体的な条件と、環境的な要因が重なってそうなったケースも少なくないと推測される。筆者の周囲を見回しても、男性の心の病みは、もはや精神論で励ましているだけではすまされない状態になっている。それは現代社会の問題ばかりでなく、男性の身体の変化に対する意識が低いことにも起因しているだろう。社会が益々ストレスフルになっていくのに対して、男性のからだへの無関心は変わらないままなので、どうしても生身のからだのほうに負荷がかかってしまう。

男性の加齢では、男性器の機能にばかり話しが集中していて、身体としての男性、男性の老いという視点がこれまであまりにもなさすぎた。女性は、よくも悪くも過剰な視線がその身体に向けられてきたが、男性に関しては、本人も含めて運動機能としてしか認識されてこなかったのではないか。

はら氏は、更年期に際して、運動や民間療法などさまざまなことを試みるが、最終的には、自身の変化を受け入れるという地点にたどり着く。そして更年期を、「若い頃のまま走り続けようとする自分に『ちょっと待った!』とブレーキをかける」ものだとし、それがあるおかげで、「人は老いを受け入れる準備に取りかかることができる」と考えるようになった。

本書をはじめとするはら氏の更年期への取り組みは、まさに男性による男性の身体の再発見のはじまりと言えるだろう。

*初出/現代性教育研究月報(2006.4)