2008-02-23
いただいたご本『家事と家族の日常生活』
本書は、社会学者の品田知美氏が博士論文を単行本にまとめたもの。地味なタイトルなので、専門外の人間としては、いただかなければ書店で手に取る機会はなかったと思うが(すみませーん)、これがかなりスリリングな内容の本になっている!
品田氏はこれまでの繰り返し語られてきた「家電製品の登場や市場化の発達により女性たちが暇になり、社会進出を果たすようになった」という物語の真偽に挑戦している。そしてその実態は副題に「主婦はなぜ暇にならなかったのか」とあるように、主婦はちっとも暇にはなっていなかった。彼女の分析によると、「主婦たちは産業化してゆく社会で変わり行く生活を維持する家事を、できる限り技術革新や市場化などによって省力化しようと努力をつづけていた。それでも家事量が減らなかったのは、大多数の日本人が豊かな生活様式の追求をめざした結果、必要となった家事水準が高まったからである」。
さらに、そうした研究の考察から、これまで上野千鶴子氏や落合恵美子氏らによって前提とされてきた日本の「近代家族」自体に、根本的な疑問符が投げかけられていく。実直な分析からラディカルな議論が導かれていて、社会学の業績にはこうした鋭角的なものもあるのか、と恐れ入った。ジェンダーを一つの分析道具にしながらも、ジェンダーのイデオロギー性に呑み込まれない姿勢が、学者としての信頼性を感じさせる良書。
● 品田知美『家事と家族の日常生活―主婦はなぜ暇にならなかったのか』(学文社)2000円+税