2006-05-12

ヴェンダース秘話

ああ、本当に気持ちの良い初夏のベルリン!! 素適なお天気にワクワクして、昨日はバスにも乗らずに補聴器のお店にメンテお願いに行って来ました。さすがに酷使したせいか、調子が悪くなって、デジタルなのでちょっとしたことでも駄目になるので、しっかりとメンテナンスをお願いしたのでした。でも、聴覚検査も軽くしたら、なんと悪くなっているのです・・・が〜ん。今回はストレスはなく、楽しんで過ごしていたものの、やっぱりオーバーワークは否めず、耳を使いすぎていたのですね・・・私の場合は、下がったら上がらないと言われているので、ショックだったのですけれども、徹夜をして荷物詰めして飛行機に乗り込んで、時差で眠れなくてベルリンに到着したので、きっとそのせいで体が弱っているようです。

実際、本日12日の今日、久しぶりにぐっすり眠ったので、その後はとても快調です! 昔の補聴器を出して使っているのですが、それでもまぁまぁ何とか聞こえるようになってきました。良かった!ほっとしています。(でも、気をつけないとですね。)明日は、サイモン・ラトル指揮の、カルミラ・ブラーナのゲネプロがあって、ペトラやバルバラと行くので、とっても楽しみにしています! ラトルのゲネプロは2度目ですが、赤ちゃんを連れてきたりしてとってもアットホームで素適だし、何より音楽が素晴らしいのですごく楽しみなのです。私にとっては、このゲネプロは癒しになります。あ〜本当に楽しみ! ペトラが私のために頑張ってくれたので大感謝です。ありがとう、ペトラ〜〜!!!

思えば本当にいろいろなことがありました。この耳のことで若干トラウマになっていて、人とも会えない状態にも陥ったことがありますし、そんな私がこんなに大きなヴェンダース夫妻の写真展を企画して、果たして本当にできるのだろうかと思ったこともしばしば。いろんな事態になって、暗礁に乗り上げそうになった時、ヴェンダース監督に直接、「こんなちっぽけな私、耳の悪い私と、ここまで一緒に頑張って写真展を前向きに考えてくれたこと、すごく感謝しています。」と言った時、ヴェンダース監督は優しくにっこりとして、「そんなこと!! 私たちは淑子のことが大好きなんだからね、そんなこと気にしていないんだよ。」と言ってくださった。すごく嬉しかったです。私は否定されていない! このプロジェクトに必要とされている! そんな気持ちをずっと持たせてくださった監督の言葉・・・。宝物になりました。

そして夫妻がベルリンに帰国する前日は、5月3日だったのですが、夫妻は完全オフでした。その時、ヴェンダース夫妻は何を考えたかと言いますと、今回の写真展の報告を、ぜひ故小津安二郎監督にしたいということで、二人は北鎌倉にある小津監督のお墓参りに出かけたのです。そのことを、前もってアシスタントのカロから聞いてはいましたが、実は私も、ずっと前から小津監督のお墓参りに行こうと思っていました。

それは25年前、ヴェンダース監督と知り合う直前だったと思います。私が最も尊敬する小津監督のお墓参りをしたいと思いたち、小雨の降る中、北鎌倉へ行ったのでした。小津監督がヴェンダースと私をつなげてくださったとしか思えないご縁が、その後あったわけですが、25年も経って、こうして写真展を開催できて、全てがひとつになったように感じます。これらは必然だったのだなぁ、と思うのです。

ヴェンダース夫妻は3日に小津監督のお墓参りをし、4日の早朝に帰国しました。そして私はアンゲリカを成田まで見送るために、5日の午前中に飛行場へ彼女と行って、その後北鎌倉に向かいました。日本チームを代表する気持ちで、今回の写真展のお礼も小津監督に伝えたかったからです。良いお天気だった5日、私はドキドキしながら小津監督が眠る円覚寺に行きました。

そうしましたら・・・・小津監督のお墓には、なんと今回の写真展のカタログがお供えしてあったのです!! 美しい白いカラーの花と共に・・・。涙が出てしまいました!!! ヴェンダース夫妻は、ちゃんと小津監督に今回のことをご報告してくださったんですね!! 本当に嬉しかったんだなぁ、とやっと思えました。どうなることかわからなくて、いくらお礼を言われても、夫妻の気持ちが十分満足できるものだったのか、少し心配だったからです。でも、そんな気持ちはふッ飛びました。夫妻は心から今回の写真展を喜んでくださっていたんです。

小津監督に捧げられたカタログを開いてみました。そこには、ヴィムの字で「For Ozu Kantoku」とあり、天使の羽の絵が描いてあり、二人のサインがありました。感激・・・・。そんなこと、日本人だってなかなかしないでしょう。それなのに、夫妻は心をこめて小津監督に感謝の気持ちを示したのでした。

このエピソードは、私が円覚寺に行かなかったら誰もわからなかったことです。夫妻は何も私に言わなかったし、カロもお墓参りに行くとしか言わなかった。でも、こんなに素適なことがあったのです。

あたらめて、ヴェンダース夫妻の小津監督への愛、日本への愛を強く感じました。そして感謝の気持ちで一杯になりました。

もちろん、このお話は、スプーンの皆さんにも、山田社長にもご報告しました。みんなとっても感激して、涙する人もいました。チーム全体で、本当に今回の写真展を頑張って開催してよかった、と思っています。

ご覧くださった皆様、本当にどうもありがとうございました!!!

5月22日に、ドナータとカロとちょこっと打ち合わせがあります。その時に、時間があったらこのお話をしようと思っています。私も2日後に小津監督のお墓参りに行ったのよ、と・・・。