2006-10-29
舞踏家・大野一雄さんのこと
舞踏家の大野一雄さんが、100歳になられたそうです。心よりお祝い申し上げます。
大野さんは、日本だけでなく、世界中でその類稀なる才能を開花され、舞踏の素晴らしさを紹介したことで有名なアーティストでいらっしゃいます。ヨーロッパでも大好評を博し、各分野の多くのトップアーティストが大野さんを敬愛しています。
車椅子とはいえ、お元気そうな写真をインターネットで見て、そしてそんな大野さんを多くの舞踏家がお祝いしてまわりで踊ったそうで、素敵だなぁと思いました。
私は、かれこれ23〜4年前くらいに、大野さんと渋谷のカフェでお会いして、何時間かおしゃべりさせていただいたことがあります。デートではありません(笑)。ドイツ人の映画監督、ヴェルナー・シュレーターに頼まれて、彼からの手紙とお願いの言葉を届けるために、大野さんにお会いしたのです。
当時の大野さんは、ということは77歳くらいだったということでしょうか・・・もっとずっとお若く見えました。身体表現者らしい、背筋がすっとしていて、細くて素敵な佇まいの方で、不思議なオーラを放っていらっしゃいました。少食でいらしたと記憶しています。それだからでしょうか、しゃきっとした感じで、スリムでかっこいいおじさまという雰囲気でした。
シュレーター監督は、ドイツでも実験的な映画で人気を博していて、通好みというか、知る人ぞ知る監督です。美意識が高く、オペラや舞踏をこよなく愛し、そしてゲイなのでした。(私が彼に始めて会ったのは、夕暮れ時のミュンヘン、オペラ座の前。なんと、アルゼンチンの美青年と一緒に登場したのです。ぴっちりとした皮のパンツをはき、華奢でセクシーな青年と手をつないでやって来たシュレーター監督は、レストランに入ってからカルバドス酒を飲みながら、いかに自分は大野一雄氏を愛しているかということを、とうとうと話して聞かせてくれました。レストランを出てから、私たちは少しオペラ座の通りを歩いたのですが、美形のシュレーター監督が左、アルゼンチンの美青年が右にいて、3人で並んだ時、何か映画の中のありえない世界に迷い込んだような、美しく奇妙な感覚に陥ったのを覚えています。ドキドキしました!)大野さんの映画を撮りたい、と監督は熱心に話していました。なので、手紙を直接渡して欲しい、ドイツ語で書くから翻訳して話して欲しい、そしてどんな映画を作りたいか伝えて欲しい、と言われ、お引き受けしたのでした。
渋谷でお会いした時、大野さんはとっても若々しかったので、80歳に近いだなんて思いもよらず、シュレーター監督の言葉を直球で伝えました。それは何と、「雪が積もった深く真っ白な世界の中で、大野さんが全裸で踊る」という、あまりにも信じられないような構想だったのです!!
伝達係りになってしまった私ですけれども、想像を絶するすごい内容なので、ちょっとひるみながら、恐る恐るお伝えしました。
そうしたら、大野さんは遠くを見つめる目をして一瞬考えて、「うん、そうですね、いいじゃないですか。それは可能ですね。」とおっしゃったのでした。
・・・す、すごい・・・・すごすぎる・・・・。命を落とす危険もあるというのに・・・平然としていらして、あっさりと「やりたいですね。」とおっしゃったのです。
脱帽・・・です・・・。
でも、その後監督が本当に撮影するチャンスがあったのかどうかは知りません。その件をお伝えしてから、住む場所が違うこともあって、シュレーター監督とは連絡が途絶えてしまいましたので・・・。
あの企画・・・実現したのだったら、ぜひ見てみたいものです。