2004-01-26

第14回 見込み発注と減数

●受注と納品

商品を取次や書店から受注し、納品するというのは出版社の日常的な業務ですが、一口に納品と言っても色々な種類があります。それらを分類する際、「注文」や「委託」など条件面などで考えることが多いと思いますが、別の視点から捉えることも可能ではないかと考えています。今回は納品を、条件ではなく実売との関連性から見直し、それぞれについて私が考えているところの問題・課題と、その中でも特に見込み発注と減数の件について、まとめておこうと思います。

●見込み発注と減数に対する弊社のスタンス

非常に残念ながら私が語研に入って以降、見込み発注が刷部数を越えるような事態は発生していません。が、増刷が出荷に追いつかなくなりそうになった事は何度かあります。その際、「減数」という言葉が頭に浮かばなかったと言えば嘘になりますが、幸いなことにそういった事態にまでは至りませんでした。ここ数年は初回の刷部数などもある程度の余裕を持てるようになり、発売1ヶ月以内に慌てて増刷ということも無くなりました(初回の手持在庫数は多めに持ちます。また、配本の問題とも絡みます。これについてはまたあらためて書こうと思います)。
その程度の売れ数でこんなことを言うのもなんですが、弊社では今後も減数を行なうつもりはありません(と言いつつ、万が一ベストセラーが出た時には気が変わるかも知れません。その辺はそういった事態に遭遇してみないと分かりません)。
減数とは当初の需要予測に対して刷部数を低めに設定したために起こる調整であると考えています。減数をしない、という前提で出荷を行なわない限り、見込み発注と減数のいたちごっこからは抜け出せないと思います。
見込み発注は、また書店にとっても負担のはずです。多めに発注した商品が万が一その数で入ってきてしまった場合、納品と返品の過程での作業は大きな負担となっているはずです。控えめな注文は作業の手間を減らすためには有効だと思いますが、いかがでしょうか。

●今回考える納品の種類と性格

次に、今回考えてみる納品の種類を大雑把にあげます。
1. 客注など、ほぼ100%返品が発生しないと思われる注文に対する納品(納品=実売)。
2. 取次の在庫分や棚の補充など、短期的には返品が発生しにくいと思われる注文に対する納品(書店の棚に収まることが前提となるもの)。
3. 書店が見込みで出す平積み分の注文に対する納品や新規開店分(あくまで期待を前提としたもの。
3′. 営業が取ってくる平積み分の注文に対する納品(期待を前提としたものになるか実売をシビアに見極めるかは営業次第)。
4. 事前注文・長期委託・店頭でのフェアなどに対する納品(受注を前提としているもの)
5. 新刊時の見計らいでの配本など(受注を前提としていないもの)。
以下、それぞれの場合についてもう少し詳細にまとめます。

●客注など、納品=実売と言えるもの

お客さんからの注文を前提とした、いわゆる「客注」は、返品になる可能性が非常に少ないのが特徴です。特に弊社のように書店の棚に通常並んでいない商品(別売のカセットテープ教材など)を多数持っている出版社の場合、客注は非常にありがたいです。ですので、客注に対しての対応は迅速・正確をこころがけ、必要であれば直送(直納)も行ないます。

●取次在庫分や棚の補充など、売れた分に対しての注文

売れてなくなった分の補充は、実売が後ではなく先に成立したものであると考えています。棚の補充分はまさに売れて無くなった分の補充です。また、売行良好書であれば平積み分の補充も、返品になる可能性はあまり高くありません。欠品補充と言う意味においても弊社では重視しています。また、取次の在庫の補充についても、書店で売れた分の補充、という意味では似た性格のものであると考えています。ここで重要なのは自動発注のお店です。自動発注は店頭での実売をきっかけに発注が発生します。その意味において自動発注のお店が増えるのは大歓迎です。

●(まだ売れ出していない商品の)見込み注文や新規開店分など

これらの注文が先に挙げた客注や補充(棚・平積とも)と決定的に違うのは、実売を前提としていない場合が多い、という点です。客注は(たいていの場合)必ず売れます。補充は売れた分に対しての補充が基本です。それに対して売れるか売れないかが見えないこれらの注文は返品になる可能性がかなり高いと言えます。

●営業が取ってくる平積分

弊社では営業に対して受注のノルマを課していません。極論すると一冊も注文を取ってこない営業スタイル、というのも有り得る状態です。実際、注文をもらうより「王子の在庫を使ったほうが早いですよ」とか「自動発注で回してください」などという場合も多々あります。が、どういう形であれ、商品が売れずに会社が倒産でもしたら困るのは自分たちです。ですので、結構まめに注文も取りますし、欠品補充はやはり欠かせません。その中で問題になるのが営業が取ってくる平積分です。そのお店で本当に売れる数なのかどうか、そういったことをデータに元にきちんと話し合えなかった場合、お店のキャパを超えた平積み注文が発生してしまう場合があります。出張に行ったときなどはお店の方からご祝儀的に大量の注文を頂くことすらあります。
正直に言ってたくさん注文を出していただくと嬉しいのは事実です。大量の注文をもらった日などは、会社に戻ってその注文を報告するのが誇らしかったりもします。が、ここで重要なのは、そういった注文を受けた時、お店の方ときちんと話ができるかどうか、最終的に無理の無い注文にまとめられるか、ということです。きちんと話し合いをしたうえでまとめた数の注文であれば、少々少ない数になったとしても返品が少なくなり、結果的にお互いにとってメリットが大きくなると考えています。つまり、営業は書店さんの出した数に対して少ない数を(感覚ではなくデータを基にして)提案できる状態にあるべきだと考えています。そうでなければ営業が取ってきた平積分の注文というのは「最悪」です。返品率を下げるためには営業に注文を取らせすぎないのが肝心だと考えています。

●事前指定・フェアなどの注文

これらの注文も実売を前提としていないという意味においては見込み注文に近いものです。が、事前指定の場合は以前の類似商品の販売情報までお店に還元できるか、フェアなどの場合は商品選定をどれだけ売れ筋の商品に絞りこめるか、で、その後の返品の状況は大きく変ります。特にフェアなどの場合商品選定は、売筋としてそのお店の定番商品と化すか、死筋として書店の棚を埋めた後日焼けして返品となるか、非常に重要です(フェア商品の選定についてもまたあらためて書く予定です)。

●新刊配本(見計らい)

期待値と実売が食い違った時、一番返品が発生してしまうのはやはり新刊の配本です。これについては新刊配本が少なすぎるせいで注文を取りやすいお店(大抵の場合超大型店ですが)から大量の注文を取ってしまい、結果として大量の返品を招いてしまう、という悪循環も起こりがちです。モノにもよりますが、弊社の場合は店舗数を絞って厚く配本するより店舗数を増やして薄く配本する方が有効だと考えています。大型店、特に営業が毎週のように顔を出しているお店はいざとなれば直納しても良いわけで、無理に大量の新刊を置いてもらう必然はないと考えています(この件についてもあらためて書きます)。

●実売との関連性

上記に挙げたそれぞれの場合において重要なのは、その注文なり納品なりと実売とがどう関連しているか、という点です。実売と無関係な注文は結果的に返品になってしまう可能性が高い注文と言えます。ですのでそういった注文を極力押さえるために、実売をしっかりフィードバックできる仕組み作りが重要です。と言っても実際にはそれが難しいわけですが、少なくとも営業が回っているお店ではきちんとデータを提示した上で注文数を相談できる状態を作っておくべきだと考えています。

●欲しいものが入ってこない。

地方の中小の書店さんからは「欲しいものが入ってこない」というお話を伺います。「商品を確保する能力が書店の仕入能力だ」と仰る方もいますが、零細書店の店主が店を空けてまで仕入に駆けずり回るべきでしょうか? また、取次にも在庫がなくなってしまったような場合、出版社に発注する以外どうすれば良いのでしょうか? 「前回の実績に基づいて配本を」と言っても配本がゼロだった商品は実売もゼロの場合がほとんどです。そんな実績をどう評価すべきなんでしょうか?

●無謀な見込み注文が減れば減数も無くなり結果的に無駄な納返品も減る。

書店が一見無謀とも思える見込み注文を出す商品の多くは、最終的にかなりの部数を売るようなものである場合がほとんどです。どう考えても売れないだろうと思える商品に対してはさすがにそんな無謀なことはしません。つまり、書店も「売れる」「売りたい」と思っている商品なわけです。それに対して出版社の側から一方的に減数するというのは如何なものでしょうか? 減数するにしても書店に対して「関連書籍の前回の配本の際、おたくのお店ではこれだけの売れ数だったのに対して今回の注文数はこれだけある。こうなった理由を教えてくれなければ前回の数を勘案して減数せざるを得ない」というヒアリングを行なえたなら結果は全然変ってくるのではないかと思いますし、大手の出版社が率先してそういう方向性に進めば、無謀な見込み注文とそれを前提とした減数という必要悪も無くなり、結果的に返品になるだけの無駄な納品も減るのではないかと考えていますが、どうでしょう。