2005-08-18

『アムステルダム・プライド2005』見聞録(2)

欧州の都市を旅で訪れるとき、私は必ずすることがある。ゲイ・タウン巡り、娼婦・男娼が働く風俗街の探索、駅構内の雑誌売り場を偵察……である。

 欧州ではないがチュニジアの都市・チュニスにおいても以上の三つを行ったのだが、イスラム圏ということもあり、風俗街はないし(闇風俗的な形で存在するのかも知れない。しかし、一見の素人がそれを発見できる環境ではない)、同性愛者が集まるゲイ・タウンもない(その割には同性同士で手をつないで歩く人をよく見かけたのだが)、雑誌売り場にはゲイ雑誌もポルノ雑誌も置いていなかった(独裁者的な大統領を表紙に持ってくる新聞はいくつもあったが)。西欧・北欧諸国の大きな駅・空港には、ボカシもモザイクも入っていないポルノ雑誌が公然と置かれている。男性同性愛者向けのハードポルノ雑誌が置かれている場合もある。西欧・北欧とは著しく異なる、性欲・情欲・愛欲の匂いを感じさせないチュニスの清潔で整然とした町並みを見ると、そこに住む人々は性的な情報をどこで得るのだろうか、人間の根源的な欲求である性欲を如何にして処理しているのか……気になった。かつてフランスに支配され今もフランスの強い影響下にある、スカーフで顔を覆わずに歩く女性が多く見かけられる、イスラム圏の中でも世俗化が進んでいるチュニジアの首都においてさえ、純潔的政策が保持し得ているのだから、イスラム教の強い支配下にある諸国家・諸都市においては、エロへの規制・弾圧はいかほどのものであろうか。イランにおいて同性愛の男性が公衆の面前で国家の名の下において殺されたという事件はイスラム社会の厳格さ・純潔ぶりを示す象徴的な一例といえよう。

 欧州の諸都市を訪れて思うのだが、東京都新宿区新宿二丁目にあるゲイ・タウンほど大規模かつ賑わいのあるゲイ・タウンというのは、そうはないのではなかろうか。しばし耳にすることのある「世界最大」という形容はあながち誇張ではなかろう。デンマーク、ギリシア、オランダ、ベルギー、イギリスをこれまで旅してきたが、レズビアン・ゲイ・バイ・トランス(LGBT)のムーヴメントが日本よりも遙かに激しく進んでいる北欧・西欧においてすら、新宿二丁目以上のゲイ・タウンを有する国を未だ私は見たことがない。例年Gay Prideに50万人以上のパフォーマー・聴衆が参加するパリのゲイ・タウン=マレ地区でさえ、新宿二丁目ほどの賑わいはない。賑わいがないといっては不正確かもしれない。同地区はゲイ・バーなどレズビアン・ゲイ関係の店のみならず、洒落た小さなブティックが建ち並び、ユダヤ人のレストラン・ファーストフード店が並び、週末になると多くの観光客・パリ市民が狭い道路にあふれている。車が徐行しながらでないと通れないくらいに、である。しかし、その賑わいというのはゲイ・レズビアン関係のバー・ブティック・風俗目当てであるわけではないのだから、ゲイ・タウンとしての賑わいということにはなるまい。

 風俗街でもっとも感銘を受けたのは、アムステルダムの「飾り窓地区」と呼ばれるエリアである。日本でもその存在がテレビ・雑誌・新聞などで報じられることがあるので、御存知の方も多いだろう。パリやブリュッセルからの直通路線『Thalys』(タリス)が到着するアムステルダム中央駅から歩いて三分ほどの運河沿いのところにその売春地帯・性風俗地帯は広がる。七坪ぐらいの小さな部屋に女性が水着姿でガラス張りのドアの前に立ち、手を振ったり流し目を送ったり、ウインクしてきたりする。部屋の中には洗面台と小さなベッドが置かれている。そんな小さな部屋が、路地に入るとズラッと並んでいる。写真撮影は禁じられているので、歩くことしかできないが、白人・黒人・東洋人など様々な人種・様々な年齢・様々な体系の女性にお目にかかることができる。冷やかしで女性に話しかける人もいるが、ドア越しに値段交渉をしている男性を目にすることがある。
 カーテンが掛かっている部屋も目にするが、それは交渉が成立し「お取込み中」のところだそうだ。
 この飾り窓地区一帯を警察官が複数人で歩きパトロールしている。ビキニの女性たちが立つところを警察官が厳めしい顔つきでゆっくり歩く姿は何とも可笑しい。これだけ、オープンであるならば、客による娼婦・性労働者・セックスワーカーへの暴力にたいして、厳然と対処できるであろう。公道に面しているのだから、何かあればすぐ外に出られるし、隣室で働く女性に助けを求めることもできる。部屋のつくりを見ていて興味深いのは、その多くが隣室につながっていて、客が来ないとき隣同士でおしゃべりできるようになっている。コトを終えた男性が金を十分に払わないらしく、隣の女性二人が間に入って、議論しているところを私は目撃したことがある。

 東京においては店舗性風俗からデリバリー風俗へと形態が変化していると聞くが、働き手にとって極めて大きなリスクが伴う。客の部屋に行き暴力をふるわれたとしても、金を払われなかったとしても、その場では女性が対処せざるを得なくなる。
 街娼も同様だろう。フランスでは売春は合法化しているが、店舗風俗は認められていないため、街娼かデリバリー風俗が主流である。街娼規制が厳しくなったため、彼女/彼らは警察の目におびえながら、客引きしなければならない。暴力を受けたとしても警察に逃げ込むことができない。その結果、マフィアにたよらざるをえなくなる……という状況に追い込まれる。

 働き手にとっては、闇・地下で働くより、アムステルダムのように大っぴらに堂々と働ける環境の方がはるかによいだろう……などということを、アムステルダムに行くたびに私は思う。

このエントリへの反応

  1. 尾辻さんのニュース、e-llicoに載ってました。
    Japon : la Tokyo Pride théâtre du premier coming out nippon
    http://v2.e-llico.com/article.htm?articleID=11196&rubrique=actus

    なぜかうちでは画像が出ないのが残念です。

  2. 社民党が衆議院総選挙茨城3区の候補者に、トランスの男性を立てるそうです。http://transnews.exblog.jp/1587814

    正直言ってかなり厳しいと思うけど、頑張って欲しいです。