2005-10-06

男気もて差別撃て……L’arc-en-cielの旗のもとに……

以下、10月1日に行われたトランス・デモに関する記事の一部です。

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LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランス)を象徴する虹色と青・青紫・赤紫の三色の旗がそこかしこではためき、赤や蛍光色のピンクなど色とりどりの鮮やかな衣装を着飾った人が多い中で、デモ(Manifestation)には似つかわしくない、真っ黒な服に身を包みドクロ・マークの旗を持っている一団がいた。一団は高校生ぐらいの年齢の少年10人ばかりで構成されている。ピンク色に髪を染め上げビジュアル系バンドのようにばっちりメークアップした子や、同じくビジュアル系の出で立ちの少年がいる。猛々しい雰囲気は何だか極右の集会に参加しそうな若者だが、一方で解散したX-JAPANのコンサートにたむろしていたファンのような空気も漂わせている。そして、彼らのファンなのか、黒いTシャツをきた高校生だか大学生ぐらいの年頃の女性が何人かいた。

彼らは『XXBOYS』という。
XXBOYSのチラシには次のようなことが書かれている。

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第九回『Existrans』にあたり、XXBOYはその旗の下に初めて目に見える政治的な行動を起こします。
XXBOYSのアイデンティティ(identitxJ羽は『Female to Male』のトランスです(*1)。
XXBOYSはヘンタイ文化(une culture queer)から生まれました。
XXBOYSはトランスというアイデンティと同じくらいに男性という性別にも誇りを持つ少年達(des garcons)です。
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デモが始まると何人かで黒地に白でドクロが描かれた旗をもち大きな声を上げて反差別を訴えていく。

XX染色体を有するリーダー格の男の子は上半身には何も身につけていない。黒髪をムースで固めて漫画『ドラゴンボールZ』のスーパーサイヤジンのように髪を逆立たせ、首には十字架のネックレスをかけ、鼻には銀色のピアスがふたつ装着され、肘にはタトューが刻み込まれている。両方の胸にはメスで切り刻まれた跡が遠目から見ても分かるぐらいにハッキリと残っている。ジーンズをはいて、黒いリュックサックを背負う彼は旗のポールを両手で握りしめ、サングラスをかけた黒人の少年が旗の端をもつ。何とも頼もしく力強く見えた。

パリ市役所を出発してバスティーユ広場まで歩き、そこから終点地であるレパブリック広場へいく路上で、わたしは先頭から後尾まで写真を撮ろうと思い、立ち止まり人々が通りすぎるのを待った。何やらXXBOYSの周辺にカメラマンがあつまりさわがしい。一団のところに駆け寄るとXXBOYSのメンバーも、一緒に行進していた10代の女性二人も、トップレスになってはしゃいでいる。みんなで固まって写真を撮らせている。

カメラマンたちが去ると、一団はまた歩き出した。

女性ふたりは上半身裸で路上を堂々と歩く心地よさに快感を覚えたのか、服を右手にもち、頭上でくるくる回し始めた。リズムをとってゆっくり歩き、ふたりで目配せしあい微笑みをたやさない。

水をはじくような透明感のある真っ白な胸が、道路脇に立ち並ぶ木々の葉からこぼれる陽に照らされあでやかに反射する。彫刻のように白く、神々しい。もしその場に絵描きがいたならば、彼女らに裸体画のモデルになってくれないかと依頼したのではないかと思わせるような存在感を放つ。金色のショートヘアをした女性の胸元と首筋にはピンク色したたくさんのキスマークがついている。

彼女らのまわりには長閑な雰囲気に包まれた。彼女の後ろを歩いている男女がオヤオヤという顔でやさしく微笑んでいるのが見えた。

少女らは一分ぐらい踊ったあとで服を着始めた。一人は裸の上にそのままTシャツをかぶり、一人は真っ黒な下着(soutien-gorge)を装着してからTシャツを着た。

レパブリック広場につくと、集会が始まった。弁士がそれぞれ思いの丈を訴えていく。その周りに円陣ができる。わたしはそこから少し離れ、ゆっくりそのまわりを歩いた。

xxboysのリーダーがテレビカメラとマイクを前にしてインタビューに応じているところに遭遇した。はにかみながら時に俯きながら話す様は初々しい。わたしもカメラを構え写真を何枚か撮ると、彼は私に話しかけた。

「あのー、写真を送ってくれませんか。これか僕たちの出しているチラシです。ここのアドレスに送ってください。御願いします」

「もちろん、送りますよ」

と応じ私はチラシを受け取った。
私が去るとインタビューはまた続けられた。

デモには極左政党・革命的共産主義同盟(LCR)や最大野党・社会党、緑の党の活動家も参加して懸命にチラシを配っていた。ぼうぼうにのびた天然パーマのヘアをした、無精髭ののびている、Tシャツに短パン姿でリュックを背負ったLCRの活動家は何だか場違いなような気もした。みんなオシャレしてきているのだから、ドレス・コードに引っかかっているのでは、と思ったのだ。

しかしながら、ベタに反差別をチラシで訴える人、胸を露わにして踊る人、恋人とともに参加して歩いては立ち止まりキスをしてまた歩く……を繰り返していたカップル。多種多様な人々が多種多様な方法で訴えることが、虹の旗のもとで行われるイベントの大きな魅力だといえる。

エロがあってもよし、アジがあってもよし、音楽があってもよし。
万鍋のような味わい深いものにこの日のデモはなっていたとおもう。

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追記:LGBT(レズビアン、ゲイ、バイ、トランス)のシンボルカラーは虹色である。その日も虹色の大きな旗が掲げられ、縦30メートルはある虹色の幕を二十人以上で端をもち行進する人もいた。虹色は多様性の象徴である。虹の旗のもとで行われる催しであるならば、いろいろな表現があってもいいと思う。XXBOYSにいた彼/彼女ら以外にも上半身裸になってセクシーに踊る人たちがいた。

*1:Female to Male。 (女性から男性へ)の略で、性同一性障害のうち、 出生時の生物学的性別が女性で性自認が男性。たとえば、日本では作家の虎井まさ衛さんが有名。虎井さんの体験を元にして『3年B組 金八先生』では上戸あやさんがFemale to Male(FtM)の生徒役をやった。