2010-10-12
お部屋2104/緊急開催!! ありがとう東京三世社
予定していたイベントが飛んで、数日前に急遽決まったのですが、今週土曜日の16日、以下のイベントが阿佐ケ谷ロフトで開かれます。
http://www.loft-prj.co.jp/lofta/schedule/lofta.cgi
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緊急開催!!!!
「ありがとう東京三世社!〜総天然色の夢〜」
古くは「実話雑誌」、「MEN」、「PINKY」、「SMセレクト」、「コットンコミック」、「オレンジ通信」、「熱写ボーイ」、「チョベリグ」、「千人斬り」など数々の名作で僕らの股間を熱くしたあの老舗出版社「東京三世社」が出版業務を締結させるというニュースが!!
エロ本業界で燦然と輝いていた巨星が堕ちる!!
ありがとう東京三世社!!
今まで資料もなく、語られなかったエロ出版業界のクロニクルを改めて研鑽し、その功績を偲ぶべく、各界の怪人たちが阿佐ヶ谷に集結する!!
全国の同志よ集え!
みんなで大画面で「千人斬り」のベスト傑作選を拝もうではないか!
【出演】
松沢呉一(性風俗研究家、日本で一番エロ本を持っている男)
安田理央(フリー編集者、ライター)
福田光睦 (Modern Freaks Inc.、元ワイレア出版)
福原豊(フリー編集者、元東京三世社)
あらいたつる(細々と漫画&官能小説家、元東京三世社・バイト)
他、鋭意交渉中!!
【スペシャルゲスト】
末井昭(白夜書房編集局長)
【司会】
雨宮まみ(ライター)
OPEN18:00/START19:00
前売¥1,500/当日¥1,600(共に飲食代別)
前売チケットは阿佐ヶ谷ロフトA下記ウェブ予約、電話予約にて受付中!!TEL:03−5929−3445
※このイベントは過激な映像の投影が行われますので、条例により18歳未満の方の入場はできません。
当日入場の際に身分証(免許証、学生証、社員証、パスポートなど公共機関が発行する証明書)の提示が必要となります。
http://www.loft-prj.co.jp/lofta/reservation/reservation.php?show_number=517
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「過激な映像」と言ってもエロ雑誌を見せるだけですけど、「それは行かねば」と思える企画を準備中ですので、決まり次第お知らせします。
昨日、阿佐ケ谷ロフトのスタッフと内容を詰めるために打ち合わせをしたのですが、その時に彼がこんなことを言います。
「今週の『週刊ポスト』でエロ雑誌の特集を組んでましたね」
「へえ、そうなんだ。全然知らなかったよ」
彼はバッグから10月15日号を取り出しました。「懐かし昭和のエロス雑誌大全」という大特集が組まれています。
期待満々、興味津々で中をさらりと見た私の感想。
「ひでえな」
著者は「高永昌也と本誌取材班」と大層なことが書かれてますが、エロ雑誌に思い入れのないライターと編集者が3日で作ったってところでしょう。今回のイベント同様、予定していた記事が飛んで慌てて作ったのかもしれない。というのも、文章がひどいです。文章がひどいだけならまだしも、内容もひどい。文字数に制限があるので、内容が薄いのはやむを得ないとしても、どうでもいい個人的体験が続き、肝心のエロ雑誌については間違いだらけです。
エロ雑誌の歴史を記述するのはたしかに困難が伴い、私自身、間違いを書いてしまうことはありますが、そんなレベルの話ではなくて、ちょっと調べればわかることも調べていないのです。
この特集は、神保町の古本屋で「あまとりあ」(※)と「夫婦生活」(※)を発見して、「あっ、あった」と感激するところから始まります。
いかに何も知らないかをある意味正直に吐露した記事でもあって、国会図書館で調べ、続いてネットで調べ、最後に神保町の古本屋を回り、こう嘆きます。
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古いエロ雑誌はなかなかない。みな、自販機本、コンビニに並んでいる新しいエロかDVD。
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自販機本は今から30年近く前にほぼ消滅したものですから(※)、新しいエロ雑誌に入れるのはおかしくて、何が自販機本なのかもわかっていないみたいです。
事実、自販機本についてのページに出ている9冊のうち、自販機本は1冊のみかとも思われます(正体不明のものも1冊ありますが)。文中に通販本の話も出てきますから、通販本の書影が入っているのはいいとして、それとも関係のないものが混じっていて、やはり自販機本、通販本とはなんなのか筆者も編集者も理解していないようです。
そして、やっと古本屋で「あまとりあ」や「夫婦雑誌」を見つけて歓喜するわけです。古いエロ雑誌は、行くところに行けばナンボでも買えますが、行き当たりばったりで珍しいものを探せるほど甘くはない。せいぜい買えるのは、「あまとりあ」や「夫婦雑誌」程度なのは当たりまえ。
この手のものを探したことがある人ならおわかりのように、この2誌はいたって容易に入手できます。
試しに「日本の古本屋」で検索してみると、「あまとりあ」も「夫婦生活」も100件以上ひっかかり、号を問わなければ1冊数百円で入手可。たぶん「日本の古本屋」の存在さえ知らないのでしょう。
このページに出ている写真は雑誌「あまとりあ」ではなく、高橋鐵著『あるす・あまとりあ』です。以下の左下です。
「週刊ポスト」10月15日号15ページより
「あまとりあ」にも高橋鐵は関わってましたが、エロ雑誌の特集ですから、単行本を出す意味がわからないです。たぶん「あまとりあ」と『あるす・あまとりあ』の区別さえできていないのだと思います。奥付くらい見ましょう。
本文中に昭和34年の話として、中学生の頃の著者が「プレイナウ」という雑誌で興奮したとありますが、これも怪しい。「プレイナウ」は昭和40年代の後半に辰巳出版が出していた雑誌です。その前にも同タイトルで出ていた可能性がゼロではないですが。
また、国会図書館で、「淫獣」というタイトルで調べてヒットせず、【たしかに大昔こんな雑誌があったのにな】と書いていますが、「淫獣」は昭和24年に創刊号だけ出たと思われるカストリ雑誌で、それ以降、出た記録が見当たりません。この雑誌をエロ雑誌に詳しくもない赤ん坊だった著者が覚えているとは思えません。デタラメ書いているのでしょう。
この見開きの次から、戦後史を遡るのですが、これもデタラメの連続。
「カストリ雑誌(※)の登場」と銘打ったページには7誌出ていますが、この中でカストリ雑誌は、「猟奇」(※)と「怪奇雑誌」(※)だけ。
「週刊ポスト」10月15日号16ページより
このページにあるものがどれもカストリ雑誌だと言っているわけではないですが、そう読めてしまいますし、本文でも「りべらる」や「夫婦雑誌」をカストリ雑誌として扱ってます。「りべらる」は微妙なところがあるのですが、これまで出た何冊かのカストリ雑誌の研究書で、「デカメロン」や「夫婦生活」など、昭和20年代後半を代表するB6雑誌をカストリ雑誌とするものはないかと思います。
それらをエロ雑誌とするのはまだしもとして、ここに出ている「ロマンス」はエロ雑誌でさえありません。版元のロマンス社は式場隆三郎が設立、「婦人世界」などを出していた出版社ですよ。
この時代の雑誌のことをまるで知らない人が表紙や出版社名だけ見て判断するのは難しいでしょうが、中を見ればわかるだろうに。つまりは中を見ていないのです。
「ロマンス」のキャプションには【それまでは漢字やひらがなだった雑誌のタイトルに横文字(英語)を使用したはしり】とありますが、戦前から「キング」「ギャング」「デカメロン」「グロテスク」といった横文字の雑誌タイトルは多数あります(戦前の「デカメロン」と上の「デカメロン」は別雑誌)。戦後に限っても、これ以前に「旬刊ニュース」が出ていて、「ロマンス」と同時期に「トップ」「VAN」といった雑誌が出ています。そもそもエロ雑誌じゃないんですから、どうでもいいことですが。
リードにカストリ雑誌は【写真もなく】とありますが、これもウソ。昭和22年くらいから活版ページには写真が出ていますし、遅くともその翌年にはモノクログラビアが登場していたはず(記憶で書いてます。調べろと言われれば調べます)。中でも、ここに出ている「怪奇雑誌」はのちに漫画家となる高野よしてるが担当した写真ページが人気だった雑誌(※)。内容の紹介もしているのに、どうして気づかなかったのでしょう。
本文に「猟奇」創刊号が【ネットの〈アマゾン〉で、1万数千円で手に入るらしい】ともあります。アマゾンでとてつもない値段で出す人がいるのは事実として、これも「日本の古本屋」で検索すると、1050円から出ていて、相場は2000円から3000円程度(問題になったページが削除された改訂版や復刻ものもあるので購入の際は注意のこと)。
要するに、こういうものを探したことのない人が、短時間でやっつけた仕事であり、「いかに入手困難か」を強調して、苦労したことを匂わせたかったのでしょうが、それをやればやるほど、「アホか」と突っ込みたくなり、それに見合って、内容も間違いだらけなのであります。
ネットで古い雑誌を探したことがないくせに、本文では、ネットを書き写したと思われる記述があります。
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トルコ風呂の第1号は諸説あるが、昭和33年7月開業の「東山」。その年の暮れには全国で100店となった。
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文章が変なのは原文通り。トルコ風呂の元祖はどこかについてはたしかに諸説あるのですが(※)、昭和26年にオープンした「東京温泉」以降、トルコ風呂は多数営業してまして、上の文章は以下を参照したのではなかろうか。
http://ameblo.jp/cat-utopia/entry-10033870595.html
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旧赤線地帯での転業は、同年7月に吉原の特殊飲食店(つまりちょんの間です)「東山」が「トルコ吉原」としてオープンしたのが最初です。
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これを読めばおわかりのように、「東山」は特飲店が転業した最初ということであって、トルコ風呂の第一号ではありません(この「トルコ吉原」が赤線地帯での特飲店転業第一号であることが正しいのかどうか不明。調べろと言われれば調べます)。これが元じゃないにしても、同様のことを書いたものをロクに読みもせずに書き写したのだと想像できます。
赤線時代はショートだけじゃなく、泊まりがありましたから、「ちょんの間」としてしまうのは好ましくはないですが、ここにあるように、売防法全面施行まで特飲店という名称は使われていました。しかし、「週刊ポスト」の記事では、どこからどうしてそう思ったのか知りませんが、「特飲店」という名称がのちに「赤線」になったかのように記述されています。赤線は地域の名称、特飲店はそこにある店のことであって、指し示す意味が違います。ネットの記事の方が「週刊ポスト」よりまだしも正確です。
熱意をもって調べている人がタダで書いている文章の方が、金をもらって書いた即製記事より信用できる。そういう時代です。この手のものを書く場合は「週刊ポスト」の記事を参考にせずに、ネットで複数のソースに当たることをオススメします。
赤線やトルコ風呂の記述はこの特集のパート2である「性の戦後史」に出ているのですが、ここも個人史と歴史がグチャグチャで、時間の経緯もよくわからない。どこをとってもひどいです。唐沢俊一が書いているのかと思いましたよ。
いちいち指摘しているとキリがないのでこの辺にしておきますが、「週刊誌なんてそんなもの」とは言いたくはありません。週刊誌だって時間をかけて正確な記述を心がけている人たちもいますから。
でもなあ、他のことなら時間をかけて調べる書き手でも、エロになると途端に手を抜く人たちがいるんですよ。今はネットでもこの手の記事はたくさん出ていますから、時間さえかければ、学生のアルバイトでももっとマシなものが書けるはずです。
こんな細かなところに気づく人はそうはいないでしょうから、「うちの読者のレベルではこんなもんでいいべ」という雑誌の方針もわからんではないし、「所詮エロ」というのも出版界一般の意識、読者一般の意識ではあるんですけど、我が人生をバカにされた気分です。
阿佐ケ谷ロフトでは、熱意と愛情をもってエロ雑誌に関わってきた人たちが、東京三世社を軸に、エロ雑誌の今昔を語る予定です。私は東京三世社で仕事をしたことが一度もないので、もっぱら歴史担当ですけど。
なお、※のついているものは、拙著『エロスの原風景』で触れていますので、参考にしてください。こういうひどい記事を見ると、パート2を早く作らなきゃと思います。
※2105[続・「週刊ポスト」掲載「懐かし昭和の『エロス雑誌』大全」のデタラメ]に続く。また、このイベント当日の様子については、2109[「ありがとう東京三世社〜総天然色の夢」のお礼とエロ雑誌の終焉]参照。
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[...] 本の出版社が潰れたところでなんとも思わない人がほとんどです。だからこそ「週刊ポスト」もあんな記事を出して恥じることはなく、一部の変わり者以外、それを批判することもない。 [...]
[...] 私の一方的な見方も含まれていましょうから、疑問のある方はyamachin_nuさんのツイートと私のツイートをご覧ください。また、yamachin_nuさんの反論をお待ちください。 せっかく無事に「ありがとう東京三世社〜総天然色の夢」を終われたのに、イヤな気分であります。 [...]
[...] ちなみに2104/緊急開催!! ありがとう東京三世社 、2105/続・「週刊ポスト」掲載「懐かし昭和の『エロス雑誌』大全」のデタラメ 、2121/エロ雑誌と実話雑誌(加筆あり) などで繰り返し『エ [...]