.book(ドットブック)版 【電子書籍版】電子書籍と出版 デジタル/ネットワーク化するメディア
希望小売価格:950円 + 税 (この商品は非再販商品です)
ISBN978-4-7808-5023-9 C0000
電子書籍
[2010年07月刊行]
内容紹介
本書には、大きく分けて以下の5本のテキストが収録されています。
Ⅰ─「2010年代の『出版』を考える」
IT企業の経営者であり、アルファブロガーとしても知られる橋本大也、文芸評論家、フリー編集者として電子書籍を追い続けてきた仲俣暁生と、早くから出版活動のネット展開を手がけてきた版元ドットコム組合員である高島利行、沢辺均の4人が語る、「電子書籍の可能性」「書き手、出版社はどう変わるか?」。
Ⅱ─「電子出版時代の編集者」
2009年10月に、アルファブロガー・小飼弾氏との著書『弾言』と『決弾』のiPhoneアプリ版を製作し、自らの会社から発売したフリーライター/編集者の山路達也に訊く、書籍の執筆・編集から電子書籍の製作、そして発売後のフォローアップまで、多様化する編集者/コンテンツ製作者の「仕事」。
Ⅲ─「20年後の出版をどう定義するか」
電子書籍の権利やフォーマット、教育現場での使用に詳しい東京電機大学出版局の植村八潮に訊く、「書籍が電子化される」ということの根源的な意味、「本であること」と「紙であること」はどう違い、どう結びついているのか?
Ⅳ─「出版業界の現状をどう見るか」
出版、そしてメディア産業全体の動向を20年間追い続けている「文化通信」編集長・星野渉が解説する、出版業界の現状と、急激な変化の要因。
Ⅴ─「編集者とデザイナーのためのXML勉強会」
元「ワイアード日本版」のテクニカルディレクター兼副編集長を務めた深沢英次による、タグつきテキスト、XMLの「基本構造」を理解するための解説。
電子書籍の登場により、出版をめぐる状況はどう変わるのか?
さまざまな分野でその変化の最前線に立つ人びとに、「いま」を訊きました。
詳細な用語解説付き。
目次
はじめに
Ⅰ 2010年代の「出版」を考える
高島利行(株式会社語研取締役営業部長/版元ドットコム有限責任事業組合組合員)
仲俣暁生(フリー編集者・文筆家/「マガジン航」編集人)
橋本大也(データセクション株式会社取締役会長/ブログ「情報考学」運営)
沢辺均(ポット出版代表取締役/版元ドットコム有限責任事業組合組合員)
Ⅱ 電子出版時代の編集者
山路達也(フリーライター・編集者)
Ⅲ 20年後の出版をどう定義するか
植村八潮(東京電機大学出版局長/日本出版学会副会長)
Ⅳ 出版業界の現状をどう見るか
星野渉(「文化通信」編集長)
Ⅴ 編集者とデザイナーのためのXML勉強会
深沢英次(メディアシステム・ディレクター/グラフィックデザイナー)
前書きなど
今、出版はとっても面白い状況にあるんじゃないだろうか?
電子書籍は、iPadなどの新たな機器(デバイス)の到来を迎えて、机に置かれたパソコンから解き放たれて、紙の本と同じようにいつでもどこでも読みたいときに読めるものになってきた。読書の機会は、より広がる。新たな機器もこれからますます増えていきそうだ。今後、多くの人に支持される一つの機器に集約されていくのか、あるいはさまざまな機器がすみわけていくのかはわからないけれど。
電子書籍の拡大は、出版「社」をなくすことはあっても、出版というおこない自体をなくすことにはならない。
出版とはなんだろうか?
私は、(1)文字や絵・図表などを使って、(2)選別して、(3)知識や情報を、(4)複数の人に発信していくことだと考えている。
電子書籍は、デジタルとネットワークを利用して、この出版をおこなうことである。
デジタルとネットワークを利用することで、当然これまでの紙とは変化する点はある。
(1)についていえば、文字や、絵、図表に加えて、音や動画も加えることができる。(2)の選別については、これは、すでに選別しようのないほどの、膨大な書記言語がネットワーク上にあふれている。逆に選別しないからこその面白さもある。(4)についていえば、複数の人に発信することは、ほとんど無料でだれもができる。
こうした点は、すでに従来の出版と大きく様変わりし、出版はだれもができるモノに近づきつつある。
こういった変化は、これまで出版をする側をほとんど独占してきた出版「社」から独占を奪い取る可能性がある。
デジタルとネットワークの時代、制作コスト・流通コストが大幅に下がることで、資金調達力のあるなし、取次との取引のあるなし、といった「既得権」の意味はどんどんなくなっている。
電子書籍の出現で、今後、既存の出版社が一部、あるいは全部なくなってしまう可能性だって大いにある、ということだ。
出版社がなくなるなら、それは自社も含めてやむを得ないと私は思っている。
たとえば、1960年の三井三池炭坑の労働争議が象徴するように、石炭は石油にとって変わって(ほとんど)なくなってしまった。
いや、私たち普通の人々も石油を選んで石炭を捨てたのだから「なくしてしまった」のだ。
出版社が石炭になってしまう可能性は十分にある。
しかし、出版というおこないは石炭ではない。出版=エネルギーそのものだと思うからだ。
その担い手が従来の出版社でなくなるかもしれないというだけだ。
あらたに勃興するかもしれない人たちの生み出すものが出版の主流を担うかもしれない。
より多くの人が、出版をはじめられる、まったくいい時代だ。量的な拡大が即質的な成長をもたらすわけではないけれど、量が増えることは、すくなくとも質の成長をうながす要素の一つではあるだろう。
電子書籍の到来は、既得権を持っていた人には脅威かもしれないが、より多くの人に出版というおこないがひらかれるという点においては、「出版」の可能性はますます広がる。面白い時代になると思う。
では、電子書籍の利点とはなんだろう。
すでにいろんなアイディアが出されている。
・一度購入したら、自分が持つさまざまなデバイスでいつでもどこでも気軽に読める。Kindle(キンドル)は、仕事場のパソコンでも、家のパソコンでも、スマートフォンでも、iPadでも、一度読む権利を購入すれば、自分のさまざまなマシンで読むことができる。しかも自分が閉じたページからそのまま読み継げる。これが、Kindleが好評である一つの理由だ。
・文章に線が引ける、本文中を検索できる、複数の蔵書を横断して中身を検索することができる。さらにそれを公開して、多くの人の線を引いた箇所を重ねてみたり、あるいは自分で線を引いたところから検索したり、それを複数の蔵書を横断して検索したり。
・面白いと思った箇所は、自身のブログやTwitterにコピペできる。それに共感した人が口コミで話題を広げていく。
・デジタルであれば、文字数の制限が大幅に緩和される。紙の本であれば、文字数が少なすぎて本にならない、逆に、多すぎて印刷費用がかかりすぎる、などということに迷ってきた。43字、17行で、256ページ、などといった本の基本フォーマットがあたまにこびりついた。デジタルであれば、これらの制約は大幅に減るはずである。
これらは単なるアイディアにとどまっているものもあるし、すでに実現されているものもある。
こうした電子書籍だからこその利用方法をさまざま生み出すことが、デジタルとネットワークの時代の出版の課題だと思っている。
ただ一つ、気になることがある。
電子書籍はもてはやされているが、その成果が利用ではなくむしろ制限へと向かっていないだろうか。
デジタル・ネットワークの世界では、コピーや公開はより簡単にできる。著作者の権利を守るために違法行為の取り締まりの強化を求めるのはわかる。
しかし、著作権の尊重の本来の意味は何なのか。
著作権法で「思想又は感情を創作的に表現したもの……」とされる著作物だが、そもそもだれか一人の完全なオリジナルな著作物というのは、あり得ない。
それ以前に作られた著作物の成果を利用して連綿と生み出されてきたのであって、そうやってみなに開かれ、利用されてきたからこそ、あらたな創作が生まれてきたのである。
著作物はむしろ利用されるためにある、これがイチバンのオオモトなのではないだろうか?
著作権は、著作物を生み出した人の財産権として成立している。一定の利用料金を支払って、利用の目的などを問わずに利用しあう、これが、著作物を生み出した人への敬意である。
今ますます、著作権のありようが捩れていないか、と思う。
数年前、ポット出版で発行した『オカマは差別か』という単行本がある。
雑誌「週刊金曜日」に掲載された、東郷健の人物ルポにつけられたタイトル「伝説のオカマ」をめぐって、あるゲイ団体がゲイ差別表現だと抗議をしたことに端を発し、その抗議を受けて、編集部は謝罪してあらたな特集をつくった。
しかし、いっぽう「オカマという表現は差別じゃない」というゲイの人たちもいて、彼らからも声があがった。
そこで、週刊金曜日の担当編集者も交えて「オカマは差別か」を議論し、本にした。
そして、この本のなかに、記事になった謝罪特集をすべて掲載したいと「週刊金曜日」に申し込んだが、編集部からは、本の編集方針がよくないので、と断られた。あきらかに著作権をその根拠にしていた。
こんなふうに現場では、著作権の「悪用」がまかり通っている。利用され、多くの人が読めるようにという著作物のイチバンオオモトが、著作権利用の現場でないがしろにされている。
これが、著作物のありようをめぐる、「利用」より「制限」という捩れだと思うのだ。
この捩れが電子化の現場においても、そのまま持ち込まれていないか?
簡単に検索できる、コピペできる、今まで紙の本ではできなかったことがデジタルではやすやすとできる。デジタルの特性を活かす、という視点をもって、電子書籍のありようを考えていきたいと思う。
出版社の未来には困難が横たわっているけれど、出版そのものには可能性のある未来がある。本書では、電子書籍と出版を考えるにおいて、機器や技術をふまえたうえで、出版とはどういうおこないなのか、あらためて根源的な問い掛けをしたいと考えた。
この本は、ポット出版のウェブサイトに掲載したもの、トークセッションや講演などをまとめたものだ。
こうした問いに正面から向きあったものにできたと思っている。
2010年6月18日 沢辺均(ポット出版)
著者プロフィール
高島 利行(タカシマ トシユキ)
1965年生まれ。株式会社語研取締役営業部長、版元ドットコム有限責任事業組合組合員、日本出版学会会員。
仲俣 暁生(ナカマタ アキオ)
橋本 大也(ハシモト ダイヤ)
山路 達也(ヤマジ タツヤ)
植村 八潮(ウエムラ ヤシオ)
星野 渉(ホシノ ワタル)
深沢 英次(フカサワ エイジ)
沢辺 均(サワベ キン)
追記
収録原稿の初出一覧
2010年代の「出版」を考える●イベント「2010年代の『出版』を考える」(2010年2月1日開催)
電子出版時代の編集者●ポット出版ウェブサイト「談話室沢辺」(2010年3月2日公開)
20年後の出版をどう定義するか●ポット出版ウェブサイト「談話室沢辺」(2010年5月10日、11日公開)
出版業界の現状をどう見るか●「図書館政策セミナー」講演「出版をめぐる変化と図書館の課題」
編集者とデザイナーのためのXML勉強会●ボイジャーウェブサイト「マガジン航」(2010年4月28日公開)
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