2004-01-21

第12回 POS実売データの分析と活用

今回は2003年12月8日付けの文化通信増刊『文化通信bBB』に寄稿した原稿を再録いたします(一部、加筆修正。リンクも追加)。文化通信は出版・新聞・広告の業界情報誌です。なお、掲載時のタイトルは「やれる!! できた!! 中小出版社のPOSデータ活用事例」でした。

◎Link→ 文化通信のWebサイト

●弊社で使用しているPOS実売データについて

弊社は、稼動アイテム数約300、昨年は14点の新刊、売り上げは4億円を切る程度、社員12名の、語学専門の出版社です。
大手出版社と同様のデータを使う意味はないとも言えるのですが、弊社では、次に挙げるデータを使用しています。
PubLine(紀伊國屋書店の日次実売・納返品・在庫データ、コストは月10万円)、WeBRAIN(平安堂など123店舗の日次実売・納返品・在庫データ、月2万円)、P-Net(全国約4000店舗の月次実売データ、月5万円程度)
(※上記の金額以外にかかる費用もあります。)
お金がかかっています。このデータをどう活用するか、大きな課題です。
データは社内でデータベースソフト(ACCESS)によって一次加工し、表計算ソフト(EXCEL)を利用して誰でもが簡単に見られる状態にしています。データを活用するにはデータベースの知識は必須です。社内で処理できないとなると外部委託ということになり、コストが跳ね上がります。

編集主導でPubLineを導入したという流れもあり、PubLineの使用頻度は高いと思います。編集部では企画立案にPubLineの数字を重要視しています。自社だけでなく他社の数字も詳細に検討したうえで企画の可否を決めています。
営業部ではP-Netの数字を重視しています。店舗数が多く、全体としての傾向と同時に個店・単品の状況についても分かるからです。ただし、速報性や日次推移、在庫や返品状況、他社の売行についてはPubLineやWeBRAINでないとわからない(P-Netは月次利用のため)ので、そちらを使用します。
こうしたデータには上記のようにそれぞれ特徴がありますが、それらの導入によって次に挙げるような効果がありました。

▼Link
PubLineの入口・問合せ先
WeBRAINの説明・問合せ先
P-Netの説明・問合せ先

▼図表

PubLineの画面(例)

1●返品率が大幅に下がった

50%近い返品率が30%近くまで急落しました。ただし、返品の多い店舗に無駄な納品をしない?営業が余分な注文をとらない、というやり方のため、一時的に売り上げは激減しました。

【補注】
店舗毎の実売を確認したうえでそれに見合った数だけの受注を、というのが理想ですが、実際には細かくチェックするのは大変です。『連載第2回 書店向け一覧注文書』の中で売行ランクについて触れていますが、実売に基づいた売行ランクを明示しておくだけでも無駄な受注は大きく減らせます。今後の課題として、規模や立地に見合ったランクの設定も考えています。

▼Link
第2回 書店向け一覧注文書

2●新刊の配本が効率的に

配本はちょっと特殊なやり方で行っているため、あまり参考にならないとは思いますが、配本を取次に任せている出版社にとっても、事前に営業をかけるべき店舗の規模などが見えてくる効果はあると思います。

3●新刊、増刷の部数決定

新刊の部数は自社他社の類似企画の売行によって、増刷部数は売行を参考に今後の販促予定も考慮に入れて決定しています。初刷5千〜1万部、ほとんどの商品を1年以内に増刷します。増刷部数は1年から2年で消化できる部数を目標にしています。

4●直接的な販促・営業

どこ(お店・地域などの地理的条件)に、いつ(季節や月末月初などの時期的条件)、どれぐらい(平台か棚か)。営業のTPOを判断したり、お店をどう説得するか、という点において効果は絶大です。最近はデータの取れないお店に営業に行くと不安です。

5●売筋・死筋商品の見極め

いわゆるABC分析ですが、ランクとして上位20%以内の商品で売上の80%をカバーする、という傾向は弊社のような小さい会社でも如実に現れます。売筋はより伸ばし、死筋は切り捨てるのが原則です。ここで「まだ売れるんじゃないか」と逡巡すると無駄な納返品を増やしてしまったり不良在庫を抱えたりしてしまうことになるため、その辺はかなりドライに割り切っています。が、それと矛盾するようですが、弊社のように古い商品でも長く売っているような出版社の場合、一概にそれだけとも言い切れない傾向もあるのは事実です。また、売れない下位ランク商品の中に重要なシリーズの一部を構成する商品が入っているような場合、単純に切り捨ててしまうのは難しいです。そのため、単品としての売筋・死筋を見極めるのと同時に、シリーズとしての売筋・死筋、ジャンルとしての売筋・死筋も見極めるように心掛けています。

この話は書店の棚を想定していただければ分かりやすいかと思います。一つのジャンルの棚を作る場合、ベストセラー商品だけでは棚は作れません。その中にはあまり動きが良くなくとも棚を形作るために必要な商品というものが必ずあります。単純に売行の良い順で並び替えただけでは見えてこない商品をどう棚に盛り込んでいくのか、 それが書店員の力量であるとするならば、出版営業も同様に、単純に売行だけで判断できない商品をどう見つけ維持していくか、それが力量であると考えています。

6●広告効果の測定

結局、広告を出していてもモノが並んでいないと効果が有ったか無かったかもわかりません。広告効果を測定する前に「並べる」という作業の重要さをあらためて認識しました。

▼Link
第5回●広告効果の測定

7●営業方法の検証

自社と同様に他社の売行を見直すと、各社の販売傾向が見えてきます。この販売傾向は各社の意識的な営業手法(例えば平積みを重視している商品と棚を重視している商品の違いであったり、重点ジャンルであったり)を反映しています。良いと思える手法は積極的に真似し、悪いと思う方法は採用しません。同時に、他社に出来て弊社で出来ないこと、これの理由も検証しています。

8●営業担当者の力量が明解に

個店別の実売が分かるだけでなく他店と比較できる、ということは、営業担当者の営業力とでもいうものが明確に分かる、ということでもあります。データを取り始めた頃は、どうしようもないほど個人差が出ました。ただし、営業のやり方を是正することによって差は劇的に縮まり、最終的にはなくなるはずだと信じています。

9●編集も営業も「書店のせい」と言い訳できなくなった

個店・単品の状態が分かってしまうため、売れない理由を書店に押しつけることはできなくなりました。特に同一店舗で他社と自社の比較(実売・納返品・在庫)などを行うと、かなり愕然とする結果が出てくることが多々あります。お店はけっこうシビアです。

●データを「分析」するということ

「分析」と言うと大げさですが、データを見る時間はある程度必要です。増刷部数の決定などの際は、今後の売上予測より今後の返品予測のほうが重要です。そのため、実売と納返品を統合したうえで、市中在庫の推測なども行っています。
データを加工するために社内の人間が全般的にEXCELを使えるようになったとか、データのやり取りを通してPC全般に慣れてきた等々、そういう意味での効果も多々あります。
上記の「効果」は「データを見た後、何かをやった」からのものであって「データを見ているだけ」、つまり、PubLineやWeBRAIN、P-Netを導入しただけで魔法のように何かが変るわけではありません。その点はよくよくご注意ください。