2005-04-15

映画評『Va, vis et deviens』……イスラエルに逃亡したエチオピア人の物語……

二時二〇分という比較的長い作品であるのに、けっして間延びすることはなかった。

1984年、スーダンにある砂漠の中に立てられた難民キャンプを飢餓が襲った。イスラエルはユダヤ系エチオピア人(黒人)を救済するため、彼らをイスラエルへと送り出す。キリスト教徒の女性は我が子の命を守るために、9歳の息子に「ユダヤ教徒である」と偽らせ、イスラエルへ行かせる。息子は現地で、フランス語を話す白人の夫妻に引き取られ、大切に育てられていく。

ユダヤ人でありながら、肌が黒い故に差別されるアフリカ大陸出身のユダヤ人の姿や、彼の成長と、それを取り巻くイスラエル社会の変化が描かれる。湾岸戦争の折には防毒マスクを身につけ、ラビン首相とアラファト議長のオスロ合意の模様がながれ、パレスチナとの紛争では彼は従軍する。

映画の後半では、彼の恋愛が中心にうつっていく。

社会派作品であると同時に、個人の内面も丁寧に描かれている。政治的主題につぶされることなく、恋愛映画としても完成している。

わたしはこの映画を観ている間も、見終わった後も、ずっと困惑させられている。

−ユダヤ社会内の人種差別
−パレスチナ問題
−アフリカ大陸の貧困と飢饉
−イスラエル社会の実相
−ユダヤ教の慣習
−母に捨てられた子どもの苦悩
−養子としての苦悩

自分の在処を探して漂う彼の居心地の悪さは、最後まで解消されない。ラストシーンはあたかもハッピーエンドであるかのような手法がとられているが、観客をすっきりさせない終わり方になっている。
ルワンダの悲劇を描いた『ホテル・ルワンダ』に心ひかれつつ、しかし、どこか違和感を覚えたてしまったのは、最後が幸せな終わり方だからだ。あつかった主題と御約束的な終わり方の距離はとても遠いように思えた。