2005-10-12

【ルポ】極右との対話2……二日目……

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写真は及川健二が撮影したものです。左がブルノー=ゴールニッシュ『国民戦線』全国代理・欧州議会議員、右が云わずと知れたジャンマリー=ルペン『国民戦線』党首です。ブルノーさんが日本語を流暢に話します。

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演台に立ち演説をしているルペン党首。原稿にずっと目を落としていた。

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ルペン党首の演説が始まる前に、ステージ上は三色旗で一杯になった。

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ルペン氏演説の30分前。すでに座席は埋まっていた。

10月9日、極右政党『国民戦線』主催の「BBR」二日目にして最終日。
14:00からブルノー=ゴールニッシュ全国代理をゲストとしたシンポジウムが開かれることになっていた。14:20ごろ会場に私はついた。

その日も雲一つない快晴で初夏のように暑い日だった。

記者用の部屋にいくと受付に、広報担当のブロンド女性が立っている。

「Bonjour」

と挨拶すると、首を少し斜めにかたむけて「Bonjour」といって微笑んだ。けふもまた黒のスーツにミニスカートをはきブーツを履いている。わたしはワインレッドのワイシャツ(chemise)に深い赤系のネクタイを締め、黒いジャケットを羽織っていたのだが、会場内は冷房がなく熱気が充満していたので、ジャケットを記者室の椅子におき、ワイシャツの袖をまくり、取材へと向かった。

フランスで取材するときは必ずと言っていいほどネクタイを締めていく。東洋系の顔をしているとセキュリティから不審がられることがあるので、彼/彼女らからなるべく警戒されないように格好だけは整ったものにしようとつとめている。フランス人ジャーナリストやカメラマンなんぞは、テレビのリポーターは別として、半袖シャツで来る人もおりずいぶんくだけているのだが。

会場は前日にくらべて人の数が多く、どこのテナントも賑わっている。ビニールの巨大テント内に特設されたシンポジウム会場につくと、300ほど用意されたパイプ椅子はすべて埋まっており立ち見も出るほどの盛況だ。ステージにはゴールニッシュさんを真ん中にして五人のパネリストがソファーのように柔らかそうな椅子に座っている。通気口がないために人とライトの熱気で蒸し風呂状態になっており、カメラを構え写真を撮影すると額に汗が滲んでくる。ゴールニッシュさんをファインダーの真ん中におさめて写真を何枚か撮ってから、すぐに会場を出た。外も涼しいわけではないのに、額がひんやりした。

16:30からジャンマリ=ルペン党首の大演説が行われる予定になっているので、時間をつぶすべく会場をふらついていると、記者団に囲まれながら各テナントを視察し支持者と交流しているルペン党首と出くわした。私もそのあとをついていったのだが、視察も終盤だったようで10分ぐらいたつと外の空気を吸いに出ていってしまった。なお追おうとおもったのだが、スーツに身を包みイヤホンをつけた警護(セキュリティ)の男性10人ばかりが立ちはだかり、それ以上の取材を拒む。きっと、演説にそなえてしばらくの休息をとるのだろう。

わたしはそのあと、「イラク子ども SOS」のテナントにいった。ルペン党首のワイフ・ジャニーさんが客をもてなしている。薄暗く蝋燭を光にしているテント内にはソファーがもうけられ、水タバコを吸っている人や、イラクのお茶を飲んでいる人がいる。受付には、ジャニーさんがイラクの子どもの窮状について書いた本が置かれている。

16:00を少し過ぎた頃に、演説が行われるステージに赴いた。でっかい舞台が用意され、30以上はあるであろう青や白のスポットライトに照らされる。ステージの前には1500近くあるというパイプ椅子が用意され、すでにその席はほとんど埋まるところだった。

まずは会場の後ろから、全体を撮影しようと思った。高いところから撮影したいので、白い椅子をひとつ拝借して、その上に立ち何枚か撮った。それからステージ真ん前までいった。最前列の左側には、退役軍人の一団が旗をもって座っている。その横の一団の真ん中に、カール=ラング書記長の顔があった。党幹部が座る席からはずいぶんと放されているのが、気にかかった。中央の最前列にはすでにジャニー夫人とその娘マリーヌ=ルペン欧州議会議員、女性副党首のマルティーヌ=レイデュー(Martine LEHIDEUX)さんの顔があった。しばらくするとゴールニッシュ欧州議会議員がやってきた。ジャニー夫人からキスを受けた後マリーヌさんの隣に座る。

私は中央の通路をとおりもう一度会場の後ろに回った。

国民戦線の大集会では必ず司会をつとめる若手幹部、マルティアル=ビルド(Martial BILD)さんが叫んだら、オーケストラの音楽がかけられ、六大学野球の試合時に応援部が持ってくるように大きな三色旗を持ち白いお揃いのTシャツを着た10代20代の男女・50名近くがステージ上に並んだ。会場も立ち上がり、三色旗をふる。フランス国旗がゆっくりなびき揺れる。サッカーのサポーターのように赤色と青色と白色のマーカーを顔にひいた男女が多い。ステージの前にいくと、みんな緊張した面もちで旗を持っている。それにしても、このパフォーマンスをどこかで見たことがあるな……と既視感(deja-vu)にとらわれて、思い出した。フィリップ=ドヴィリエ党首率いる右翼政党「フランスのための運動」の集会でも、10代の男女がTシャツを着てフランス国旗をふったり、ドヴィリエ氏のポスターをかざしたりしていた。

旗を持った若者たちが退場したあと、ビルド司会者のアジテーションのあと、ルペン党首の入場が宣言された。会場にオーケストラのミュージックが鳴り響く。聴衆は立ち上がり後ろを振り向き、拍手をしながらルペン・コールを上げる。ジャニー夫人もマリーヌさんも笑顔で一所懸命拍手する。ブルーのスポットライトがくるくるまわる。プロレスラーが入場するような派手派手しさだ。

スーツ姿の警備員に囲まれたルペン氏は笑顔全快でゆっくりと歩きステージ上にあがると両手をふりあげ、ガッツボーズをとった。

「ウォーーーー」

という聴衆の絶叫と党員・支持者の党首コールが会場に響き渡る。興奮のあまり卒倒する人が出るのではないか……と心配になるぐらいの盛り上がりだ。ステージを端から端まで歩き聴衆の声援に応え、プラスティックでできた透明な円台の前に立った。おもむろに原稿を置く。ステージの両脇には、巨大スクリーンがとりつけられ、党首の顔をアップにする。ライトグレーのスーツにライトグリーンのネクタイだ。
ネクタイは5月1日の「ジャンヌ・ダルク祭」につけていたものと同じ色であることに気がついた。

聴衆が静まるとルペン党首の演説が始まった。

政敵の名前があがるとブーイングが起き、ユーモアを交えると笑いが起きる。
力強い言葉を発すると拍手とともにルペン・コールが起こる。ギャグが受けるとルペン氏はにんまり笑う。

演説する姿を写真におさめようと思うのだが、90%ぐらいの時間はずっと原稿を読み顔をあげない。顔をあげてもすぐに下を向いてしまう。ルペン党首は左目に義眼を入れている上、77歳という高齢だから、原稿を放して演説するのは困難なことなのかもしれない。しかしながら、だみ声でまくし立てる演説の迫力は少しも衰えない。間の取り方といい、ときおり手を高くふりあげると動作といい、聴衆を飽きさせない技術を未だに保持し得ている。

演説の開始から一時間ぐらい立ち、政敵の名をひとりひとりあげ、批判をくわえていく。なかでも時間を割いて批判したのは、新しい右翼のカリスマとして注目されるフィリップ=ドヴィリエ氏の部分だ。わたしはドヴィリエ批判を聞くことを楽しみにしていた。いったいどのような切り口で非難するのか気になっていた。ドヴィリエ氏の名前があがると会場からブーイングが起こった。真正面から批判するのでなく、ドヴィリエ氏を「パクリ屋」「客引き」とからかい、こき下ろした。会場からは笑いが起こった。

演説の時間がきたのだろうか、スタッフがステージ下から「あと五分」「あと三分」「終了」というプラカードを出すのだが、党首はまったく見ない。見えないのか、無視しているのか分からない。スタッフも諦めて席に戻ってしまった。

演説の最後になったら、ルペン氏は顔を上げ原稿から目を離し、演台を離れ歩き出した。そして、両手を振り上げ、絶叫し演説を締めくくった。カメラマンがステージ真下に集結し、フラッシュがたかれる。ルペン党首の真ん前という最もいい場所に陣取って写真をとっていたら、フランス人のカメラマンが「もう十分撮っただろう。俺とかわってくれ」という。なんつー厚かましいやっちゃ。ステージには幹部やジャニーさんなどが並び、ルペンが国歌を歌い始めるとみんなそれにあわせて合唱を始めた。