2007-08-24

仏・極右政党トップが6年前に吐いた正論(上) 今、改めてイラク戦開戦の責任を問う

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オーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。

主題:仏・極右政党トップが6年前に吐いた正論(上)
副題:今、改めてイラク戦開戦の責任を問う

【本文】

 イラク戦争の終戦から4年経ったにも関わらず、まったく復興の兆しの見えないイラク。

 イラク国内の混乱が長期化するにつれ、イラク戦争を開戦した者の責任が改めて浮き上がってくる。

 フランス政府が開戦に反対したのは周知の事実だが、フランス国内では極右政党も戦争に反対した。ジャンマリー・ルペン党首(79)が率いる極右政党「国民戦線」は、議席を持つ欧州議会で反戦の意志を明確に演説し、国内においては大規模な反戦集会を開いた。

 イラク戦争が始まってからは、多くの反戦グループが消沈している中で、パリ市内でルペン党首を弁士に「がんばれ、イラク!」という集会を開いた。

 極右政党がイラク戦争に反対した理由は何か?そもそも、「9.11テロ」の世界観からして、米国と異なる。2001年9月11日に米国でテロが起きてから2週間たった後、2001年9月23日に「青・白・赤の祭典2001」(BBR)でルペン党首が行った演説がすさまじい。9.11テロの直後に行った演説であるにもかかわらず、今なお、読み応えのある内容になっている。「米国こそ反省すべし!」という正論を吐き、テロリズム原論とでも呼ぶべき緻密な議論を行っている。彼は主に以下、5つの主張をする。

1. テロの起源はフランス革命にあり。
2. テロとは弱者の武器である。
3. 広島・長崎の原爆や、イラク攻撃こそテロである。
4. 反省すべきは米国である。
5. 米国の悲劇を絶対視してはならない。

 そして、ルペン氏は詳しく語る。

 「テロリズムを糾弾し、テロと闘うためならば執拗かつ長い戦争をも厭わない趨勢に世界的になっている以上、真正面からテロについて論ずる必要があるかも知れない。今日において、テロリズムに如何なる普遍的定義を与えうるだろうか。私は、次のように定義づけたい。テロリズムとは、一般市民が依るべきところとしている政府に圧力をかけるために、市民を標的にして死やひどい苦しみを押しつける手法すべてである。内部の面では占領をつづけ権力を保持するためになされるのであり、外部の面では時の政権を放逐するためにおこなわれる。

 哀しいことにフランス革命が、テロを行った最初のものであるということを知る必要がある。そのうえ、「テラー」(terreur 恐怖政治)という語は、フランス革命後の1793~1794年の間に作り出されたのだ。ロベスピエール、マラー、サン=ジュスト、ダントンは、人々を恐怖させることによって革命政府を権力の座に留めるため、自称『人道主義』という理想の下に数千の男女をギロチン送りにした」

「テロは弱者の武器」

 ルペン氏は、つづけてテロリズムの性格について述べる。

 「20世紀の社会主義の独裁者どもは、国内外にかかわらずまさにフランス革命の申し子であったわけだが、共産主義のために何百万もの人々を虐殺していった。これなぞは、政府によってなされた恐怖政治だ。

 テロリズムというのは、以上述べたとおり統治する方法でありうるし、権力を奪取する戦術でもありうる。なにも現政権、権力を恫喝、攻撃することだけが狙いではなく、脅しと犯罪によって自分らに合流・奉仕することを市民に強いることを狙う場合もある。たとえば、コルシカ島のテロなどはその良い例だ。

 テロリズムは、諸政府が遵守する(あるいは遵守すべきだと主張する)戦争法、平和法を拒絶する。テロとは弱者の武器なのであり、極端なまでの暴力は、彼らのハンディキャップを補うものなのだ。今日、現存するいくつかの国はテロによって生まれたのであり、周期的・連続的なテロの実践を経験してきた」

「広島・長崎の原爆や、イラク攻撃こそテロだ」

 ルペン氏は、さらに続けて、「広島と長崎への原爆投下や、イラク攻撃こそテロである」と持論を展開する。演説のハイライト部分だ。

 「外国から本土を攻撃された経験がなく、敵が傷を負わせ陵辱したがっていることなど思いもしなかったアメリカにおいてなされた、ニューヨークとワシントンを血みどろにした一連の空中攻撃は疑いなく、私が上述したテロリズムの定義に入る。

 しかしながら、テロというものは国家転覆を目論む秘密結社や革命組織によって独占されているわけではない。

 国家によるテロ」とも名付けうるものが存在している。第2次世界大戦において、数百万の一般市民を殺戮した大空爆なぞはその一例であろう。たとえば、英国のコベントリーやロンドンにおける空爆、たくさんの街々を破壊し数千の死者を出した占領下のフランスにおける空爆、軍事的施設でなかったドレスデンをはじめとしたドイツの大都市で行われた空爆(注1)、一夜にして20万人もの人々を殺戮した爆撃、あるいは広島・長崎の原爆投下。

 最近の例でいえば、軍隊を地上に投入しなくてもすむように市民的施設、経済的施設を機械的に破壊し尽くしたユーゴスラヴィアにおける空爆がテロの定義に入る。あるいは、度重なる空爆によって逼迫しているイラクにおいては、同国が平和な状態であるにも関わらず、サダム=フセインを放逐するという目的のためだけに、10年にもわたって続けている容赦ない経済封鎖によって100万人以上の子どもたちを、米英連合が殺していっている。おまけに、定期的に空爆を続けている。これなぞもテロの範疇に入る。

 『(自分たちには)1人の死者も出さない』という米軍の理想は、無辜の市民の死、滅亡を敵対者に押しつけ、全国民に抑えられない憎悪をかき立てることがないのであれば、魅力的かも知れぬが、現実はそうではなかろう」

 ルペン氏よ、そこまでいうか、というところまで、アメリカをこき下ろしている。ルペン氏の言説が、フランスの一部有権者だけでなく、世界の一部市民でウケるのは、誰しもが心の奥底で思っていても言えない本音を言うからだろう。「建前の政治」に対する「本音の政治」がルペン氏の魅力となり得ている。

注1: ドレスデンの空爆とは、第2次世界大戦において、米軍と英軍によって1945年2月13日から15日にかけて、ドイツの都市ドレスデン(Dresden)に対して行われた無差別爆撃を指す。2万5000~3万5000人の死者が出た。

写真脚注:演説後、ガッツ・ポーズをとるジャンマリー=ルペン「国民戦線」党首(2006年9月、パリ郊外で、及川健二撮影)