2007-08-16

世界を騒がす孤高の闘士・ジョゼ=ボヴェ 「もう1つの世界は可能だ」と訴える

_12_0144.jpgオーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。

タイトル:世界を騒がす孤高の闘士・ジョゼ=ボヴェ
サブ・タイトル:「もう1つの世界は可能だ」と訴える

【本文】
 反グローバリズムの闘士・ジョゼ=ボヴェ(54)氏をご存じだろうか?

 彼はフランスの有名人だ。いや、世界的にも名前が知られている。南仏のラルザック地方で酪農を営むボヴェ氏はこれまで数々の「蛮勇」で名を馳(は)せてきた。

 1995年には、ボヴェ氏はジャック=シラク大統領が発表した核実験計画に反対。環境保護団体グリーンピースの船「虹の戦士(Rainbow Warrior)2号」に乗った唯一のフランス人である。

 ボヴェ氏らは実験に最後まで抵抗し、9月1日には核実験の中止を訴えゴムボートに乗ってタヒチのムルロア環礁核実験場海域に侵入した。ボヴェ氏らはフランス海軍によって拘束された。

 彼を一躍、有名にしたのは、1999年8月12日に行ったパフォーマンスだ。

 南仏のミヨ市にマクドナルドの店舗が建設中だった。ボヴェ氏はマクドナルドを「多国籍企業による文化破壊の象徴」と見立てて、建設現場に赴き、仲間と共に同店舗を解体した。このド派手なパフォーマンスはフランスのメディアで大々的に報じられ、ボヴェ氏は全仏で知られるようになった。ボヴェ氏はその後、逮捕され、2002年に3カ月の禁固刑に服した。

 1999年には11月30日から12月3日に米国シアトルで行われるWTO(世界貿易機構)閣僚会議に抗議するデモに参加するため渡米した。同デモの参加者は数万人単位にふくれあがり、シアトルは非常事態宣言や夜間外出禁止令まで出る騒ぎになった。WTOを「健康と食料、労働などあらゆる人間の営みに侵食する『執行権』『立法権』『裁判権』を兼ね備えた『市場原理主義の超権力』である」と断罪し、抗議デモに参加するボヴェ氏の英姿はフランス・メディアで取り上げられた。

 2002年3月には、イスラエル軍によって「監禁状態」に置かれていたパレスチナ自治政府のヤセル=アラファト議長のもとを同志50余名と共に訪れ、「人間の盾」になると宣言した。この行動は世界で報じられた。ボヴェ氏はイスラエル軍に捕捉され、国外退去処分となった。

 そんな数々の武勇伝を誇るボヴェ氏が今春のフランス大統領選挙へ出馬すると宣言したのは、今年2月1日のことだった。新聞は一面で「ボヴェ、出馬」と報じたが、「500名の署名が集まるわけがない」との見方が大半だった。出馬時点で推薦を約束していたのは200名ばかりで、届け出が締め切られる3月16日まで1カ月足らずだった。しかし、ボヴェ氏は「504名」の推薦を集め、無事、立候補の手続きを済ませた。

 ボヴェ氏は自らを「反経済的自由主義の左派統一候補」と掲げた。主張は明快で、次のような政策を掲げた。

 (1)失業者を大幅に減らし、雇用不安をとりのぞく。優先課題として取り組む
 (2)搾取の象徴である多国籍企業を規制し、遺伝子組み換えや原発に反対する
 (3)出身、宗教、人種、性別などによるあらゆる差別と戦う。警察による人々への抑圧・弾圧はすぐにやめさせる
 (4)民主主義の徹底を実現する
 (5)社会的権利が保障される新しいヨーロッパを建設する
 (6)規制緩和・自由化をとめ、南北の貧困格差をなくす

 出馬表明でボヴェ氏は

 「今回の選挙は新自由主義に対する蜂起である」
 「私たちはフランス国民、中でも伝統的な左翼支持層を信じている人たちに、いまの政治に変わる新しい政治が可能であるといいたい」

 と強調した。そして、 

 「私の出馬は政党候補者のものとは明確に異なる。市民の力が結集したからこそ、出馬することになった」

 と、「超党派」で選挙運動を行うと述べた。

ボヴェ氏曰く「ニコラ=サルコジは極右の男だ」(ロイター) ボヴェ陣営の選挙対策における幹部には「フランス共産党」や「緑の党」、極左政党「革命的共産主義者同盟」の活動家らが名を連ねた。ボヴェ氏はジーンズ姿という普段着のまま全国を駆け回り、選挙運動を行った。

 しかし、選挙戦でボヴェ氏が政策の面でほかの左派候補と異なる「独自色」を出すことはなかった。ボヴェ氏が獲得したのはわずかに48万3008票(1.32%)だった。

 ボヴェ氏は落選後の会見で、

 「この結果は私たちが目指した票を下回るものだ」

 と、敗北を認めざるをえなかった。そして、最後に次のように加えた。

 「ニコラ=サルコジは極右の男だ。この男は危険だ。5月6日の決選投票で、彼に勝たせてはならない」。

 そして、サルコジ落選運動を始めることを宣言した。闘士の血がうずいたのだろう。しかし、サルコジ氏はフランス共和国の大統領に就任した。ボヴェ氏はサルコジ大統領を敵と見なし、これから、同氏と戦っていくという。孤高の闘士がどんな闘いをするのか? 要注目だ