2007-08-02
世界の名建築家、黒川氏を襲う政治的熱狂 連続最下位も「衆院選で政権奪取」と気勢
『日刊ベリタ』に【世界の名建築家、黒川氏を襲う政治的熱狂 連続最下位も「衆院選で政権奪取」と気勢】というタイトルの記事を執筆しましたので転載します。
【本文】
世界的な建築家として名声を築いてきた黒川紀章氏(73)が晩節を汚すかのように、政治に熱狂し「醜態」をさらしている。7月29日投開票された参議院議員選挙で東京選挙区から立候補、得票数は当選ラインに60万票も届かない7万票余りで、得票率は選挙初挑戦の今年4月の東京都知事選の2.9%を大きく下回った。党首である共生新党は比例区で14万6986票(同0.25%)と11政党・団体の中でダントツの最下位と散々だった。これで懲りたかと思いきや、次は衆院選に出馬し、政権を奪取するとブチ上げた。「政治パラノイア」に歯止めがかからなくなっている。
▼参院選前も「総理になる」
「都知事選から半年、共生新党の結成から3カ月。ようやく認知度も上がってきた。参院選は第2弾、第3弾になる次の衆院選ではいきますよ」。黒川氏は7月30日未明の記者会見で気勢を上げた。東京選挙区でトップ当選した川田龍平氏が獲得したのは68万3629票、民意は黒川氏を泡沫候補扱いした。比例区から出馬した妻で女優の若尾文子氏も同様に得票数6万5267票と惨敗した。
実は、今回の参院選前も「議員になって総理大臣になる」と大言壮語したばかりだった。「僕は最初から6カ月後に衆院選があると見て動いてきた。次はたくさんの当選者が出せるようにする」「政権奪取に向け、きょうからスタート」「自民、民主の大物を落とすために出馬する。菅(直人代表代行)を落とすか、小池(百合子防衛相)を落とすか…(石原慎太郎)都知事の息子もターゲットだな」と息巻いた。
▼巨匠に何が
ドイツのベルリン日独センターやパリ郊外のパシフィックタワー、マレーシアのクアラルンプール空港、オランダのゴッホ美術館の新館などの数々の設計を手がけ、スペインの国際都市賞、フランス芸術文化勲章、米国のリチャード・ノイトラ賞などを受賞するなど建築家としては頂点を極めた人物だ。この人に一体何が起こったのか。
端緒は今春の都知事選挙だ。黒川氏は石原慎太郎・知事の再選阻止、オリンピック招致の中止を高らかに掲げて出馬した。選挙戦では「金をかけた」派手なパフォーマンスと「変人キャラ」が際だち、マスコミの格好のターゲットとなった。
▼「奇人報道」で有権者に不信?
権威ある著名人の常識外れの行動はメディアの恰好の餌食となり、連日、面白おかしく伝えられた。都知事選をめぐる報道を振り返ってみる。
2月22日に立候補を表明した記者会見では「明日から釣りで徳島に行く」「投票日はパリにいます」と出馬が本気なのかどうか疑わせる発言を連発した。
知事選の初日には「約6000万円で購入した」という12人乗りの自家用クルーザーを運転して、隅田川を遡った。選挙戦中盤にはヘリで伊豆諸島を回った。ヘリのレンタル代は1時間約86万円。1000万円投じて改造した選挙カーには丸テーブル1つ、椅子5脚。シャープの薄型テレビやDVDプレーヤー、トイレも付いていた。選挙カーを先導したのは高級車センチュリー。
選挙期間中の3月30日には秋葉原のメイド喫茶を訪れ、「だんな様、お帰りなさいませ」の出迎えに満面の笑みを浮かべた。メイド嬢に「かわいいねー」と連発し、「『萌え』は日本の誇るべき文化だ」と発言した。
選挙戦最終盤の4月5日にはヘリコプターをチャーターし、八丈島を訪問。ところが、黒川氏は到着するなり趣味の釣りをした。釣り糸はピクリとも動かず、激昂して、予定していた遊説を中止、釣り場所を変えて再挑戦する始末。計2時間半かけ、結局、一匹も釣れなかった。黒川氏は魚が「買収に応じず、金満政治に反対の姿勢を示した」と意味不明のコメントをした。
昼食には生ビールを飲み、ほろ酔い気分になったのか、訪問を予定していた青ケ島行きを突然中止し、来訪を待っていた村長を愕然とさせた。
選挙戦最終日。街頭演説をする石原慎太郎・都知事のもとへ電撃訪問した。近くに陣取り、知事の実弟である故・石原裕次郎のヒット曲「銀座の恋の物語」をハンドマイクで熱唱した。そして、「慎太郎!オレの方が裕次郎よりうまいということが分かったか」と絶叫。本人は開票まで当選を信じていたという。
▼高校時代から「共生」の思想抱く
黒川氏は愛知県の仏教系の名門私立高校卒後、京都大工学部建築学科で学んだ。大学院は東京大に移り、建築学の世界的権威だった故丹下健三氏の研究室に入った。1996年に刊行された著書では「仏教思想の研究者であった高校時代の校長が提唱する共生の思想に大きな影響を受けた」と回顧している。
そうしてみると晩年にこの思想を基盤に「共生新党」を結成、現在の政治状況の変革、刷新を志したとしても決して奇異なことではない。実際、参院選での新党マニフェスト(政策)は、「ともいき仏教思想の発展」を基盤にして、優れた建築家としての学識、体験を生かした防災中心の国土計画、都市計画を提案、さらに財政再建、医療福祉政策、格差是正などを提唱している。
結局、政策は無視され、権威と名声を得た著名人が突然、「政治パラノイア」に陥り、その変人奇人ぶりをこれでもかとメディアを通じて報道されただけに終わっている。
ある民主党関係者はこう苦笑する。
「『世界の黒川』は一体どうしたんでしょうね。まさに裸の王様、周囲が見えていない。次期衆院選に『共生新党』を率いて出馬したところで政権獲得など夢物語、当選者ゼロになるのは火を見るよりも明らか。誰もとめる人はいなんでしょうか?まあ、恰好のネタを提供して関心を集め、有権者が少しでも政治や選挙に興味を持つならば、黒川さんも貢献しているといえますね。」
「金持ちの道楽」と揶揄されている黒川氏の爆走、独走は誰にも止められない。