2007-01-02
フランスから死刑を考える
フランソワ=ミッテラン前大統領の英断によってフランスで死刑が廃止されて昨年で25周年になりました。シラク大統領はフランス共和国憲法に「死刑廃止」を銘記するように憲法改正する意向です。
『朝日新聞』12月6日・朝刊で「(水/地平線)死刑廃止25年、民意の行方は パリ」という記事を沢村亙・特派員が書いています。以下、引用します。
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仏法曹団体がパリの法廷で開いた、死刑廃止25周年の記念式典をのぞいた。「大海の荒波を越えた船乗りのように私たちは誇らしい。バダンテール先生。ありがとう」。冒頭、黒い法服の若い弁護士が大声で礼を述べた。
ロベール=バダンテール氏は弁護士として死刑に異を唱え続け、社会党のミッテラン大統領が当選した81年、法相として死刑を廃止した。当時、国民の6割が死刑維持を望む状況で、なぜ廃止を決意したのか、それは民意に背くことではなかったのか、彼に会いたいと思ったのは、それをたずねたかったからだ。
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少し意地悪な質問から始めてみた。
――今も42%が死刑の復活を望んでますね。
こちらの意図を見透かしたかのように、いたずらっぽい笑みを浮かべて78歳の弁護士は答えた。
「正確に言おう。81年の議会採決の朝、死刑維持は63%だった。反対は32%しかいなかった。今は52%が死刑廃止を支持している。私はかねがね『死刑がないこと』を人々が自然に受け入れるまで一世代はかかると思っていた。刑罰に拷問がないことを現代人が受け入れたようにね」
――少なくとも当時は、国民の意思に反する政策だったのではありませんか。
「ミッテランは選挙中、死刑廃止が不人気なことを承知で、質問には『死刑に反対する』と答えた。そして国民は彼を大統領に選んだのだ」
「政治は灯台のようなものだ。未来に通じる道すじを照らす明かりで、現在の闇を映す鏡ではない。『世論調査の民主主義』は、真の民主主義ではありえない」
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政治はどこまで世論に忠実であるべきか。来春に大統領選を控えたフランスで、この問いがしばしば聞かれる。「フランスが嫌いなら出ていけ」と刺激的な言葉で移民規制を打ち出す与党政治家、ネットで国民から政策を募る野党政治家。02年大統領選での右翼の躍進を教訓に「政治を国民の本音に合わせよう」という衝動が感じ取れる。
バダンテール氏は、数々の再審裁判で死刑囚の弁護を引き受けた。8歳の男児を誘拐して殺した男、仮釈放後に再び殺人を犯した男――。「ギロチン台に送れ」。法廷の外で大合唱が起きるなか、国民から選ばれた陪審員に「ほとぼりが冷めた時、あなたは死刑という自分の決定と向き合うことになるのです」と懸命に語りかけ、終身刑への減刑評決を勝ち取った。
政治と世論をめぐる先の問いに、たぶん「正答」はない。「私は死刑支持派を非難したことはない。心を尽くして説明したのだ」。勇ましい演説、耳に心地よい言説が飛び交う喧噪(けんそう)の季節、バダンテール氏の「説明」という言葉が重く、新鮮に響いた。
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新聞のため紙面に限りがあるため、バダンテールさんによる死刑廃止論、ミッテラン前大統領が死刑を廃止した理由が十分には説明されていません。拙著『沸騰するフランス 暴動・極右・学生デモ・ジダンの頭突き』(花伝社)にフランスの人権活動家、ダニエル=ミッテラン前大統領夫人へのインタビューが掲載されています。ダニエルさんが何故、死刑に反対するのか、故・フランソワ=ミッテラン前大統領がなぜ死刑廃止を断行したのか突っ込んで議論しています。紙面を大きく割いていますので、御関心ある方は御覧ください。
バタンテール氏は「未来に通じる道すじを照らす明かりで、現在の闇を映す鏡ではない。『世論調査の民主主義』は、真の民主主義ではありえない」と語っています。ダニエルさんは日本でもフランソワのような政治家が国のトップに就けば死刑を廃止するだろうといっていました。つまり、「真の民主政治家」が誕生すれば……です。
ちなみに、フランス国民と死刑制度復活の世論について以下、紹介します。
http://2007.tns-sofres.com/etude.php?id=209
設問は「死刑制度は復活する必要がある」というものです。賛成は死刑復活論者、反対は現状通り死刑を廃止したままにしようという立場です。
★ 2000年5月
・ 賛成:45%
・ 反対:53%
★ 2002年5月
・ 賛成:36%
・ 反対:62%
★ 2003年11月
・ 賛成:40%
・ 反対:58%
★ 2005年12月
・ 賛成:34%
・ 反対:63%
★ 2006年12月
・ 賛成:33%
・ 反対:64%
3~4割は死刑制度復活に賛成していますが、5~6割以上のフランス国民は死刑制度に反対しています。