2007-05-12
サルコジ勝利の背景に高齢者の熱い支持 フランス大統領選に当選した背景
『オーマイニュース』に次のような記事を執筆しましたので、転載いたします。
タイトル:サルコジ勝利の背景に高齢者の熱い支持
サブ・タイトル:フランス大統領選に当選した背景
5月6日に決選投票が行われたフランス大統領選挙は、右派のニコラ・サルコジ氏(52)が1898万3408票(53.06%)を獲得して、1679万0611票(46.94%)を獲たセゴレーヌ・ロワイヤル氏(53)を退け、当選した。任期は5年。投票率は過去最高に迫る83.97%という高さだった。政権奪取を目指した社会党は1995年、2002年に続く3回連続の敗退となった。
6日夜、パリ市内で支持者を前に勝利宣言したサルコジ氏は、「皆さんを前にして私は感無量でいる。幼少のころから、偉大で歴史ある美しい国・フランスで生まれ育ってきたことに、言いようのない誇りを抱いてきたからだ」と感慨を述べた上で、「今夜の勝利は私だけのものではない。フランスの半分が勝ったのではなく、フランス全体が勝ったのだ。民主主義の勝利であり、私たちを団結させる価値の勝利であり、国を統一させる理想の勝利だ」と国内の融和を訴えた。
また、「フランス人の威厳やモラル、長所を取り戻し、再び誇りを持てるようにしたい。国民は過去との断絶、変化を選択した」と勝因を分析した上で、「私は改革を全国民と共に行う。団結と博愛の精神の下、変革を進める。誰も置き去りにされることはない」と改革への決意を語った。
「アメリカのパスポートを持ったフランス人」と左派から批判されながらも、「大の親米派」であることを公言してやまないサルコジ氏は、「歴史の悲劇に共に立ち向かう中で強固になった仏米両国の友情は信頼しうるものだと、友人であるアメリカのみなさんに私は訴えたい。アメリカが必要とするときは、フランスは必ず米国の傍らにいることを伝えたい」と、米仏の協調をアピールした。
世論調査で大差をつけられ、惨敗も予想されたロワイヤル氏だが、その差は219万票で、まずまずの善戦だったといえよう。支持者を前にロワイヤル氏は「私に投票した約1700万の有権者に心の底からお礼をいいたい。この盛り上がりが止まることはないと私はいいたい」「私たちが始めた運動をこれからも続けていきましょう」と述べ、6月10日、17日に行われる下院議員選挙で左派が勝利するために、運動を続けていくことをアピールした。
無党派層ではサルコジ氏が高得票
各種世論調査会社はサルコジ氏がなぜ、勝利したのか分析している。
大手イフォップ社は5月6日に3609人の有権者を対象に電話調査を行った。それによれば、18~24歳でロワイヤル氏に投票した人は58%で、サルコジ氏の42%を大きく引き離している。それに対し、70歳以上の有権者では68%と大多数がサルコジ氏に投票したと答えた。
社会的地位で見ると、ロワイヤル氏が失業者(75%が投票)や学生(58%)、公務員(57%)から多く票を集めたのに対し、サルコジ氏は自営業者(77%)や年金生活者(65%)から支持された。右派支持層の97%はサルコジ氏に投票し、左派支持層の94%がロワイヤル氏に投票した。勝敗の鍵を握ると見られていた無党派層では61%がサルコジ氏に投票し、39%のロワイヤル氏を大きく上回った。
「治安対策」「移民対策」でサルコジ氏が人気
TNS-Sofres社は同日、961人の有権者を対象に電話調査を行った。それによれば、第1回投票で極左候補に投票した有権者にもサルコジ氏は浸透し、18%の票を得た。決選投票で棄権を呼びかけた極右政党「国民戦線」ジャンマリー・ルペン党首に投票した有権者の中で棄権したのは16%にとどまり、67%がサルコジ氏に投票した。
第1回投票で3位につけたフランソワ・バイルー氏に投票した有権者はサルコジ氏、ロワイヤル氏に真っ二つに割れ、両候補ともバイルー票の43%を獲得した。
「次のテーマではどちらの候補が期待できるか」という質問では、サルコジ氏が「治安対策」や「移民対策」「国の負債(削減)」「欧州建設」「年金」「景気対策」「失業対策」でロワイヤル氏に対する信頼を上回った。ロワイヤル氏に対しては、「環境問題」「学校・教育問題」で、サルコジ氏より多くの人が「信頼する」と答えた。
サルコジ氏は高齢者の票で勝利した
選挙結果を受けて、社会学者でパリ政治学院のルイス・ショーヴェル教授が日刊「20ミニュット」のインタビューに応じ、サルコジの勝利を「年金生活者の存在があった」からだと指摘した。
「1968年に学生だった世代以上の有権者から投票権を奪っていたならば、間違いなくロワイヤル氏が当選していました。理論家の中には、残された人生に見合った投票制度を想像する人がいます。つまり、長生きしそうな人の票を重視するということです」
とショーヴェル教授は指摘する。年長者がサルコジ氏を支持した理由については次のように説明する。
「社会を守るためでも、国家のためでもありません。無為に過ごしている退職後の高齢者は1200万人存在しており、彼らの70%がこの10年で資産価値が少なくとも2倍は上がった不動産を所有しています。さらに、高齢者は年金を何の代償もなく受け取る権利があり、憲法が認めた収入だと考えています。彼らは自分たちの特権が奪われるのを恐れ、不安に感じています。サルコジ氏は、税率を一律に下げると公約しました」
当然、不動産にかかわる税金も引き下げられる。よって、資産を持つ高齢者はもうかる。サルコジ氏は年金の引き上げと、年金受給者の地位向上を公約した。
ショーヴェル教授は次のように嘆く。
「寿命が延び、高齢者の数が若い世代よりも多くなっています。次世代を担う若者より、高齢者の方が政治への影響力があるのが現状です」
史上まれに見る激戦として注目を集めたフランス大統領選挙は、全共闘世代以上の有権者の支持を多くとりつけたサルコジ氏の見事な戦略によって、勝敗が決まったといえよう。